読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1274958
0
「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか
2
0
0
0
0
0
0
政治・社会
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
まえがき

『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』
[著]遠藤誉 [発行]PHP研究所


読了目安時間:11分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ

― 米中貿易戦争の根幹は「中国製造2025」―



 中国は2015年5月に「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」(以下〔2025(ニーゼロニーゴー)〕)という国家戦略を発布し、2025年までにハイテク製品のキー・パーツ(コアとなる構成部品、主として半導体)70%を「メイド・イン・チャイナ」にして自給自足すると宣言した。同時に有人宇宙飛行や月面探査プロジェクトなどを推進し、完成に近づけることも盛り込まれている。


 アメリカや日本を中心として運営されている国際宇宙ステーションは、2024年あたりに使用期限切れとなることを見込んで、中国が中国独自の宇宙ステーションを2022年までには正常稼動できるようにする国家戦略が〔2025〕に潜んでいるのである。


 トランプ政権は2018年3月以来、米中の貿易不均衡と知的財産権侵害などを理由に中国からの輸入品に高関税をかけ、中国も報復関税で応酬するなどして米中貿易摩擦を生んでいるが、トランプが怖れているのは、〔2025〕により中国がアメリカを追い抜くことである。


 一つには、ハイテク分野において半導体などに関するコア技術さえあれば、それはスマホやパソコンといった日常のハイテク製品のみならず、軍事にも宇宙開発にも応用することができるからだ。


 現在の中国の対米輸出は、アメリカの対中輸出を遥かに超えており、大きな貿易不均衡があるのは確かだ。しかし、〔2025〕発布前までは中国のハイテク製品対米輸出の約90%は輸入したキー・パーツの組み立て製品に過ぎず、輸入先はアメリカ、日本、韓国、台湾などであった。中国は一部分しかコア技術を持っておらず、中国は「組み立てプラットホーム」の域を出ていなかったのである。


 この現実に関して中国の世論が激しく動き始めたのは、実は2012年9月の(せん)(かく)諸島国有化がきっかけだった。日本人にとっては意外な因果関係かもしれないが、激しい反日デモが起きる中、「日本製品不買運動」が起きたことは、まだ記憶に新しい。あのとき、「日本製品不買運動」を呼び掛けるスマホやパソコンなどのキー・パーツの多くは日本製だった。つまり、スマホ自身は中国で作るから外側には「メイド・イン・チャイナ」と書いてあるが、その中を開けると、そこには日本製の半導体キー・パーツが詰まっていたのである。


 もちろんキー・パーツにはアメリカ製や韓国製などもあったのだが、何しろ「日本製品」の不買運動を叫んで大暴れしていたわけだから、自ずと「にっくき日本」に目がいくわけだ。そのことをネットユーザーが指摘し始め、一瞬で拡散していった。


 結果、デモに参加した若者たちは、「このスマホ、メイド・イン・チャイナなの? それともメイド・イン・ジャパン?」「で? 日本製品不買なら、スマホ捨てるの?」と自嘲しながら、最後は不満の矛先を、半導体を生産する技術も持っていないような国に中国を追いやった中国政府に向けていったのである。


 だから、2012年11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会(党大会)で、中国共産党中央委員会(中共中央)総書記に選ばれた(しゆう)(きん)(ぺい)は、中国人民、特に若者への監視体制を徹底させ、反日デモが起きないようにネット言論を厳しく抑え込み始めた。反日デモが起きれば、必ず日本製品不買運動が起き、そして「ハイテク製品は“メイド・イン・チャイナ”なのか、それとも“メイド・イン・ジャパン”なのか」という議論が再び持ち上がるからだ。このスローガンを掲げて反政府運動が起きたら、一党支配体制は危機にさらされる。


 そこで習近平は2013年が明けるとすぐに、中国アカデミーの一つである中国工程院に命じて「製造強国戦略研究」に着手させ、2015年の〔2025〕発表に至ったわけである。


