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なぜローマ法王は世界を動かせるのか インテリジェンス大国バチカンの政治力
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政治・社会
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第1章 世界各国がしのぎを削る外交舞台

『なぜローマ法王は世界を動かせるのか インテリジェンス大国バチカンの政治力』
[著]徳安茂 [発行]PHP研究所


読了目安時間:36分
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カトリックVSロシア正教会



 2015年6月11日、フランシスコ・ローマ法王とロシアのプーチン大統領がバチカンで会談した旨が大きく報じられた。この二人が会談するのは前年に続き2回目だが、このときも握手している写真が世界中の新聞で大きく掲載された。米経済紙「フォーブス」の「世界で最も影響力のある人物2016年版」でプーチン大統領は、トランプ次期米大統領(2位)、メルケル独首相(3位)、習近平中国国家主席(4位)を押さえて1位となっている。フランシスコ法王は5位だった。さて、この世界の有力者二人はいったい何を話し合ったのであろうか。



 報道によれば、このとき両者は1時間以上も会談した。もちろん二人で世界平和のために祈りを捧げたわけではなく、また息抜きの茶飲み話をしたわけでもないはずだ。


 バチカンにもほかの国と同様、対外発表を行なう報道局がある。ホワイトハウスの大統領報道官にあたる、いわば政府のスポークスマンの役割を担う人物も存在する。しかし困ったことに、バチカンの報道局は秘密主義に貫かれている。


 通常の発表は、法王が「いつ、どこで、誰と会ったか」という、必要最低限の事実関係に限られる。肝心の会見内容については、テーマに言及することはあっても2、3行ですませてしまう。したがって、このときのプーチン大統領との会談の具体的な中味については想像するほかはない。


 ここからが、在バチカンの各国外交官や、「バチカニスト」と呼ばれるバチカン専門ジャーナリストたちの腕の見せどころだ。報道局による公式発表の行間を読む。それぞれの知見や想像力、分析力を最大限、動員するのである。


 法王とプーチンの会談が開かれた2015年6月とはどんな時期だったのか、簡単に振り返っておこう。


 ロシアが2014年3月18日にクリミア自治共和国と、セヴァストポリ特別市をロシア連邦の領土に加えて以降、ロシアと米国、EU(欧州連合)諸国との緊張関係はなお続いていた。2015年6月、米国政府は、ロシアがウクライナ東部の停戦合意後も親ロシア派武装勢力に対する支援を継続・強化している証拠があるとしてこれを強く非難。ロシアに対する(けん)(せい)と同時に、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やポーランド、ハンガリーなどの安全保障上の懸念を緩和するため、これら諸国に米国製の最新鋭戦車や重火器などの武器を配備する方向で検討を始めたと報じられていた。


 これら諸国は、ロシア帝国やソビエト連邦時代を通して、つねに軍事大国ロシアの脅威にさらされてきた歴史を共有している。したがって、ウクライナへの干渉を強めるロシアと、それに対する米国の対応を注意深く見守っていた。


 冷戦時代は西側諸国の盟主として君臨した米国としても、欧州におけるこれ以上の求心力低下は避けたい。米国は、ロシアによる力を背景としたクリミア半島の領有という既成事実化に対し、有効な対抗手段をとることができなかった。オバマ前大統領がつねづね宣言していたレッドライン(許容範囲)を超えたはずであるにもかかわらず、である。バルト三国などにおける米軍前方展開戦力の強化は、オバマ前大統領の焦りを反映したものともいえる。


 プーチン大統領は、東欧諸国などに対する最新兵器の配備という米国の動きに素早く反応し、強い反発を示した。ロシアはただちに対抗手段として、核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基以上を、欧州方面に配備する意向を表明したのである。米政府の方針が正式に決定されれば、これまで経済制裁が軸だった対ロ制裁に、軍事的色彩が出てくることは否めない。したがって、ロシア政府からの反発もまたエスカレートしていくことが危惧されていた。


 ウクライナ情勢については、2015年2月に停戦合意が成立して以降も政府軍側と親ロシア派武装勢力との戦闘が続き、一時は、その()(すう)をめぐって世界が再び東西冷戦の時代に逆戻りしそうな気配が漂っていた。昨今、(ちん)(せい)化した感はあるが、問題が解決したわけではなく、いつまたロシアとの関係で情勢が悪化するかわからないほど緊張した状態が続いている。さらなる事態悪化を防ぐために、打てる手は何でも打たなければならないというのがバチカンの基本的立場といえる。


 中世のバチカンは、イタリア全土の5分の1以上をローマ法王領として(とう)()し、自前の軍隊まで保持していた。しかし、いまのバチカンは経済力も軍事力もないことから、物理的な力を背景とした政治力は行使できない。


 軍事制裁はもちろんのこと、経済制裁にも加わることができない。それどころか、平和的な手段ともいえる外交的制裁(大使の召還や外交官の追放など)すら行使しないのが、いまのバチカンの基本的な外交方針である。


 しかし、バチカンの精神的権威としてのモラルパワーは、一定の条件さえそろえば、国際社会において無視しえない、かなりの政治的影響力をもっている。


 たとえば、プーチン大統領のロシアである。ロシアは東方正教会(ロシア正教会)の国であり、歴史的にもカトリックのバチカンとは、ある意味、犬猿の仲ではある。またなによりも、20世紀初頭のボリシェヴィキ革命から1991年のソビエト連邦崩壊まで、70年以上も無神論を基本とする共産主義体制のもとに置かれていた。それでもキリスト教は滅びることなく、ロシア国民のなかに生き続けて今日に至っている。プーチン大統領個人が(しん)()なキリスト教徒であるという説の真偽は別として、政治家プーチンは、自らの国内政治基盤を強化する必要から、キリスト教勢力の支持を得ておく重要性は、十分認識していたと思われる。


 近年、バチカンの歴代法王は東方正教会との関係改善に熱心に取り組んできたが、とくにフランシスコ法王は、就任直後から、宗教対話の強化・促進を通じてカトリックと正教会との歴史的な和解を目指してきた。当然のことながら、ロシア正教会に対しても積極的な対話を継続しており、ロシア国内においても法王は無視できない存在となっている。事実、2016年2月12日、フランシスコ法王はロシア正教会トップのキリル総主教とキューバのハバナで会談したが、これは11世紀(1054年)にカトリックと東方正教会が分裂して以来、じつに約千年越しの歴史的会見となった。


 ちなみに、ロシア正教会とは、ギリシャ正教会、ブルガリア正教会などと同じく東方正教会に属するキリスト教会であり、その最大宗派としてロシアを中心に約9000万人の信者がいるといわれている。

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