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「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか
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政治・社会
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第四章 習近平の「宇宙支配」戦略

『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』
[著]遠藤誉 [発行]PHP研究所


読了目安時間:1時間14分
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 第三章の冒頭で述べたように、農民革命に成功した毛沢東は、科学技術とはほど遠いはずだった。しかし建国からまもなく核実験に成功し、その直後から10年間にわたる文化大革命(文革、1966〜76年)を発動しながらもなお、宇宙開発をやめたことがない。1958年からの大躍進で3000万人の餓死者を出し、文革において2000万人以上の犠牲者を生んで中国経済を崩壊させながらも、文革の真っただ中に人工衛星の打ち上げに成功するのである。この戦略と執念が、現在の中国の「量子暗号」による世界制覇への基礎を成している。

「暗号を制する者が世界を制する」と言われるが、誰にも解読されない「量子暗号」と、それを搭載した「量子通信衛星」を最初に打ち上げたのは、アメリカでもなければ日本でもない、ほかならぬ中国だった。


 その実績を見せた上で習近平国家主席は、2017年10月に開催された第19回党大会で「宇宙強国」への道を歩む決意を表明したのである。これは世界を制覇することを意味している。それだけではない。「量子暗号」は人類の歴史を変えてしまうだろう。


 トランプ大統領が、このようなことを許しておくはずがない。言論弾圧をする国が宇宙を支配し世界を制覇する。それは考えただけでも恐ろしいことだ。だからトランプ政権は武器を使わない貿易戦争という形で中国に「挑戦」し、宇宙開発を支える〔2025〕を達成させまいと阻止している。


 一方、わが日本はどうなのか。


 日米同盟がありながら、「アメリカがダメなら日本へ」と近づいてくる習近平を喜んで迎え入れようとしており、むしろ習近平と会うことを名誉とし、政治業績としようとしている。


 習近平が権力闘争に明け暮れているという誤情報を発信し続けて日本国民を喜ばせ、習近平の真の狙いが見えなくなるようにさせてしまっている日本の中国研究者もメディアも、習近平を喜ばせるだけで日本の国益を損ねている。このままでは習近平勝利の可能性を、より高めていくことになるだろう。


 本章では〔2025〕に潜む宇宙開発や、世界がしのぎを削っている「量子通信衛星」、特に「量子暗号」に焦点を当てて、習近平が目指す「宇宙支配」への準備を読み解くこととする。


一、世界初の量子通信衛星打ち上げに成功


世界初の量子通信衛星「(ぼく)()(ごう)」が打ち上げに成功


 2016年8月16日午前1時40(日本時間午前2時40分)、新華網は、世界で初めての量子通信衛星「(ぼく)()(ごう)」の打ち上げに成功したと伝えた。中央テレビ局CCTVも速報で伝え、「(ちよう)(せい)2号」ロケットを使い、中国甘粛省のゴビ砂漠にある酒泉衛星発射センターから発射したと、高揚感に満ちていた。


 量子通信衛星は中国科学院宇宙科学先導特別プロジェクト第1陣の科学実験衛星の一つで、その主な目的は、

●衛星・地球間高速量子暗号通信実験を行い、これを踏まえた上で広域量子暗号ネットワーク実験を行い、宇宙量子通信の実用化で重大な進展を目指すこと。

●宇宙スケールで「量子もつれ通信」や「量子テレポーテーション実験」を行い、宇宙スケールの量子力学の整合性を確認する実験・研究を行うこと。

などにある。


 さあ、難しい専門用語がたくさん出てきてしまった。しっかり落ち着いて頭に入るように、一つ一つ、しかしできるだけ平易に、ご説明をしよう。


 まず、「量子」とは何か?


 量子というのは物理の世界で最小の、これ以上は分割不可能な物質やエネルギーの基本単位のことである。粒子と波の両方の性質を持ちあわせるため、粒子から見れば「最小物質」だし、波は「エネルギー」の塊なので、「エネルギーの基本単位」ということもできる。


 光を「粒子」とみなしたときに「光子(フォトン)」と称するが、フォトンはエネルギーを持っている。だから「粒子(物質)であると同時にエネルギーの塊」でもある。このエネルギーの塊は「波動」でもあり、量子は「粒子性と波動性を同時に持っている」と表現することもできる。


 物質を形作っている原子そのものや、原子を形作っているさらに小さな電子・中性子・陽子といったものを量子ということもあれば、光を粒子として見たときの光子やニュートリノやクォーク、ミュオンなどといった素粒子を量子の中に含めて、量子と呼ぶこともある。


 量子の世界は、原子や分子といったナノサイズ(1メートルの10億分の1)あるいはそれよりも小さな世界で、このような極めて小さな世界では、私たちの身の回りにある物理法則(ニュートン力学や電磁気学)は通用せず、「量子力学」という法則に従う。


 物理を学ぶ者は、必ずこの「量子力学」を学び、「波動方程式」の関門を通過しなければ、次の領域に進むことができない。


 では、「量子通信衛星」というのは何か?


