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破られた対称性
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人文・科学
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第6章 宇宙と素粒子 私の遍歴

『破られた対称性』
[著]佐藤文隆 [発行]PHP研究所


読了目安時間:26分
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原子核・素粒子と宇宙物理

 私は一九六〇年に「核エネルギー学」講座の大学院生となった。当時の原子力ブームでできた新講座で、湯川研の助教授であった林忠四郎氏が教授になり、大学院生も湯川研から移ってきて発足した。熱核融合反応がキーワードであり、地上での核融合と天体でのエネルギー生成の二股かけてスタートとしたようだ。天体での原子核反応の研究は「星の進化」と「元素の起源」の基礎であり、一九五〇年代から活発になっていた。私は核融合をやろうとしてプラズマ物理の勉強から始めたが、この分野の教員が他大学のポストに昇進していなくなったので、あとは自分ひとりであれこれ自由に勉強することになった。林教授が一九六一年にハヤシ・フェーズという宇宙物理の重要な成果を上げられたこともあって、一九六二、三年頃から研究室は宇宙物理一本に変わっていった。

 勉強したプラズマ物理は核融合とスペース・サイエンスと結びついていることを知り、まず太陽活動や宇宙線の科学に興味をもった。「第一期」の素粒子物理を支えた宇宙線の研究は、素粒子実験が加速器に移ったので、この時期には宇宙やスペースの科学との関連をもつようになった。基研で始まった研究会に出入りして宇宙線、シンクロトロン放射、銀河電波、この三大話を結びつける勉強を始めた。

クェーサーの発見

 その時期の一九六二年、電波天文によって今でいうクェーサーの発見につながる観測の論文が「ネイチャー」につぎつぎに発表された。このテーマを追って宇宙物理と一般相対論の専門家に私は変身した。電波望遠鏡で分解できないくらいに視角が小さいサイズのクェーサーのエネルギーの源をめぐって当初は原子核のエネルギーでないかと考えられたがいろいろな難点があった。そして一九六三年にホイルとファウラーがクェーサーの重力崩壊説の論文を提出したので、私もにわかに一般相対論を勉強した。これがブラックホールの登場なのであるが、当時はまだこんな名前はなかった。この論文を林研で紹介した際には湯川秀樹がわざわざ聞きに来られたことがあった。多分、この一件で私が湯川の圏内に入ったようで、その意味でもその後の人生の展開に寄与した忘れられない論文である。

宇宙背景放射の発見

 一九六四年、私は助手になっていたが、ある時、林さんからこう言われた。「ニュートリノに関して素粒子と宇宙の合同研究会をやる。報告者は素粒子の方は山口(嘉夫、当時東大教授)さん、宇宙のほうは自分にまかされた。ついては、君に宇宙論関係の総合報告をやってもらいたい」。当時、星のニュートリノ反応はホットな話題だったが、膨張宇宙については目立った話題はなかった。そこで関連のありそうな論文を手当たり次第に読んだ。このときはじめて、林さんの一九五〇年のビッグバンがらみの論文を読んだ。これはガモフらのビッグバン宇宙のアイディアを、ニュートリノ反応を考慮して改良したものだった。暗黒物質の候補に結びつくニュートリノ黒体放射の存在を最初に指摘したのは、この林論文である。ニュートリノの勉強に精出したこともあり、ビッグバン宇宙と素粒子物理の応用というのが、自分の守備範囲に入った。

 それから暫くした一九六五年の秋、ペンジアスとウィルソンによるCMB(宇宙マイクロ波背景放射)の大発見のニュースが入ってきた。一九七五年のノーベル賞に輝くこの発見は、大陸間テレビ中継の開発実験の中でまったく偶然に発見されたのであった。じつはニュートリノ研究会のあと、林さんの助言でビッグバンでの元素合成の計算を始めた。大型コンピュータの本邦初使用みたいな時期に数値計算に挑戦したのだが、いろいろとトラブっている最中であった。そこにこの大ニュースが飛び込んできて、ビッグバンでの元素合成のテーマが、急に学界のメインテーマに浮上した。まったく別の流れで一歩先んじて計算を始めていたのだが、力量不足で難渋がつづき、一九六七年頃にやっと論文が出せた。しかし同じ頃に出たホイルとファウラーの分厚い論文がこの種の計算の決定版となり、私の計算は無視されるはめになった。原子核反応のデータはファウラーのところが本場なのである。宇宙での核反応の実験データの功績でファウラーは一九八五年にノーベル賞を受賞することになる。

「宇宙の晴れ上がり」

 それまで一人でやっていたが、この頃から大学院生の松田卓也くんたちと一緒に研究するようになった。ビッグバンの初期は、高温で水素は全部イオン化しているが、膨張して低温になって中性の原子になるプロセスを詳しく計算した。
「宇宙の晴れ上がり」という言葉を作ったのは私であるが、この「晴れ上がり」を画するプラズマの中性原子化の過程をちゃんと計算した。
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