 と同時に「中華民族の偉大なる復興」を実現する「中国の夢」を政権スローガンとした。


 これは1840年のアヘン戦争以来、中国が列強諸国の植民地となった屈辱から抜け出して、アヘン戦争前の中華民族の偉大なる繁栄を復興させようというものだが、習近平政権誕生前夜の反日デモを考えると、その心には「再び日本からの屈辱を受けてはならない」という要素が大きなパーセンテージを占めていただろうことは十分に推測される。


 ところが、2017年1月にトランプ政権が誕生すると、事態は一変してしまった。

「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ大統領は、2017年末あたりから対中強硬策に出始め、米中貿易戦争を通して、なんと〔2025〕を阻止し始めたではないか。


 アメリカにとっては、〔2025〕が成功すれば、アメリカは世界のトップリーダーの地位から転落する危険性を持つ。だからトランプは宇宙軍の創設を提案しているくらいだ。


 習近平にしてみれば、「反日」を軸として中国共産党統治の正当性を強調して一党支配体制を維持しようというもくろみと、反日デモを起こさせてはならないという相矛盾する葛藤の中で、一刻も早く〔2025〕を完遂しようと焦っていた。永遠の後進国から抜け出し、「量よりも質」で勝負できる国にならなければ、「中華民族の偉大なる復興」を目指す「中国の夢」は実現できない。それを実現するまでは退けない。だから習近平は2018年3月に国家主席の任期制限を撤廃して、せめて〔2025〕はやり遂げようとしていたのである。


 しかし中国は今、トランプが仕掛けてきた米中貿易戦争は〔2025〕を破壊させるためであり、中国の特色ある社会主義国家を崩壊へと導くためであると解釈するに至っている。だから一歩も引かない。〔2025〕はトランプの攻撃により、今や社会主義体制を維持できるか否かのデッドラインと化してしまったのだ。


 では、中国は〔2025〕をどのようにして達成しようとしているのだろうか?


 もちろんアメリカが指摘するように知的財産権の侵害や企業買収などによって不当に技術を獲得している(ペンス副大統領の言葉を借りれば「窃盗」している)側面は否定できない。しかし見逃してならないのは、中国政府による「人材の獲得」である。アメリカにいた元中国人留学生が「技術を携えて帰国する」場合もあれば、新しく中国内で育ち始めた人材もいる。


 中国は、1996年の第九次五カ年計画から全世界で活躍する中国人元留学生(留学人員)と中央政府を結びつけて、「中国全球人材信息網(Global China Talents Network)」という、地球を覆う巨大な人材ネットワークを形成している。特にアメリカのシリコンバレーにいる中国人元博士たちで、大企業に就職したり自ら起業したりして、重要なコア技術を持っている者を呼び寄せて中国各地に「留学人員創業パーク」を創っていた。当時は中国がWTO(世界貿易機関)に加盟するための準備をしていたのである。


 ()(きん)(とう)政権時代(中共中央総書記としては2002〜2012年、国家主席としては2003〜2013年)に入ると、2008年からは「千人計画」、2012年からは「万人計画」を立ち上げて、外国人を含めた世界トップ人材のヘッドハンティングを始めている。この計画は次世代を担う若き研究者たちを養成するために、大学や研究所に世界のトップ頭脳を派遣するのが主たる目的だ。人材資源の持続性を狙っている。


 その意味では〔2025〕は、90年代から始まっていたと言っていい。それがなぜ2015年5月まで待たなければならなかったのかに関しては、中国内政の複雑な事情があるので、本文の中で解説したい。


 ただ注目すべきは、帰国留学人員の数は、改革開放以来の累計が2017年度統計で313万2000人であるのに対して、第18回党大会(2012年11月)以降に帰国した留学人員の数は231万3600人に達するという事実だ。2018年は改革開放40周年になるが、習近平政権になってから帰国した留学人員の数が、40年間のうちの7387%を占めていることから、いかに習近平がコア技術を緊急に高めようとしているか、その緊迫性がうかがえる。


 事実、半導体市場調査会社IC Insights(米)が2018年2月25日に発表したリポートによると、2009年の時点では、ファブレス半導体企業の世界トップ50に1社だけしか入ってなかった中国が、2016年になると11社にまで増え、しかも2017年にはトップ10に2社も入っている。2018年には華為(ホァーウェイ)(Hua-wei)傘下の半導体メーカー海思(ハイスー)(HiSilicon、以下、ハイシリコン)社が、Appleに次ぐ世界第2位に躍り出た。ハイシリコンは世界で最も速い通信用チップを世界で最初に創り出し、関連業界に衝撃を与えている。