 細かな説明はすればするほど、そこに使われている専門用語をさらに説明しなければならなくなるので、ざっくりと言ってしまえば、「量子通信衛星」とは、「量子力学の原理を利用して、他者には解読不可能な暗号を用いた通信システムを構築するための人工衛星である」とでも言おうか。


 解読不可能な暗号は、「量子暗号」といって、従来のセキュア通信とは異なり、解読に必要となる暗号キーの伝送媒体として光子を用いている。

「セキュア通信」というのは「第三者に盗聴されないように対策を施した通信のこと」で、われわれが普通に使うメールや電話なども、一応、「安全(secure、セキュア)だとみなされている。しかし、実際は盗聴可能だし、覗き見も可能である。


 ところが「量子もつれ通信」となると、これは第三者が解読することが原理的に不可能なので、盗聴ができないと、今はみなされている。


 この「量子もつれ」というのを分かりやすく説明することは困難だが、英語で「quantum entanglement(カンタム エンタングルメント)」と表現することからも分かるように、「量子の絡み合い」と解釈することができる。量子あるいは光子は、互いにどんなに遠く離れていても、間に如何なる媒体がなくても、互いに影響し合うことを指す。これは量子が、「波と粒子の二面性」を持っていると同時に「一つなのに、同時に複数の場所に存在する」という「状況の共存性」という、()()不思議な性格を持っているからである。あのアインシュタインも、それを概念的に、あるいは、これまでの知識でイメージできる感覚で理解するのは困難だと悩んだくらいだ。「理解できると言う人がいたら、その人は噓つきだ!」と叫んだ物理学者さえいる。


 だから、こんな難しいことを直感的に「なるほど」と分かることなど困難なので、結果的に何が起きるかをご説明した方がいいだろうと思う。


 つまり、どちらかの状況に変化が起きると、もう片方にもすぐさま同じ影響が及ぶ現象を一種の遠隔作用というが、通信を暗号化し、盗聴を防ごうと思ったときに、二つの「もつれた量子」が途中で誰かにハッキングされたりすると、2点間で影響していた「もつれの法則」が壊れてしまい、遠隔作用が成立しなくなってしまう。そのため、ハッキングされたことが分かるので、こっそりハッキングや盗聴ができなくなるという効果があるのである。


 人類の誰もが、この夢のような量子通信ができるための量子通信衛星の発射に成功したいと競争していたのに、「こともあろうに」というか、アメリカではなく、もちろん日本でもなく、こともあろうに、あの中国が先に成功したのだ。


 世界で初めて打ち上げに成功したこの量子通信衛星の名前は、紀元前5世紀頃の中国の科学者であった(ぼく)()(Mo-zi)にちなみ、「墨子号(Micius)」と命名された。日本では墨子は中国戦国時代の思想家として知られているが、中国では「中国最古の科学者の一人」と位置付けられていることが多い。墨子は物理の内の光学(オプティックス)に関して興味を持ち、光の直進性や反射、あるいはピンホール(小さな穴)によって実像を結ぶことなどを研究している。

「墨子号」は、長距離向けの量子通信技術の利用可能性を検証する実験に活用する目的で打ち上げられた。中国西部にある(しん)(きよう)ウイグル自治区のウルムチと北京との間で、安全に情報をやりとりするために利用されている。


 もう一つの難解な専門用語「量子テレポーテーション」は、この「量子もつれ」を利用して、二つの光子の間で、量子状態に関する情報を瞬時に転送する技術のことである。


「墨子号」チームの背景には「千人計画」


 量子通信衛星を打ち上げるなどということが可能な背景には、必ず巨額の経費の保障が必要なので、アメリカでは「独裁国家中国」だからこそ、すべてをかなぐり捨てて巨額のカネをつぎ込んだ結果だと、腹立たしげに分析する傾向にあるが、必ずしもそうではない。


