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第四章 僕らどうやって生きていこう? ──仕事と働き方論

『中年男ルネッサンス』
[著]田中俊之 [著] 山田ルイ53世 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:35分
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パーティーに「世界観」のある笑いはダメ!

田中 男爵は、舞台やテレビ以外の場に呼ばれることもありますよね。よくあるのが、一般企業が新年会や忘年会、創立記念、入社式、決起会などとして行う、いわゆる“企業パーティー”だと思いますが、そういうおじさんたちの前で話すときのコツについて聞かせてください。人前でスピーチしなければならないときの、ちょっとした笑いの取り方というか。当然ライブのお客さんの前で話すのとは、全然違うわけですよね?

山田 まあ、全然違いますね。

田中 「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の授賞パーティーでのスピーチでも、三〇秒間に五回ぐらい笑いを取っていましたね。

山田 いや、怖い怖い!!(笑) お客さんがどういう人たちかにもよりますけど、僕の場合、おじさんに向けて話すの、得意なんですよ。おじさんの塊に対峙するときの心構え、みたいなものが鍛えられてるんです。

田中 やっぱりそういうスピーチの場で「笑いが取れる」って、すごく有利だと思います。スピーチに限らず、たとえば初対面での会話でも、ちょっとした笑いが取れると人間関係がうまくいくじゃないですか。ちなみに、ああいうスピーチでの笑いって、あらかじめ考えられているわけですか?

山田 何個か用意しているものはありますけど、ただ、お笑いの基本として、「その場にいるみんなが思っていることを素直に言う」というのはありますよね。あの会場で言えば、他の受賞者たちがノンフィクション作家の方ばかりの中で、髭男爵という芸人が一人交ざってる──その違和感ってみんなが持ってた。そういう場に充満している期待感みたいなものを小さな針で突いてやるだけでいいと思いますよ、ツカミとしては。

田中 なるほど。

山田 突き詰めるとそれは、その場、その瞬間の「あるある」を言うってことかもしれない。それを言ってあげるとみんながスッキリする、みたいな。

田中 スピーチする側としては、その場で何が「あるある」なのか、今みんなが共有しているものは何かを感じ取る力が重要ですね。でも、僕らみたいなおじさんになると、そういうセンサーがどんどん鈍くなっている気がします。

山田 企業パーティーって、その「場」を使って、即興で笑いを作る部分が多い。だからまず「場」の空気ありき。その「場」に、強引に土足で入っていくようなことをしたらダメなんです。たとえば、世界観がしっかりした斜に構えた芸風は、企業パーティーに向いていないんですよ。いや、向いてなくていいんですけど。センスあるシュールなコント師とか絶対ダメ(笑)。酒飲んだおじさんたちは、シュールなコントとか見たくない。というか、そういう手の込んだネタを見る集中力がないんですよね。それはもうしょうがない。

田中 みなさんお酒飲みながら、談笑していますからね。

山田 だからもう、なんにもカッコつけないで、大きな声で「よろしくお願いしまーーーす!!! 今日は社長、呼んでいただいてありがとうございま~~す」と出て行って、社長じゃない人に握手するとか。

田中 いいですね(笑)。

山田 「違う違う、社長はこっちやった」みたいな。わかりやすいのがいいですよね。まず元気よく出て行って、「どうもー! 髭男爵でーーす!! 今日はこんなにおめでたい席に呼んでいただいてありがとうございまーーーす!!」って。貴族のかけらもないですけど(笑)。

田中 それくらいじゃないと聞いてもらえない、と。

山田 パーティーでの笑いやスピーチって、僕はゲリラ戦というか「接近戦」だと思うんです。お笑いのライブに来てくれるお客さんだったら、お金を払ってくれているし、前のめりで聴いてくれる。ところがパーティーの場合、特に立食形式だと、おのおのが食べながら談笑しているので、会場の空気にもまとまりがないんですよね。そんな空気の中でしゃべるわけなので、まあ、ときどきヤジが飛んできたりするんですよ、遠くのほうから。

田中 「引っ込めー!」とか「つまんないぞー!」みたいなやつですね。

山田 ヤジが“飛んでくる”というくらいですから、ヤジには物理的・心理的な“距離”が必要になってくる。誰が言ったのか、どこからヤジが飛んでくるのかわからないという演者側の不安感は、裏を返せば、ヤジを飛ばしている人間からすると「相手からは見えない」「特定されていない」という安心感になります。ヤジっていうのは、自分が群衆の中に溶け込んで、注目されていないという安心感がないと飛ばせないんです。だったら「接近戦」に持ち込んで、その距離を潰してやればいい。

田中 なるほど。

山田 具体的には、単純にヤジを飛ばしている人を見つけて近づき、対峙してイジるという“物理的なパターン”がひとつ。もうひとつは、ヤジを発している人を見つけたら遠くからでも目を合わせ、話しかけ、しっかりと「あなたですね!」「認識してますよ!」というメッセージを送って、匿名性を無効化する“心理的パターン”のふたつあります。言い換えれば、「当事者意識を持たせる」ということでしょうか。

田中 非常に実践的で面白いですね。

山田 舞台に出て最初に、お客さん一人ひとりとしっかり目を合わせるように会場を見渡すことで、少しでも匿名性をなくし、当事者意識を持たせ、お客さんにも「見られている」という意識を持たせる効果が生まれます。すると、ヤジが格段に減るんですよ。距離がなければ、素人さんはヤジのパンチが打てなくなりますが、こちらはプロですから、ゼロ距離からでもパンチは打てる。川原正敏先生の漫画『修羅の門』(講談社、一九八七年〜)で言うところの「虎砲」ですね。……あ、「虎砲」っていうのは、相手に拳を密着させた状態から打つパンチのことで、全身のパワーを一気に相手に叩き込む技です。当たった箇所は、拳の形に陥没するほどの破壊力なんですよ(笑)。

田中 わかりやすいです(笑)。酒を飲んでいるおじさんって、本当に話を聞かないですからね。リアクションがないのって一番虚しいじゃないですか。

山田 若い頃、そういうザワザワしている現場で漫才をやると、終わった後めちゃくちゃ声がかれてたんですよ。聞いてくれてない不安でどんどん声が大きくなってるんです。悪循環ですよね。以前、テツandトモさんが「そういうときは、逆に声を小さくするとみんな聞いてくれる」とおっしゃっていました。これは勇気が要りますが、実際効果があるんですよ。

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