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懐かしい「東京」を歩く
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ルポ・エッセイ
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文庫版まえがき

『懐かしい「東京」を歩く』
[著]森本哲郎 [発行]PHP研究所


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 本書はいまから十年前の一九九五年(平成七)に『ぼくの東京夢華録(とうきようむかろく)』と題して上梓(じようし)した単行本(新潮社刊)を改題して文庫に収めたものである。

 東京ほど激変する都市は、ほかにあまり見られないが、この十年間の変貌も大きかった。丸の内の丸ビルは高層ビルに生まれ変わり、六本木には六本木ヒルズの超高層ビル街が出現し、お台場は若者の“メッカ”になり、恵比寿のガーデンプレイスも人を集めるようになった。

 だから、東京を語ることは容易ではない。時々刻々変化してやまないからだ。語るには、常に日時を添えねばならない。いつの時点での東京か、を。それはこの都市がそれだけ活気に満ちていることの(あかし)でもあろうが、問題はその変わり方にある。東京は新しく再開発されるたびに、徹底的に過去を抹殺してきた。その結果、生まれ変わることによって記憶を消し去ってしまう、ということになる。

 ぼくは東京で生まれ、東京で育ち、東京で八十年近くの人生を送ってきた。ぼくにとっては東京がかけがえのない故里(ふるさと)なのである。そこで改めてなつかしい故郷を歩いて懐旧の感慨に浸ろうと、思い出深い町々を訪ねてみたのだが、その願いはとうてい(かな)うべくもなかった。それらの場所は昔の面影を片鱗(へんりん)だにとどめていなかったからである。そのほとんどが別世界になり果てているのだ。

 むろん、戦争によって破壊しつくされたゆえもあろう。しかし戦禍というならヨーロッパの街々も同様に大きな被害を受けている。だが、ヨーロッパの都市は戦前と同じように復活した。ポーランドの首都ワルシャワに至っては、残された一枚の絵を頼りに昔通りの街並みを市民たちが協力して再現させたのである。懐旧の念が空腹に打ち克って、彼ら一人ひとりに瓦を運ばせたのだった。

 一方、わが国でも東京は焼け野が原から(たくま)しく復興したが、その復興はまったく過去を顧みずに進められた。いや、むしろ、かつての街並みを無視し、文字通り一新することによって別の東京を出現させたのである。そこで戦後の東京は歴史的な景観を一気に霧散(むさん)させることになった。懐かしい東京は、こうしていっぺんに姿を消してしまったのだった。

 ぼくは何もかも昔そのままに、などというつもりはない。が、せめて過去を(しの)ぶよすがとなるものは再現し、面影をとどめるべく努めるべきだったのではないか。これほど“見事”に過去を一掃し、効率と経済的価値だけで都市を再生させたことに対して、何とも味気なく、残念に思うしかない。

 都市とはある意味で記憶の集積所、思い出の貯蔵庫でもある。江戸以来、数百年の歴史を背負った東京には、それなりに心に刻むべき歴史的な“遺跡”が数多くあるはずだ。そのような遺産には目を向けず、ひたすら新しいものだけに専念して、新都をめざしたところに、いまや国際的なメガロポリスになった東京の無機的な性格がにじみ出ているのではないか。

 先にも述べたように、本書は十年前執筆した東京回顧であるが、こうした思いは、いまもまったく変わっていない。いや、東京は、ますます過去を切り捨てて、さらに新しくなろうとしているように思われる。いまに、「懐かしい東京」を歩こうにも、そんな場所は絶無になるにちがいない。ぼくは東京が思い出多き故郷となる日を夢見て本書を(つづ)ったのであるが、十年の月日を経た今、それが見果てぬ夢に終るような気がしてならない。

 わが東京が、今後、陰翳に富んだ歴史的な首都として、人生の懐かしい舞台として発展していくことを、ぼくは心から願っている。


 本書をPHP文庫に収めるに際しては、PHP研究所文庫出版部の根本騎兄氏にたいへんお世話になった。厚くお礼申し上げる。また、いつものように原稿・写真などの整理に当ってくれたぼくの助手、田村朋子さんにもあらためて謝意を表したい。

二〇〇五年 四月
森本哲郎
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