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第三章 やっぱりオンナって難しい ──女性とエロ論

『中年男ルネッサンス』
[著]田中俊之 [著] 山田ルイ53世 [発行]イースト・プレス


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なぜ“一発屋”は男ばかり?

山田 『一発屋芸人列伝』を連載していたときに、女性芸人の方にも何人か取材の申し込みをしたんですが、キンタロー。以外はいい返事をいただけなかったんです。僕は単純に彼女たちの芸が面白いと思うからリスペクトを込めてオファーしたんですけど。非常に端的に言うと、みなさん「イメージが悪いから」というのが理由なのかなと勝手に思ってます。

田中 それはとても興味深い話題だと思います。

山田 もちろん、人それぞれ自己プロデュースの仕方、考え方があるので、何も悪くはないです。むしろ、失礼なことをしたなと反省していますが。ただ、そのとき、そもそも“一発屋”と名乗る女性芸人がほとんどいないことに気づいた。実質的には一発屋と呼べる条件が揃っていても、その看板を背負いたがらないというか。これってジェンダーの問題なんじゃないかと、田中先生にご意見を仰いだんです。

田中 本来であれば、“元○○”という知名度のある肩書は、武器にすれば仕事に生かせるはずですよね。

山田 “一発屋”は、一般的に地方営業が多いんです。その場合、一度お茶の間の知名度を極限まで高めたことによって“元売れっ子”という肩書を手に入れているから、「呼べば集客が見込めますよ」という期待値で仕事を呼び込んでいる部分がある。いわば、その貯金を切り崩していくのが“一発屋”のビジネスモデルのひとつなのは間違いないですからね(笑)。

田中 その財産を使わない手はないのに、“一発屋”を名乗ることで得られるメリットよりも、そのせいで失うもののほうが大きいと、彼女たちは考えているわけですね。

山田 具体的な損失というよりも、自尊心やプライドの問題なのかなと見えてしまう。ジェンダー的に、女性のほうが“一発屋”と呼ばれることは耐えがたいものなんでしょうか。

田中 男性が自らの“男らしさ”を証明する方法には、“達成”と“逸脱”があるということが関係するかもしれません。芸人さんは、世間一般からすればアウトローな生き方ですから、芸人として一発当てることは、“達成”と“逸脱”を同時に満たしたことになる。ブームが過ぎて一発屋と笑われることすら、さらなる“逸脱”として男らしさを補完する武器にできるんです。

山田 複雑な気持ちですが、まあいいでしょう(笑)。

田中 一方で、女性は小さい頃からみんな仲良く“協調”することが“女らしさ”として評価されてきました。そもそも芸人というアウトローな生き方自体が歓迎されない。その上、一発屋として“逸脱”することは、女性としての評価にマイナスしかない、と考えるのではないでしょうか。“一発屋”として仕事を得るよりも、たとえば“マナー講師”として仕事を得るほうが、自尊心や体面を保てるのだと思います。

山田 もちろん、男性にもそういう気持ちはありますけどね。僕も、おかげさまで書く仕事で褒められたり評価されたりすると、本職のお笑いでの評価の低さを補完できる、目を逸らすことができるという気持ちがないわけではない(笑)。

田中 でも、そういう理由で女性芸人から取材を断られたりすると、「女は面倒くさいな」と思う人もいそうですね。

山田 繰り返しますが、僕は自己プロデュースの話だと考えているので、気にしないです。むしろ、こっちの勝手で失礼なことをしたなと反省する部分もある。でも確かに、そう思う人もいると思います。あるいは、「芸人のくせに」と思う人も多いでしょう。ただ、そこで「芸人のくせに」と思ってしまうことが、すでに男社会のノリなのかもしれませんけど。


女性が“仕事”をすると男社会を再生産してしまう

田中 それは重要な指摘だと思います。お笑いの世界における“男社会のノリ”を考える上で、とても興味深い出来事がありました。『Amazon Prime』のオリジナル・コンテンツに『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』という番組がありますよね。一〇人の芸人さんが、密室で六時間お互いを笑わせ合うという企画ですが、その『シーズン4』に参加していた森三中の黒沢かずこさんが、男性芸人たち特有のノリに割って入れずに、「男社会だなって……」と泣き出すんです。

