文庫にするにあたって読者のみなさまに重ねて申し上げておきたいのは、この本はイエス・キリストのことばの哲学的神学的な解説ではないということです。学者には学者なりの専門的な説明が当然ありますが、一般読者にはかえってキリストのことばが縁遠い、むずかしいものになりかねません。私は、今日の日本の庶民の生活とそれがどう結びつくか、どのように生きる糧、考える種になるかをお伝えしたいのです。
そもそも聖書は学者のためのものではなく、庶民のためのものです。神から人間に書かれたラヴレターだとさえ言えるかもしれません ―― ラヴレターにしてはずいぶん変わっているにしても。
ですから私も、こうして選んだ七〇のことばが全部合わさって神から人間への ―― 現代のみならず、日本のみならず、全人類への愛の招待状となっていれば、と願っています。少なくとも、キリストのことばは、そういった心がまえで読み、かつ味わえば、印象も興味もいっそう深まるのではないでしょうか。
最初に『幸せをつかむ』として出版してから九年の月日が流れています。その間に世界の状勢も日本の環境も変わりました。今日となってはあまり適切でない語句表現がありますが、ひとつひとつ修整するとかえって厄介なことになるので、あえてそのまま残しました。あしからずご了承下さい。
一九九四年 五月
ピーター・ミルワード