 習近平が2013年に〔2025〕を思いついてから、まだ5年しかたっていない。したがって残念ながら中国が〔2025〕を実現できる可能性というのは、相当に高いと言わねばなるまい。


 トランプが警戒する二つ目の、中国の宇宙計画は、さらに大きな脅威をアメリカに与えることになる。


 中国は2009年に「宇宙計画2050」なるものを発布したが、2016年に発布した宇宙計画白書では、〔2025〕と歩調を合わせて、2022年までに中国独自の宇宙ステーションを正常に稼動し始めるとしている。習近平政権が唱える「一帯一路」巨大経済構想に参加する発展途上国に対しては、資金や技術が十分でない場合、中国がその国に代わって、当該国の人工衛星を打ち上げ、保全してあげるという計画が、その白書には入っている。また〔2025〕と同時に発表した「2015中国国防白書」は「軍民融合」を強く提唱しているが、そこには意表をつく「宇宙制覇」への恐るべき戦略が静かに潜んでいる。こうして宇宙スペースにおいて先に「唾をつけて」、宇宙の実効支配スペースを広げていこうという野望を習近平は描いているのだ。


 これに対してトランプ大統領は2017年12月、「宇宙政策大統領令」を発令して対抗している。


 一方、トランプが「一国主義」を掲げているのを、むしろ幸いなことと位置付けて、習近平は「多国間貿易」を主張し、「人類運命共同体」をスローガンにして新興国を中心に連携を強めている。その象徴が「一帯一路」であり、「BRICS+」(ブリックス・プラス)であり、「中国アフリカ協力フォーラム」だ。BRICSだけでも人類の40%を超える人口を抱えているのに、「+」ではさらに22カ国が参加し、アフリカは1カ国を除く53カ国が参加している。


 2014年4月に習近平は、中国人民解放軍の空軍に対して「空天一体化」を指示し、「強軍の夢」を語った。「天」は中国語では「宇宙」を指す。「一帯一路」は、今や「空天」をつないで「一帯一路一空一天」へと発展しつつあり、それを支えるのは、〔2025〕とそれに伴う中国宇宙計画である。中国は、すでに解読不可能な「量子暗号」を搭載した人工衛星の打ち上げに成功している。「暗号を制する者が世界を制する」という目標に向かって、まっしぐらに突き進んでいる。それを支えているのは、30代や40代の若き研究者たちだ。国際宇宙ステーションの有人飛行を担うロシアのソユーズが2018年10月に打ち上げに失敗したのは、宇宙飛行士が高齢だったからとのこと。


 いま日本では「習近平一強」を語るに当たり、権力闘争ばかりに焦点を当てたがる傾向にあるが、そのような、日本人の()(もく)に心地よい迎合型分析をしていると、これら一連の国家戦略が見えてこない。それは日本の国益を損ねる。


 その意味では、トランプに感謝すべきだろう。彼が米中貿易戦争を仕掛けてくれたことにより、〔2025〕が持つ重要性に焦点を当ててくれたのだし、中国の戦略をあばいてくれたのだから。日本人が事実とかけ離れた権力闘争物語を面白がっている内に、中国はハイテク産業のコア技術で日本を追い抜き、宇宙を支配してしまうかもしれない。


 言論弾圧の国がハイテクと宇宙により世界を制覇したら、どのような明日が待っているか、誰の目にも明らかだ。日米の安全保障をも脅かす。それでも日本は、中国の真相と習近平の真の狙いが見えないようになる方向に国民を牽引し、中国に喜んで協力することにより、中国の夢の実現に手を貸そうというのだろうか。


 本書では、オバマ元大統領は気付かず、トランプの警告によって明らかになった〔2025〕を、人材と半導体および宇宙に焦点を当てながら分析し、中国の実態と野望を明らかにする。米中貿易戦争自体に関しては変数が大きいので追いかけない。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:0文字/本文:5187文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次