―呼吸と心の状態は一致する
あなたが車を運転していたとします。突然、ボールが転がってきて、小さな子どもが飛び出してきたら……。おそらく、ハッと息を呑むはずです。この「息を呑む」というのは、呼吸で考えると、ハッと短く息を吸うことです。つまり、驚いたときやびっくりしたときには、私たちは短く息を吸う呼吸をしているのです。
ところが、温泉に浸かっていい気分になると、まったく違う呼吸をしています。
「あー、いい気分だなあ。ここの露天風呂、最高……」
こんなときは、ゆっくり長く吐く呼吸が中心になります。
驚いたとき、ゆったりとして気分がいいとき、やる気に満ちあふれているとき、失意のどん底にあるとき、イライラしているとき……、こうした「気分」や「心の状態」は、じつは呼吸の変化からとらえることができます。
言い方を換えれば、イライラしているときには、「イライラする呼吸」「イライラした心の状態の呼吸」を無意識のうちに行っているのです。また、快適、安心、いい気分でいたいときには、あなたはいつのまにか「快適な心になる呼吸」「安心する呼吸」「いい気分の呼吸」を行っているのです。
さあ、ここからが大切なポイントです。それは、心の状態と、そのときの呼吸は一致するということです。つまり、悲しい気分のときに、うれしい気分になる呼吸はしていないものなのです、絶対に。
誰でも、つねに幸せ、最高という気分でいたいはずです。瞬間瞬間の積み重ねが人生だとすれば、瞬間瞬間の「心の状態」が前向きで、肯定的で、充実したものであれば、幸せな人生になるはずです。
しかし、そうそう簡単に心の状態を変えることはできません。というよりも、心の状態を無理して変えようとしなくてもいいのです。まず、呼吸を変えることを考えましょう。なぜなら、心の状態は、イコール呼吸の仕方だからです。呼吸が心の状態をつくりだしているといってもいいのです。
あなたは、いまどんな心の状態でしょうか? その心の状態は、いつでも「呼吸とイコール」だということを覚えておいてください。
―いい人生にはいい呼吸が不可欠
私たちは、「オギャア」と産声をあげる(=息を吐く)ことからこの世でのスタートを切り、やがては1世紀弱で息を引きとる(=息を吸う)ことで生を終えます。つまり、「一生」というのは、呼吸(吐いて吸う)の繰り返しのドラマといってもいいでしょう。
ただ、ショッキングなことがあります。私たちが一生のあいだにする呼吸の回数は決まっているというのです。これは、いまから30年も前、私がまだ美青年(?)だったときに、呼吸法やヨガの研究家の方々から教えられました。
「松本君、人が一生のあいだにする呼吸の回数は決まっているんだ。つまりね、浅く、せかせかと、イライラしたせわしない呼吸をしていると、自分の“回数”を早く消化してしまうわけだ。つまり、早死だ」
「では、ゆっくりと長く呼吸したら長生きなんですね」
「そのとおり。長息は長生き、なのだよ」
どうですか? 科学的に証明されているわけではありませんが、「たしかにそうだよなあ」と思いませんか。私は、これは正しいと思っています。
先に、心の状態は呼吸の仕方と一致すると述べました。また、心の状態は変えにくいとも言いました。
それはそうでしょう。会社で上司から叱られた。取引先とのトラブルがあって落ち込んでいる。仕事はうまくいかないし、景気は悪い、などというときに、いくら、
「心の状態を前向きに」
「プラス思考が大事ですよ」
と言われても、パッと切り替えることはできません。心の状態はすぐには変えにくいのです。でも、その場ですぐにパッと変えられることがあります。そう、それが“呼吸の仕方”です。呼吸法、呼吸術と言ってもいいでしょう。
私は、「いい人生にしたければ、いい心の状態で生きること」が欠かせないと思っています。ただ、いい心の状態にするために、心だけ切り替えるのは難しいですが、呼吸を変えることは誰にでも手軽にできます。
つまり、「いい人生にしたければ、呼吸を変えよ」ということです。
―基本の腹式呼吸をマスターしよう
何かをしっかりと身につけるには、どんな分野でも基本をマスターすることが不可欠です。呼吸法もしかり。人生を変える呼吸法の基本として、腹式呼吸をマスターしましょう。
呼吸法を身につけるために共通するポイントは、次の3つです。

意識化する

吐く息中心の呼吸をマスターする

型から入る
腹式呼吸を繰り返して習慣化すれば、ほかの呼吸法を行う際に、この3つがとてもスムーズにできるようになります。野球でいえばランニングやキャッチボール、スピーチでいえば発声練習やリハーサルのような、“基本中の基本”が腹式呼吸なのです。まずは腹式呼吸をしっかりとマスターしましょう。
意識化する
まず、あなたが意識を体に向けることからスタートです。決して、何の気なしに呼吸をしてはいけません。腹式呼吸を意識化するには、息を吐くときにお腹をへこませることです。
自分が風船になったイメージを思い浮かべるといいでしょう。風船は、空気が出ている(息を吐く)ときはしぼんでいきます。つまり、吐く息とともにお腹をへこませるのです。

きちんと身につくまでは、あお向けに寝たほうがお腹がへこむのがよくわかり、意識化しやすくなります。補助的に、両手の平を重ねてお腹(おヘソのあたり)に乗せ、自分で息を吐くとともに、軽く両手に力を入れて下に押します。そして同時に、お腹をへこませていきます。
大半の呼吸法は鼻で吸って鼻で吐きますが、初心者のうちはお腹をへこませる感覚をつかむために、口から「フーッ」と音を出して吐いて、同時に両手の平で力を加えて、お腹をへこませてください。
吸う息については、あまり考えなくて大丈夫です。いっぱいまでフーッと吐き出すと、自然に息を吸うので、そのまま鼻から吸いましょう。このとき、両手の力をゆるめて、お腹をふくらませていきます。無理をせず、風船をふくらませるように、吸った息がお腹に入っていくことを意識します。
そして再び、両手に力を加えて、息を吐きながらお腹をへこませるように意識します。いっぱいまできたら、手をゆるめて、自然に鼻から息を吸いましょう。
これを繰り返すことで、お腹をへこませる(吐く)感覚、お腹をふくらませる(吸う)感覚を体でつかむのです。
吐く息中心の呼吸をマスターする