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いま、拠って立つべき“日本の精神” 武士道
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生き方・教養
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第十二章 切腹と敵討ち ―― 命をかけた義の実践

『いま、拠って立つべき“日本の精神” 武士道』
[著]新渡戸稲造 [訳]岬龍一郎 [発行]PHP研究所


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◆魂は腹に宿るという思想
「腹切り(自殺)」と「敵討ち(復讐)」として知られる二つの制度については、多くの外国人著述者がかなり詳細に述べている。

 まず自殺から取りあげるが、私の考察は俗に「腹切り」もしくは「切腹」と呼ばれ、腹を切って自殺する方法に限定して触れることにする。
「腹を切る? なんと馬鹿げたことか!」

 この言葉をはじめて聞く人は、そう叫ぶだろう。外国人の耳には最初は奇妙に聞こえるだろうが、シェークスピアを読んだ人なら、それほど驚かないはずである。ブルータスにこう言わせているからだ。「汝(カエサル)の魂魄(こんぱく)あらわれ、わが剣を逆さにしてわが腹を刺さしめる」と。

 あるいは近代のイギリス詩人(サー・エドウィン・アーノルド)は『アジアの光』という作品の中で、女王の腹に突き刺さった剣について語っているが、誰もこれを品の悪い英語とか、慎みを欠いたものなどと言って非難してはいない。さらには別の例として、ジェノヴァのパラッツォにあるゲルチーノ(イタリアの画家)が描いた「カトーの死」の絵を見てみよう。アディソン(英国の詩人)がカトー(古代ローマの政治家)に(うた)わせている辞世の詩を読んだ人なら、誰もカトーの腹に半分突き刺さった剣を嘲笑などしないだろう。この切腹という死に方は、私たち日本人の心には、もっとも気高い行為、あるいはもっとも感動的な悲しみの儀式を連想させる。したがって、日本人の切腹という考え方には、なんらの嫌悪感も、ましてや嘲笑されることなどいっさいないのである。徳や偉大さや優しさなどの多様さには驚くべきものがあり、もっとも(むご)い死に方でさえ崇高さを覚え、新しい生命の象徴にさえなるのである。さもなければ、コンスタンティヌス大帝が見た「十字架」が世界を征服することはなかったであろう。

 切腹が私たち日本人にとっていささかも不合理とは感じられないのは、外国にもこれを連想させる例があるから、という理由だけではない。身体の中でとくにこの部分を選んで切るのは、そこに魂と愛情が宿るという昔からの解剖学的な信念に基づくものだからである。

 モーゼは『旧約聖書』で「ヨセフその弟のために腸焚(はらわたや)くるがごとく」と述べ、ダビデは(しゆ)にその腸(あわれみ)を忘れないようにと祈り、イザヤ、エレミア、そして昔の霊感を受けた人々も、腸が「鳴る」もしくは「いたむ」と言った。これらはいずれも腹部に霊魂が宿るという、日本人の間で広く信じられてきた信仰と共通している。

 セム族は、肝臓と腎臓、およびその周りの脂肪が感情と生命が宿るところだと、常に言っていた。「腹」という語はギリシャ語の「フレーン(phren)」や「テューモス(thumos)」よりも意味は広いが、日本人もギリシャ人と同じように、人間の魂はこのあたりに宿ると考えていたのだ。このような考え方は何も古代の人々に限られているわけではない。フランスの優れた哲学者の一人であるデカルトが「魂は松果腺(しようかせん)にあり」と提唱したにもかかわらず、そのフランス人たちは解剖学的には漠然としているが、生理学的には意味の明瞭な「ventre(ヴアントル)(腹部)」という語を、今日でも「勇気」の意味で使っている。同様に、「entraille(アントレイユ)(腹部)」というフランス語は愛情や思いやりを意味する。

 このような信仰は単なる迷信ではなく、心臓を感情の中枢とする一般的な考えよりも科学的である。日本人は修道士に聞くまでもなく、「この臭骸(しゆうがい)のいずれの醜き部分に人の名が宿るのか」といったロミオより知っていたのだ。
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