『心を伝える技術 自分を知り、相手を知る心理学』
[著]國分康孝
[発行]PHP研究所
本書を文庫化するにあたって、私には次のような願いがある。
昨今の日本では臨床心理学こそプロカウンセラーへの王道であるかの如き、誤った風潮がある。この誤った風潮はカウンセリング心理学と臨床心理学の識別がクリアでないことに起因している。私はこのふたつの心理学を識別する立場をとっている。それは私がアメリカでカウンセリング心理学を専攻したからである。
それゆえ、臨床心理学では扱わない問題をカウンセリング心理学が扱っていることを世人に知ってほしい。そんな願いをこめて本書を文庫化することにした。
臨床心理学は病理的心理(例:薬物依存、摂食障害、不安・パニック)をとりあげる。カウンセリング心理学は日常生活の問題(例:育児、進路選択、人づき合い、結婚)をとりあげる。すなわちカウンセリング心理学は人生問題の予防・開発に、臨床心理学は病理現象の治療のほうに関心がある。
本書のタイトル『心を伝える技術』とは「人間関係を育てるコミュニケーション」という意味である。これは臨床心理学領域のテーマではなく、カウンセリング心理学領域のテーマである。
それゆえ本書は「教育カウンセラー(教育関係を専門とするカウンセラー)」「産業カウンセラー」「ピアヘルパー(学生のボランティア)」など他者の人生に予防・開発的に関与している方々にぜひご一読いただきたいと思う。
これからのカウンセリングは一対一の面接方式のカウンセリングから、「心を伝える技術」などのテーマをワークショップ(研究集会)方式で教示するサイコエジュケーションへと拡大するきざしがある。そのきざしの先駆けが本書である。
本書の文庫化をすすめてくださったPHP研究所文庫出版部の平賀哲史さん、およびそもそものはじめに本書の執筆をすすめてくださった水門啓和さんと渡邊祐介さんに改めて感謝申し上げる次第である。
平成十三年春
カウンセリング・サイコロジスト 國分 康孝