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ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち
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コンピュータ関連
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第6章 近代国家を超越する

『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』
[著]木澤佐登志 [発行]イースト・プレス


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既存のシステムからの脱出



 新反動主義の特徴として、近代国家というシステムそのものに対する批判精神がある。多様な人間が集まって民主主義のもと営まれる近代国家は不合理なので解体されるべきであると彼らは主張する。では解体した後はどうするのか。その答えは、疑似封建的な都市国家システムである。


 それぞれの小さな都市国家は、言ってみれば一つの企業のようなもので、トップにCEO的な君主を据え、市民は株券を保有する一種の株主として振る舞う。君主は株主たる市民の要求に応えるように国家を運営していかなければならない。さもないと、市民はその国家を出ていき、別の君主=CEOが治める国家に移住してしまうだろう。


 つまり、ここに一種の企業間競争のようなものが生まれる。というより、これは企業そのものであって、新反動主義の主張とはつまり、国家は企業のように運営されるべきであるというものになる。


 一般に反動思想といえば、自分たちの国家を尊ぶ愛国思想(ナショナリズム)や保守思想と同一視されているが、新反動主義はその点からすると真逆のようにも見える。というのも、そこで主張される思想とは、国家の解体と企業化であり、また住民は積極的に別の都市国家=企業に流動していくことが推奨されているからだ。


 複数の州政府から成る連邦制を敷いているアメリカにおいては、国家に対する意識も日本などの国とはだいぶ差がある。だから、インターネットの反動思想といえばいわゆる日本のネット右翼などのイメージしかない向きからすると、これはだいぶ異様な思想に見える。とはいえ、実際これはだいぶ異様な思想なのだが(実際、オルタナ右翼/新反動主義はアメリカにおける共和党的な保守思想とも相容れない。それは彼らが共和党支持者を指して用いる「寝取られ保守〈※1〉(cuckservative)」といった嘲笑ミームからも窺うことができる)


 新反動主義が夢想する都市国家システムにおいては、住民が都市国家間を積極的に流動していくことが見込まれる。新反動主義は、この現象に「出口(exit)」というコンセプトを当てている。この、特定の共同体や国家から自由に離脱して、ノマド的に別の共同体や国家に移動できる「出口」のコンセプトは、しばしば民主主義における「声(voice)」のコンセプトと対置される。

「声」とは、国民は現在の政権に不満があれば、実際に声を上げ(たとえばデモ活動)、そして選挙における投票行為を通じて現状を良い方向に改革していくことを目指すことができるといった、民主主義の土台を成す概念を指している。


 一方で、新反動主義が提唱する疑似封建制度では住民は現状に不満があれば、単純に黙って今いる共同体から出ていく(exit)。こちらのほうが、よりスマートかつ合理的ではないか? というわけである。


 この声なき「出口」のコンセプトは新反動主義を取り巻く諸々の潮流とも共振しあっている。


 たとえば、ピーター・ティール。彼はシリコンバレーのリバタリアンで、「自由と民主主義はもはや両立しない」と発言して、新反動主義にも影響を与えたことは前章でも述べた。そのピーター・ティールが関心を抱いている「海上都市構想」は、どこかの海上にリバタリアンだけが住む小さな自治国家を設立しようというものだが、これなども「出口」の概念と通ずるものがある。民主主義の制度のもとで愚直に「声」を張り上げるのではなく、黙ってその制度から「立ち去って」、新しいフロンティアを開拓していく、まさに右派リバタリアンらしい振る舞いといえる。

「The Education of a Libertarian」という2009年のエッセイにおいてティールは、リバタリアンはあらゆる「政治(politics)」の体制からの「逃走」の方法を模索しなければならないと述べている。ティールは「出口(exit)」ではなく「逃走(escape)」という語を用いているが、言っていることはほぼ同じだ。我々を取り囲む「政治」(あるいは民主主義)は、そのまま我々の可能性の限界でもある。ならば、この「政治」から離脱して、全き新しい可能性を探求しなければならない(ちなみにこのロジックは、そのままランド&ヤーヴィンの「大聖堂」のロジックとも当てはまる)


 そのために取り組むプロジェクトとして、ティールは以下の三つの選択肢を提示する。


 第一の選択肢は「サイバースペース」。サイバースペースは、90年代前後から、仮想空間上に誕生した新たなフロンティアとして、様々な思想家、運動家、起業家たちを魅了してきたことは、これまでの章でも述べたことと思う(その代表的な例がバーロウの「サイバースペース独立宣言」であることも)。ティールもPayPalの創業者として、中央銀行に束縛されない貨幣流通の可能性をこの新天地に見出そうとしていた(現在、その可能性はサトシ・ナカモトが生み出した暗号通貨とブロックチェーンが担っている)。しかし、とティールは言う。なるほど確かにサイバースペースは国民国家に縛られないオルタナティブなコミュニティ空間の創出に貢献したかもしれない(たとえばティールも投資していたフェイスブック)。だが、それはあくまでバーチャルな世界の話であって、往々にして現実よりも想像や空想に偏ってしまいがちだ。ここにサイバースペースの限界があるとティールは見る。


 第二の選択肢は「宇宙」。宇宙は文字通りの限界なきフロンティアだ。冷戦時代には、アメリカとソ連が競ってこのフロンティアを開拓しようと努めてきたのは周知の通り。

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