二歳で音楽と出会う
僕は歌をうたったり、お芝居をしたり、ラジオで喋ったり、こうやって本を書いたりしているけれど、基本的には音楽が本職。世間からは「ロック・ミュージシャン」と呼ばれている。
キミにもきっと好きな曲があるだろうし、お気に入りのミュージシャンがいるんだろうね。
僕は音楽への目覚めが異常に早くて、そのときのことは今でもはっきりと覚えている。せっかくなので、この機会にちょっと話してみよう。
今から四十五年ほど前。当時の僕は自我もあまり目覚めておらず、トイレの躾もなされていなかったので、オムツをして、家の中をアヒルのようにへこへこと歩き回っていた。言葉も「あばばばば〜」とか「ママ〜」くらいしか発していなかったと思う(たぶん)。
だがいっぽうでは、感受性の芽がすくすくと育っていてね。無自覚でありながらも、いろんなことに泣いたり笑ったりしていたような気がする。
僕が住んでいた家の三軒隣には銀行があって、夕方五時になると『赤とんぼ』(作詞:三木露風、作曲:山田耕作)のメロディーを流していたものだった。
ちょうど日が暮れてきて、ああ、今日も一日が終わるなあ……なんてひとり過ごしていると、聞こえてくるんだ。
〈♪夕焼け小焼けの赤とんぼ 負われて見たのはいつの日か〜〉という、あのなんともせつないメロディーが。
僕はまだオムツへこへこの赤ん坊だったから、それがどんな歌かなんてまったくわからなかったけれど、そのメロディーを聴くと、とにかく無性に寂しい気持ちになったものさ。
さらに夜も更けて九時になると、今度はわが家の仏間でイベントが始まる。
というのも、僕の兄は、僕が生まれる前に交通事故で亡くなっていてね、以来毎晩、母親は大きな仏壇の前で、お経をあげるのを習わしにしていたんだ。