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なぜローマ法王は世界を動かせるのか インテリジェンス大国バチカンの政治力
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政治・社会
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第2章 世界が熱狂するフランシスコ法王の素顔

『なぜローマ法王は世界を動かせるのか インテリジェンス大国バチカンの政治力』
[著]徳安茂 [発行]PHP研究所


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専制君主としてのローマ法王



 ローマ法王は、カトリックの世界において「神の代理人」と位置づけられている。カトリックは、現在、全世界で信徒総数が約21億7000万人とされるキリスト教の最大宗派(カトリック約12億人、プロテスタント約3億5000万人、ギリシャ正教約2億2000万人、残りその他宗派)だ。


 カトリックはいわばキリスト教諸宗派の老舗(しにせ)といってもよい。ギリシャ正教はローマ帝国の東西分裂(395年)後に東ローマ帝国の国教として発展し、正式にカトリックから分離したのは11世紀に入ってからである。プロテスタントは、16世紀の宗教改革でカトリックから分離している。


 カトリックの大きな特徴は、ローマ法王を頂点とする明確な組織性にあるといえる。プロテスタントや正教会は、カトリックのように世界中の信者を網羅する組織立った構成をとっていない。とくに、プロテスタントは教会(および聖職者)と聖書の役割に対する認識に違いがある。カトリック、プロテスタント双方とも同じキリスト教として教会も聖書も重要なのはもちろんである。しかしプロテスタントにおいては、個々人が神とつながっているのはあくまで聖書を通じてであり、その意味では教会や聖職者の役割は補助的なものととらえられている。16世紀の宗教改革以来の伝統といえよう。


 これに対し、カトリックにおいて法王が有する権威は文字どおり神聖不可侵であり、その権力と役割はまさに専制君主のそれであるといってもよい。バチカンに属する者は、日本の首相にあたる国務長官であれ枢機卿であれ、みな法王に仕える個人的使用人のような立場にある。その意味では、法王への独占的な権力集中度は、米国における大統領のそれよりもずっと顕著であるといえる。


 したがって、その時代時代の法王の性格や能力が極めて重大な意義をもつことになる。法王(イコール)バチカンといえるほど、法王の個人的資質がその時代のバチカンのあり方に濃厚に反映されるのである。


 バチカンが国際政治のなかでどのように動き、今後どこへ向かっていくのかを考えるためには、法王個人に焦点を当てる必要がある。この章では、フランシスコ法王(1936~)がどのような人物なのか、私が在バチカン日本国大使館で勤務していた際の経験も交えながら検討してみたい。


日本人が知らない世界のスーパースター



 日本ではあまり知られていないが、欧米、とくにカトリック系諸国のメディアでは、ほぼ毎日のように法王の一挙手一投足が報道されている。私はローマ滞在中、NHK国際放送をはじめ、世界のニュース番組を視聴できるスカイ・ニュースというシステムを利用し、各国の報道を観ていた。イタリアの各番組はもちろんのこと、BBCワールドニュース(英国)、フランス24(フランス)、CNN(米国)、ドイチェ・ヴェレ(ドイツの英語国際放送)、さらにはアルジャジーラ(カタールの英語国際放送)、RT(ロシアの英語国際放送)などにおいても、頻繁にローマ法王の日々の言動が報じられていた。


 私もよく目にした光景であるが、毎週水曜日に行なわれる恒例の一般謁見や毎週日曜日昼の「お告げの祈り」の際などには、世界各地からやってくる信者たちでバチカンの南東部に位置するサン・ピエトロ広場が埋まり、まるでロックスターによるコンサートでも始まるのではないかと思わせるような熱気で(あふ)れるのである。ちなみに、一般謁見は、法王を間近に見られる最前部の席は別として、誰でも自由に参加できる。事前の許可も予約もいらない。


 パリのエッフェル塔の下は、いつ行っても国際観光客の姿でいっぱいだが、毎週水曜日のサン・ピエトロ広場は、それをさらに拡大し、密度を高めたような様子だ。2014年に列聖式が行なわれてカトリックの聖人となった、先々代のローマ法王ヨハネ・パウロ2世も世界的人気を誇ったが、バチカン関係者にいわせると、その時代でもこんなにたくさんの人で広場が埋めつくされることはなかったそうだ。