 これまで本書で一貫して追跡してきた「人材の獲得」にこそ、その成功の鍵がある。

「墨子号」チームのリーダーとなっていた人物は、中国科学院の院士の一人である(はん)(けん)()(Pan-jian-wei パンジェンウェイ)だ。


 潘建偉は、1970年に浙江省に生まれた物理学者で(今年わずかに48歳!)、2005年に、中国にある八大民主党派の一つである「九三学社」に入党したという、珍しい存在である。中国共産党員ではない。現在は中国科学技術大学(中国科学院管轄。安徽省)の常務副学長や中国科学院量子信息(情報)・量子科学技術創新研究院院長などを務める。


 中国科学院の院士であると同時にオーストリア科学院の外国籍院士でもある。2017年1219日に「十大科学人物」に選ばれ、「量子の父」という称号をもらった。同日の人民網は、その年1年で科学に重要な影響を与えた「今年の10人」をネイチャー誌が選出し、中国からは潘建偉が選ばれたと伝えている。


 潘建偉は国家「千人計画」の特別招聘専門家の一人で、20年ほど前(1996年、26歳で)、オーストリアに留学したときに、オーストリア科学アカデミー院長で宇宙航空科学において最高権威を持つツァイリンガー(Zeilinger)教授に会っている。初対面は、1996年の10月。そのときツァイリンガー教授に、「あなたの夢は何ですか?」と聞かれたそうだ。すると若気の至りもあって、つい「中国で世界一流の量子物理実験室を持つことです」と答えたとのこと。


 潘建偉は当時を思い出し、「生まれたばかりの子牛は虎を恐れない」という(ことわざ)を用いて、「経験の乏しい若者はこわさを知らないがゆえに無鉄砲なまねをするものだ」と照れながらも、結局その夢を捨てきれずに、帰国後の2001年に中国科学技術大学で量子物理学・量子情報実験室を持つことが叶い、こんにちまで走り続けてきたと、墨子号発射の後のインタビューで語っている。


 そして強調したのは、「中共中央が、人材優先の戦略を打ち出し、大々的な国家支援をしてくれたことが成功につながった」と感慨を漏らした。最後に「中共中央」や「習近平」を礼賛するのはメディアに出る中国人の習慣に近い「慣用句」という一面はあるものの、それを差し引いても、おそらく人材優先戦略は少なからぬ当事者に影響を与えていることは否めない。


 吉林大学の黄大年教授も、18年に及ぶイギリスにおける研究を放棄して、「千人計画」の招聘学者として2009年に帰国し、航空宇宙地球物理探索技術研究に従事することとなった。


 このとき彼に帰国を決意させた理由は、中国が大々的に「千人計画」という人材戦略を策定し、国家予算を思いきりそこに注ぐという確固たる国家戦略に基づいて動こうとしている、その本気度を感じたからだという。「国家がこの私を宝物のようにして欲しがってくれており、大きな国家事業に向けてまい進しようとしている。自分の人生がそこで必要とされているというのなら、戻って祖国のために尽くそう、という自尊心と尊厳を抱かせた」と述べている。「イギリスにいたら、このような世界初の偉業を成し遂げるような事業に携わることができたのか否かは疑問だ」と、やはり「墨子号」発射成功後のインタビューで述懐している。


 2016年1123日、CCTVでは「墨子号の背後で動いていた人材制度に関する思考」というタイトルの特集番組が制作されたが、そこには以下のようなことが書いてある。

──2012年11月、第18回党大会において、習近平同志を核心とする中共中央は人材業務に関して最も高い関心を払い、天下から集まった人材を活用すべく、グローバル競争に打ち勝つことのできる人材制度の完成を加速させた。千人計画の学者、潘建偉を中心とした開発チームが世界初の量子通信衛星「墨子号」打ち上げ成功という大事業を成し遂げたことは、国内外に大きな反響を巻き起こした。世界中の多くの記者たちがこの驚くべき現象を報道したが、潘建偉チームは「世界に追いつけ」から「世界のトップを走る」中国を、現実のものとさせたと、驚きを隠さなかった。それは中国の人材制度の優勢を示すものであり、今後のわが国の科学技術の進歩と人材の発展を如実に示唆するものとして人類の歴史に輝くだろう。


 つまり、「人材」に対する中国の戦略があったからこそ、墨子号の打ち上げに成功したのだということが言いたいわけだ。

「墨子号」開発に当たっては、中国科学技術大学を中心として、中国科学院の上海技術物理研究所、中国科学院(北京本院)光電技術研究所、中国科学院上海微小衛星工程センター、中国科学院紫金山天文台、中国科学院国家天文台など、十数個におよぶ研究所や大学が一体となって協力している。

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