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心の病を癒す生活術
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『心の病を癒す生活術』
[著]カール・ヒルティ [訳]金森誠也 [発行]PHP研究所


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 ヒルティはその多くの著書によって、日本を含め、世界の多くの人々に心の安らぎを与え、生活向上への意欲を与えたといわれる。

 たとえばヒルティの研究家で、最近ドイツで再刊された『眠られぬ夜のために』の序文を書いたヴェロニカ・カルステンスはのべている。
「ヒルティの著作は、すべての真に偉大な書物と同様にけっして時代後れになることはない。(中略)これは多くの人々にとって人生を送ってゆく上で、助けとなるであろう」

 このカルステンの賛辞はそのまま、ヒルティの遺作となった一〇〇頁にも満たない本書『心の病を癒す生活術』にもあてはまると思う。原書は「心理学的な観察」という副題がついている。彼のほかの大作よりも読みやすく、論旨が明快である。

 たしかに熱心なキリスト教の布教者の著述であるだけに、仏教、神道の信者が大多数を占める日本人にとっては、反発したくなる箇所もあるだろう。また彼の実用的治療法についても、あまりにも欧米的で(かたよ)っているとみる人もいるだろう。

 しかしヒルティの著述は一般に平易であり、きめ細かいために、心底から彼の言葉に魅力を感じる人も多いはずである。

 ところで本書のなかには、多くの理論が展開されているが、実践的部分も多い。またヒルティは病める心をもつ人々、神経症患者を読者と考えていたようであるが、何も本格的なノイローゼ患者でなくても、現代のようにストレスが多い時代には、普段の健康体の人々、とくに若者には大いに参考になる指摘を本書から見出すことができるであろう。

 まず実用的な問題については、ヒルティが神経症患者をおもな読者とみただけに、医師、病院、医薬品などの問題を詳述している。だがたとえ病人でも、ショーペンハウアーのいうように、「明朗ですこやかに生きてゆく」ためには不可欠な衣食住の問題、なかんずく食事を重くみている。これは病人にかぎらず一般人の生活指針としても役立つであろう。

 ヒルティの献立とは、たとえばこんなものである。

 朝食にはよくあたためたオートミール、紅茶、それにパン少々。だがもし午前中、長い時間働く人は、昼食との間にミルク、果物、チーズ、卵などからなる「第二の朝食」をとるがよい。ただし肉はいけない。また禁酒家は言わずもがな、午前中にはけっしてアルコール飲料を飲んではならない。昼食は野菜あるいはプディングつきの肉料理一皿、デザートは果物、食後はブラック・コーヒー一杯。夜は肉料理を含まない軽い食事を午後八時頃までにとるがよい。

 いかにも西洋人らしい献立で和食ファンには向かないかもしれない。ところがヒルティは禁酒・禁煙主義者で、とくに神経症患者にはそれを実践するようせまっている。このほかヒルティは睡眠、労働、散歩など、患者を含め、人々の日常生活の上で参考になる多くの指針を与えている。


 もちろんヒルティの本領は理論に裏づけされた理想主義的、宗教的人生観の展開である。彼は十九世紀末のいわゆる世紀末の厭世的気分に反発した。また性欲をはじめ人間の本能を礼讚する風潮にもはげしく抵抗した。彼はたしかにショーペンハウアーやストア派の哲学、それに仏教のように人生を苦しみとみてあきらめる境地に達することを目標とする思想は正しくないと考えた。また彼はそれ以上にはげしくイプセン、トルストイら当時台頭した自然主義的、写実主義的文学作品は人間の情欲を刺激する傾向があり、神経症患者はそうした作品に接することは避けるべきであると主張した。

 とどのつまり、彼が信奉する思想はキリスト教、それも彼のいう真のキリスト教であり、そのために聖書、とくに福音書の愛の思想を尊重した。

 さらに、宗教から百尺竿頭一歩(ひやくしやくかんとういつぽ)をすすめて「神を愛し、神を信頼し、おのれが到達し得る範囲の人々のために、自分自身のためと同様につとめることはまさにキリスト教精神であり、真の社会主義である」とものべている。

 ところで、ヒルティの原文は聖書を引用する際、その章句の番号のみを示したが、それではわかりにくいと思われるので、訳者は可能なかぎり、注のなかで引用された聖書の邦訳をかかげておいた。
「はじめに」でものべたように、ヒルティは哲学者であり思想家であると共に熱心なキリスト教徒である。そしてキリスト教に心酔しなければ心の病は治らないと指摘している箇所もある。しかし客観的に平静に彼の文章を読めば、彼が国際的な幅広い思想の持ち主であり、「異国人」であるわれわれ日本人でも理解し、同調できるような面が多く、とくに愛に満たされた人生観により、病める心の持ち主にも大いに役立つような言葉を提供してくれたことを感謝したいと思う。

 なお本書の翻訳刊行を実現させて下さったPHP研究所文芸出版部・大久保龍也、福田好典両氏に厚くお礼を申し上げたい。

平成二十二年 二月
訳者 金森誠也
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