山田 一時期、ちょっと話題になりましたね。

田中 その後、FUJIWARAの藤本敏史さんが黒沢さんを慰めるんですが、すると周りが「(そんな優しくするってことは、二人は)ヤッてるんじゃないか?」とからかい始めます。でも、黒沢さんはあえてそれに乗っかって、自分から「ヤッた」と言い出して笑いを取るんですよ。それが非常に男社会的なノリで、セクハラだという批判がありました。

山田 僕は正直、男しかいない現場を俯瞰で見て、「男社会だなって……」というフレーズが出せるセンスとか、ポジション取りだとか、そっちのことをやっぱりすごいなと思ってしまうんですけど。当然、ご本人も「おいしい」と思う部分はあったと思いますし。

田中 なるほど。プロの芸人さんはそう見るんですね。

山田 しかもその後、セクハラっぽいイジりに対して、逆に自分から「ヤッた」と。「九八年に溜池山王(当時NSCの養成所があった)の地下でヤッた」とか具体的に膨らまして、明らかに笑かしにいってる。そうやって“女である”ことを武器にするのは、バラエティとして正しいんじゃないかと。でも、これを批判する人は、女性芸人が女を武器にすることを「おいしい」と思う状況や、それが笑いとして消費される感覚自体が問題だ、と言ってるわけですよね。

田中 おっしゃる通りだと思います。

山田 ただ、そのやり方を否定されると、男と女が完全にフラットになるまで、女性芸人はしばらく“女を武器にする”“女をネタフリに使う”という引き出しを封じられてしまうことにもなるんですよね。というか、完全にフラットになったら、そもそも笑いになりえない。

田中 本人は、お笑いの現場での生存戦略として、生かせるものは生かしたいからああいうふうに振る舞っている側面もあるということですね。すべてを真に受けて、「黒沢さん、かわいそう」と思ってしまうのは違う、と。

山田 あと、男女関係なしに面白いところがいっぱいあるから売れているわけで。女を武器にするだけで何年もテレビに出られるほど甘くないです。

田中 ただし、難しいのは、お笑いの世界は頂点にいるMCが男性ばかりですし、そもそも男女比からしても男社会ですよね。マイノリティである女性芸人が、その特殊性を武器にすれば、いつまでも「刺身のツマ」でしかありません。短期的な利益を考えると、確かに笑いを取れます。しかし、そのことによって、長期的には自分たちの低い地位を維持することに貢献してしまっているわけです。さらに言えば、お笑いの世界では「当たり前」で「おいしい」と解釈されても、黒沢さんを「かわいそう」と感じる人が増えていけば、「笑い」として成立しなくなる可能性もあります。

山田 うーん。そういう人は、男の芸人の頭にタライが落ちてきても「かわいそう」とか言いそうですが。これは僕が芸人だからでしょうが、バラエティ番組で芸人が笑いのためにやっている振る舞いを「かわいそう」と言うのは、誰も得しない気がするんです。

田中 男爵は以前、芸能界の“鬼嫁キャラ”を例に出して語っていましたよね。

山田 鬼嫁とか恐妻家って、バラエティ番組では面白おかしく扱われるけど、あれってもし男女逆だったら、DVとかモラハラって言われてしまうパターンですよ。でも、それ自体はたとえば夫婦漫才なんかでは昔から脈々と続いているパターンじゃないですか。それって、世間の大前提として“普通は旦那のほうが主導権を握っているものだ”という風潮があることを裏返したギャグなわけです。まあ、それがいまだにギャグとして成立するのは社会が変わっていない証拠かもしれませんが、だからって鬼嫁キャラを「DVだからけしからん!」と言い出したら、それは違うと思うんですよね。

田中 これは非常に複雑で、一筋縄ではいかない問題を含むので、もう少し後で詳しく考えましょう。ただ、お笑いには、世の中の当たり前に異議申し立てをする“風刺”の役割もあると思います。

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