『齋藤孝のガツンと一発文庫 第3巻 頭がよくなる必殺! 読書術 うまくいく魔法のじゅもん「心・技・体」』
[著]齋藤孝
[発行]PHP研究所
1 本を読むと「いいこと」があるぞ!
みんな、そこにお座り。
これから、「読書」に関するおもしろいお話をしてあげる。
この話を聞けば、
「そうか、読書って、人生を楽しくするための裏ワザなんだなぁ」
「親や先生が、本を読みなさい!と言うほんとうの理由はこれかぁ~!!」
「読書にとって大切なのは“芋づる式”だったのか!」
「読書感想文を書く、こんなカンタンな方法があったの?」
「もっと本を読んで、みんなと語りあいたい!」
と思えること、まちがいなしだ。
この本に出合ったキミは、それだけで、読書することが楽しくなる。日々の生活も圧勝。そんなお話を出血大サービスしちゃう。読むだけで、キミがカッコよくなっちゃう本をつくっちゃった。カッコよくなりたいでしょ? だったら、ぼくの話を聞きたまえ。
ぼくはいま、大学の先生をしていて、いろいろなことを教えている。
これまで、「本の読み方の究極のワザ」や「本が人をいかに育てるか」ということの研究をしてきました。これから、その研究発表をしようと思う。
みんな、本を読んでいるかい? 学校の時間割には、国語の時間があるよね。それ以外にもおうちで本を読んだり、図書室や図書館で読んだり、友だちと本の貸し借りをしたりすることがあるはずだね。
お父さん、お母さんに「おもちゃを買ってほしい!」「ゲームほしいな!」と言っても、ちっとも耳を貸してくれないのに、本なら買ってくれるでしょう。不思議だなぁ、と思ったことはありませんか?
なぜ、キミのまわりの大人たちは本を読め~!と言うのでしょうか?
読書とはなにか? これを考えると、その謎が解ける。
もう、最初に答えを書いちゃいます。
読書=錬金術なんです。
錬金術ってわかるかな? 価値がない石ころや、ふつうの金属を“黄金”に変えてしまう術のことです。つまり、読書をすると、ただの石ころ人間が、黄金人間に変わってしまうんです。すごいですね~。
だから、たくさん本を読んだ人は、前よりも、いっそうキラキラ輝く。価値が出てくる。魅力が出てくる。そんな魔術のようなことなんです。
ちょっと考えてみましょう。
〔問題〕本を読むと、どんな「いいこと」があるでしょうか?
みんな答えを読む前に、考えてみてください!
〔答え〕知らなかったことを知ることができる。知らない人の気持ちを感じることができる。行ったことのない場所を想像することができる。その本を書いた人と一対一で会話している気持ちになれる。ひとりでも楽しい時間を過ごすことができる。友だちとの話題ができる……。
いろいろな「いいこと」があるね。ほかの答えを思いついた人もいるだろうね。
キミの生活と本は、切っても切れない仲なんだな。キミと本の関係は、一生続いていきます。だから、本とのつきあい方をバッチリ覚えれば、ますます楽しく生きることができるんだ。すごく生き方のレベルが上がっていくんだね。
この本を読み終わるころには、キミは、いまよりもグ~ンと読書力が上がっている。そのことを保証しておこう!
では、ぼくの話を聞きなさい。
いざ、頭がよくなる必殺!読書術、スタート!
2 大事なのは読破感だ!
読書術その1 まずは十冊、読んでみようよ
みんなのまわりには、本を読むのが得意な人がいます。本を読むのが苦手な人もいます。
この違いはどこからくるか? 最初にこの話から始めよう。
読書が得意な人は、ラクチンに読んでいるんです。「ああラク、ラク。ラクショーだ~」と思いながら読んでいる。苦手な人は、「つらいなぁ~」と思いながら読んでいる。
この違いは大きいですねぇ。だれだってラクに読みたいものです。でしょ? だって大人のぼくでさえそうだもん。
では、読書術その1、大切な事実を教えますよ。
ジャジャン。読書がラクになるのは、十冊目をすぎてからです!
なあんだ。そういうことだったんだ。得意な人というのは、もう十一冊目とか二十冊目とか、五十冊目を読んでいる人だったんだ。
逆に、苦手な人というのは、まだ十冊、読んだことがない人だったんです。ただそれだけの違いだった。
だから解決策としては、最初の十冊を、とにかく読むしかないのですよ。
ここで、突然だけど、飛行機を操縦(運転)するパイロットのことを考えてみよう。
飛行機のパイロットたちは、免許を取らないと、お客さんを乗せた飛行機を操縦することができません。免許を取るために、お客さんの乗っていない飛行機で操縦の練習をするわけだけど、そのときに、二百時間以上、練習しないと、国の試験を受けることができないんだ。ドンドン飛ぶ練習をして、飛んだ合計の距離を伸ばすことによって、あるレベル以上の技術が身につく。そうして初めて、お客さんを乗せて飛ぶことができる。
読書もそれに似たところがあるんだ。
読書というのは、本という飛行機に心や感情を乗せて、いろんなところに旅行するようなものなんだ。だから、キミ自身が、自分の心のパイロットになるようなものだ。ドンドン読んで、十冊を読み終えたところで初めて、“安定した”読む力がつくんだね。ほんとうの読書というのは、そこから始まる。そんなイメージをもってほしいんだ。
でもね、苦手な人の気持ちは、ぼくにもよくわかりますよ。
大人になると文庫本というのを読むようになります。文庫本というのは、サイズが小さくて、字も小さい、大人向けの本なんだ。まあ、いってみれば、ちょっと操縦がむずかしい飛行機だね。だけど、より遠くへ飛ぶことができる飛行機。ぼくが初めて文庫本を読んだときは、
「おーい、いったいあと何ページあるんだよぉ~」
と叫んで、何度も残りページをたしかめながら読んでいました。読んでいるうちに、頭がポヤ~ンとしてきてしまって、
「あらら、違うことを考えてたよ。本に戻らなきゃ!」
みたいなこともあったよねー。大空で道に迷ってしまったような気分だ。目的地はどこだ? まだ着かないのか?って。
たしかに、本というのは、字を追っかけるのがメンドクサイなぁ、というときもあります。
でも、まずは十冊、読んでみようよ。とにかく、十冊読んでみよう。
そうすると、読む技術が身について、信じられないくらいどこまでも飛べるようになります。ぼくが保証します。
読書術その2 大切なのはスピードだ!
