最近は、「人と話をするのが苦手。面倒だから用件はメールで」という具合に、直接会わないでコミュニケーションをとることも増えています。
確かにメールのよさもあります。しかし、じかに人と話をすることは、とても重要な意味を持ちます。話すことから生まれる気づきや知恵、喜びやイキイキとした活力。そういうことが、コミュニケーションのもたらす楽しみであり、価値だと思います。
変化する日々には、晴れの日もあり雨の日もあります。また、晴れが恵みの人もあり、雨が恵みの人もあり、私たちはそういったさまざまなシーンにかかわって、それにアジャストしていかなければなりません。それが日々を暮らしていくということです。
暮らしのそれぞれのシーンに順応し、そして縁ある人とかかわっていくためのソーシャルスキル。それが雑談の力だと思います。
縁があるから話すのか、話すから縁が生まれるのか。それはきっと両方でしょう。
ともあれ、人間関係において、雑談は大きな力を持っています。
雑談の多くは、リハーサルなしのぶっつけ本番です。時にうまくいかないことがあっても当然です。大きなミスをしないように気を遣うのは当然ですが、かといって硬く身構えていたら、雑談のよさは半減してしまいます。雑談の妙味は、自然に話がはずんで、お互いに楽しい時間が共有できることと思うからです。
私も、この雑談力の本を書くことによって、新たに気づき、学ぶことができました。
「学びとは、転ばないための杖、吊革」と、ある方に教えをいただいたことを思い出しています。
小さな吊革であっても、吊革があれば右往左往しないですみます。その吊革が自分を支えてくれます。
日々を重ねることが、乾きでなく潤いとなるような、減らすことでなく恵みとなるような、インスタントでは得られない大切なものを積んでいきたいと思います。
積み重ね積み重ね、しかもそれは重ねた厚みでなく、重ねるほどに思いがこもっていくような……。
なお、この本の出版にあたり、PHP研究所の上岡祐樹さまに数々の気づきをいただきましたことを心より感謝し、御礼申しあげます。
二〇〇四年七月
奥脇洋子