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安楽死か、尊厳死か
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第七章 尊厳死と安楽死

『安楽死か、尊厳死か』
[著]大鐘稔彦 [発行]ディスカヴァー・トゥエンティワン


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尊厳死と安楽死、どう違うのか?

 

私が“尊厳死”“安楽死”なる言葉をしきりに耳にするようになったのは、関東に出た一九七七(昭和五十二)年頃からです。ふとしたことから、「日本安楽死協会」なる団体があることを、多分新聞の記事で読み知ったのがきっかけだったようです。

この団体は一九七六(昭和五十一)年に、産婦人科医で国会議員にもなった太田典礼氏が起会したもので、氏の基本的な考えは、「創造的活動ができなくなった人間はもはや生きていても仕方がない。大した延命にもつながらない医療を続けるのは個人的にも国家的見地から言っても経済的ロスだからやめたほうがよい」という割り切ったもので、先の須原一秀氏の考えに一脈通じるものがあります。


 

しかし、“安楽死”なる概念を太田氏より先に日本にもたらした人物がいました。作家であり医師でもあった森鷗外です。彼は六十年の生涯に百三十篇ほどの作品を著していますが、その中の一つに『高瀬舟』なる短篇があります。『阿部一族』や『山椒太夫』などの歴史小説も手がけた鷗外は故事来歴の文献にも目を通していたようで、その一つ『翁草(おきなぐさ)』からヒントを得てこの短篇を物しました。

『翁草』は鎌倉から江戸時代の伝記や奇怪事、異聞等を他所から抜き出したり作者自身が見聞きしたことをかき集めたもので、中に、京都の高瀬川を下って人里離れた地に流される一囚人の身の上話が収載されているのを、鷗外は目ざとく見つけ、これはフランス語で言うところの“euthanasie(ユータナジー)”すなわち“安楽死”ではないか、と思い立ったようです。

主人公の喜助は“弟殺し”の(かど)遠流(おん る)を言い渡され高瀬舟に乗せられるのですが、実は冤罪(えん ざい)で、行く末を悲観して喉を剃刀でかき切って自殺を図った同居人の弟が死に切れず苦しんでいるのを帰宅して発見、何とか助けようとしたのですが、弟は、そんな兄を恨めし気に見やって、どうかこのまま死なせてほしい、剃刀をそのまま引き抜いてくれれば死ねそうだ、頼むからそうしてくれと懇願、すがるようなその目に抗し切れず、喜助は言われた通り恐る恐る剃刀を弟の頸から外したが、その弾みに気管の周りの血管を切って傷を深めたようで、はなはだしい出血を見たものの、弟は安らかな顔で礼を言って事切れたというのです。

この現場を、たまたま通りすがりの老婆が見て吃驚(きっ きょう)(きびす)を返すやお上に通報、喜助は弟殺しの罪を着せられて捕らわれ、流刑に処せられる─という話です。


 

鷗外は陸軍軍医総監に任じられながら、日清日露戦で戦傷者以外に陸軍の兵士が脚気で死んで行くのを手をこまねいて見ていたくらいですから、晩年自ら告白しているように、医師としては大した功績はなく、むしろ汚点を残しています。

脚気の原因は言うまでもなくビタミンB1不足ですが、それと定かには究められなかったものの、陸軍に死者が続出するのは白米に原因があると思われる、我が海軍の主食は麦飯であり、その効能と思わるが脚気死は皆無に近い、と喝破した海軍省医務局総長高木兼寛の慧眼(けいがん)に鷗外はあくまで反論、海軍の十倍を数える陸軍に白米至上主義を貫き、大過を招いたのです。

医者ではあったが医療現場で臨床医として患者を診たこともなかったでしょうし、顕微鏡をのぞいて何らかを研究する医学者でもなかった鷗外は、言うなれば中途半端な医者に終始したと思われます。鷗外自身、その点は自覚するところがあり、晩年彼は生涯を省みて、自分は医者としては何ら社会に資するところなく、文学の分野で多少貢献した程度だった、と述懐しています。


 

外科医としてメスを振るったこともなかったでしょうから、自死を図ったあたりの記述にももう一つ首を傾げさせるものがあります。

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