読書術その2。
最初の十冊を読むときに大切なのは、スピードです。ドンドン前に進んで読むことがコツだ。そのためには、内容はカンタンでもかまわない。はじめのうちは、むずかしい本はやめておこう。なかなか進んでいかないからね。
まずは、何ページ読んだかということで、勝負するのです。ぼくが小学生のころ、“ページ数が進んだ子の勝ち”というコンテストを学校でやっていました。先生が、
「キミ、今日は何ページ読んだ?」
と、毎日聞いてくれて、教室の後ろの表にシールを貼ってくれたの。小学生向けの本は字が大きいから、一日二百ページくらい読めちゃう。そうすると、二百ページ分のシールが貼られていく。ドンドン、ドンドン、シールの数が増えていくので、おもしろくて止まらなくなっちゃうんですよ。
そういうことをやるといいね。おうちでもやるといい。
目標は、とりあえず、千ページ。『ズッコケ三人組』シリーズ(那須正幹・作、ポプラ社)だったら、二百ページを読むのは、そんなにたいへんじゃない。『ズッコケ三人組』五冊で、千ページだよ。そんなに、むずかしくないって。
赤川次郎の『三毛猫ホームズ』シリーズ(光文社文庫、角川文庫)とか、寺村輝夫の『かいぞくポケット』シリーズ(あかね書房)。あとは矢玉四郎の『はれときどきぶた』(はれぶた)シリーズ(岩崎書店)とかね。
ぼくは『はれぶた』を読めない小学生って、会ったことないぞ、まだ。あれは、一冊読んだら、残りの五冊ぐらいすぐ読みたくなるからね。そうすると一気にページ数がかせげるぞ。千ページなんてあっという間。十冊なんてあっという間。
「意外にラクショーでいけるんだな」というふうに思ってほしいんだよね。
とにかく、ドンドン読んで、ページをめくるという感じを体で覚えていくんだね。
じゃあ、読んでいてつまらなくなったら、どうするか。
飛ばす。十ページくらいバーッと飛ばしちゃう。で、パラパラとめくってみて、またおもしろそうなところが見つかったらそこから読めばいいんです。スキップしてもかまわない。
最初から一ページ、一ページていねいに、ていねいに読もうとして、途中でやめちゃうよりは、スキップしながらでも、最後まで読んだほうが価値がある。そう思ってください。ドンドン進むことが大切。
そうやって十冊を読むうちに、キミは「読破感」というものを味わえるはずだ。ここが重要なんだ。読破した、という気持ちをもつこと。
読破というのは、読み、破ると書く。壁を突き破るようにして、本を最後まで読みきることを「読破する」という。いい言葉だよね、読破って。破るというところに、たまらなく爽快感(気持ちよさ)があるね。
英語では、フロム・カバー・トゥ・カバーといいます。表紙から、裏の表紙までという意味ですね。それは、ぜんぶ読む、一冊読むということなんです。その読破感というのが、次の本を読む推進力になるんだ。ぼくは、子どものころは、読破感がとくに大事だと思っているんだ。
「わあい、読みきったなあ」
という充実感。気持ちいいですね、これは。
たとえばマラソンでも、最初はグラウンド十周で疲れていたのが、十周走りきったなと思ったら、次は十二周、十五周って、ドンドン伸ばしていけるでしょ。本も同じ。その充実感を、まず本で味わう。
本というのは、そういう「やったなあ」という感じが形に残るという意味で、すごくいいものだよね。
本を読むと楽しいけれど疲れるのはなぜ?
みんなは、本を読み終わると──さっき説明した言葉を使うならば本を読破すると──、どんな気持ちがしてきますか?
自分の書いたものじゃないんだけど、読み終わると、なにか自分のもののような気がしてくる。そんな気持ちになったことはないかい? なぜか、書いた人と友だちになったみたいな感覚。書いた人と自分がつながっているような感覚。きっとあると思います。ぼくは、いつもそんな感じがするんだ。
「この人と自分は、仲がいいな」というふうに思えるって、すばらしい感覚だと思わないかい? しかも、本の場合は、読み終えて本棚に並べておけば、いつでもそこにいてくれる友だちみたいな関係ができるんだ。その本を書いた作者と一対一で真剣な会話をしているみたいなものだから、友だち感覚になるのも、けっして不思議なことじゃない。
その感覚は、テレビを見終えても感じることはできないよね。たとえば、テレビのお笑い番組を見て笑ったとします。