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JACKSON マイケル・ジャクソンと踊った唯一の日本人ダンサーの物語
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エンタメ
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第6章 グレートダンサーを目指して

『JACKSON マイケル・ジャクソンと踊った唯一の日本人ダンサーの物語』
[著]ユーコ・スミダ・ジャクソン [発行]PHP研究所


読了目安時間:22分
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グレートダンサーへの小さな入り口


 胸躍らせて上京した私は、ちょうど美大を卒業したばかりの次姉と二人、京浜急行の梅屋敷という駅のそばのアパートで暮らし始めた。

 姉はフランスのブランド、イブ・サンローランのオートクチュールの製作アトリエに就職し、ほとんど残業ばかりの毎日だった。

 私は、品川の新高輪プリンスホテルにあるフルーツパーラーでウェイトレスのアルバイトをしながら、ダンスのレッスンに通った。アルバイトは早番シフトで、早朝五時半からの八時間。朝四時起床は大変だったが、時給は普通のアルバイトより高めだったし、なにより、仕事の上がり時間が午後一時半と早かったのがありがたかった。

 アルバイトが終わると、品川からバスで港区の飯倉にあるダンススタジオに向かうのが、楽しくてしかたなかった。なぜならそのスタジオには、以前見たテレビのドキュメンタリー番組に出ていた講師がNYから教えに来ていたからだ。

 毎日バイトを終えると、やっと本当の自分の時間がやって来たかのように、ワクワクしながらダンススクールに足を運んだ。当時の私は、将来ダンスをどうやって仕事に結びつけようとか、そんなことまでは考えていなかった。ただ、ダンスを学びたかった。しかもジャンルを超えて。

 高校時代の教師は、「ダンスなんかじゃ食っていけない」と言ったが、私は、誰が見てもすごいと認められるグレートダンサーになれば、仕事やお金はあとからついてくるはずだと思っていた。普通の会社に勤めようなどとはまったく考えず、アルバイトとダンスの日々を送った。

 上京して半年過ぎた頃、私は、さらなるダンスへの情熱を抑えきれなくなっていた。
「もっとダンスに集中したい! うまくなりたい! バイトの時間を割いてすべてのエネルギーをレッスンに注ぎ込みたい!」

 この願望を、私は正直に熊本の父に伝えた。大学へ行かなかった代わりに、期間限定の経済的なサポートをしてもらえないか頼んでみたのだ。

 しかし、母の発病から亡くなるまで、できる限りそばにいて看病すると自分に誓い、それを実行したこともあり、父の会社の経営状態は悪化していた。父の復帰後、少し持ち直したものの、不景気の波は厳しく襲いかかり、父にとっては大変な時期だった。

 また、父は良きライバルであった母を亡くしただけでなく、末娘の私までが上京してしまったために、この頃には働く目的すら見失っていたという。私には、そんな父の心情を知る余裕さえなかったわけだが、父はそんな大変な状況にかかわらず援助を快諾してくれた。

ケガとの戦い


 おかげで私は、時間を気にすることなく受けたいレッスンを受け、レッスンの合間には、空きスタジオの一室で好きなだけ自習ができた。

 そんな恵まれた環境にあった私の悩みのタネは、膝関節(しつかんせつ)の脱臼グセと、子どもの頃の二回におよぶ交通事故が原因の首の痛みだった。

 私が初めて膝関節脱臼を起こしたのは、高校三年生のときのエアロビクスのレッスン中だった。その後、上京して通いはじめた飯倉のレッスンの初回でのこと。膝の中で「バキッ」といういやな爆発音がしたかと思うと、同時に激痛が走り、倒れてしまった。同じレッスンを受けていた男子生徒二人が、私をロビー階の長椅子まで運んでくれて、応急処置の氷を持ってきてくれた。

 その後、二人が再びレッスンへと戻ってしまうと、長椅子に一人ぼっちとなった。当時は携帯電話などなかったし、仕事中の姉にも迷惑はかけたくなかった。私はしばらく休んでから、靭帯が伸びて腫れと痛みでほとんど力が入らない片脚を引きずって一人でなんとか帰宅した。いったい、どこに、そんな力があったんだろう。

 上京してからも、たびたび、その脱臼グセが顔を出した。

 テレビで見た憧れの講師のレッスンは、いわゆるシアターダンスというもので、独特のターンなどもあってとても緊張した。久しぶりのダンスレッスンだったため、頑張り過ぎたのだろう。ステップのレッスンをしている最中、また、あの不気味な音がして激痛に襲われた。
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