 参拝者は、少しでも良い場所を確保すべく朝早くから広場に集いはじめ、一般謁見終了後もサン・ピエトロ広場周辺のレストランやカフェなどにとどまることが多いので、当日はものすごい交通渋滞が発生する。ローマっ子やタクシー運転手もそのあたりの事情はよく知っているので、その日は広場周辺の道路を避けるのが常識となっている。


 他方、この現象に喜んでいるのが、ローマのホテル、レストラン、カフェなどの観光関連ビジネスに携わる人たちである。とくに、バチカン周辺の土産物店は大喜びで、少し前までは(かん)()(どり)が鳴いていたような状況にあったが、いきなりの大盛況で大わらわとなっている。まさに「フランシスコ効果」とでも形容できる経済波及効果の恩恵に浴している。

「フランシスコ効果」なる言葉が最初に使われだしたのはフランスだったらしい。フランスは歴史的な経緯もあり、政教分離(〓〓〓cit〓:ライシテ)の伝統が根づいているが、いまでもカトリック大国であることに変わりはなく、社会党政権下においてもバチカンの影響は無視できない。


 そのフランスで、宗教専門紙としてはいちばんの伝統と権威を誇る「ラ・クロワ」が、フランシスコ法王の就任後半年の2013年9月に実施した世論調査の結果が興味深い。それによれば、フランスにおけるカトリックの65%以上の人が、「新法王はカトリックの伝統的価値に新風を吹き込んでおり、カトリック教徒であることに積極的な誇りを感じる」と回答している。これはカトリック教徒を対象に実施した世論調査であり、その過半数が肯定的な回答をしたというのは一見当たり前のような印象を与える。


 しかし、フランスでもカトリックの衰退やバチカン離れは長いあいだ続いており、ベネディクト16世前法王時代の2008年に実施された同内容の世論調査では33%だったという事実に鑑みれば、フランシスコの人気が際立つ。宗教離れの傾向が長らく続いていた若年層のあいだでも、日曜日に教会に足を向けたり、教会が主催する各種行事への参加が増えたりと、カトリックに対する関心の回帰現象が起こっているともいう。


 このような社会現象を指して「フランシスコ効果」なる言葉が生まれたらしいが、この傾向はほかの欧州諸国においても同様に見られ、世界的な広がりをもちつつあることが見てとれる。カトリック大陸といってもよい南米、カトリック人口の顕著な増大傾向が続くアフリカやアジアの国々においても似たような現象があるという。こうした人気はすでに数字となって表れている。

「聖ペトロ使徒座への献金」と呼ばれるバチカンの基金がある。


 これは全世界のカトリック司教区から寄せられる献金を財源としており、バチカンの世界的な慈善活動を支えるための特別基金である。毎年6月29日のサン・ピエトロ記念節に献金が集められるためこの名がついているそうだが、献金額を見ると、2012年の総額が6590万ドルだったのに比べ、フランシスコが新法王に就任してわずか3カ月後の2013年6月には、献金総額が8000万ドルを超えたという。


 献金額の大幅な増加は、新法王の誕生を祝う、いわばご祝儀相場の側面もあったと思われるが、世界経済全体の低迷が続くなかでこの数字を記録したことは、フランシスコ法王の世界的な人気の高まりを反映したものと見ることもできる。


自分の言葉で話す、原稿を読まない法王



 フランシスコ法王の人気の秘密は、いったいどのあたりにあるのであろうか。その理由は多々あろうが、類い(まれ)なるコミュニケーション能力もその一つに違いない。


 法王による公的な発言の場では必ずスピーチ原稿が用意されているが、実際のスピーチで原稿を読むことはめったにない。いつでも大衆に向かって、アドリブで直接話しかけるのである。原稿そのものは手に持ったまま話を続け、スピーチ途中でふと気がついたように原稿をひらひらと手にかざし、配布するので関心のある人はあとで読んでみてほしい、とつけ加えるだけなのである。


 日本では、お()びの会見ですら原稿を読み上げるだけの人がいるが、なんという違いだろう。

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