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(2021/11/26 追記)

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懐かしい「東京」を歩く
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ルポ・エッセイ
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渋谷村「丘の上の家」

『懐かしい「東京」を歩く』
[著]森本哲郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:15分
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 田山花袋の『東京の三十年』というエッセイがぼくの愛読書の一冊であることは、前に記した。くり返していうと、この回想記は大正六年(一九一七)に書かれたもので、表題にしたがうなら、明治二十年(一八八七)からの三十年にわたる東京の変貌を叙したもの、ということになろう。

 第二次大戦後の東京の激変ぶりもすさまじいが、花袋が十七歳で群馬県館林(たてばやし)から再上京し、東京の牛込(うしごめ)に住むようになってから三十年のあいだの東京の変りようも、目を見張るばかりだった。

 彼は、その後、いったん郷里へ帰るが、明治十九年、兄を頼ってまた東京にやってくる。このわずか五年のあいだにも、日本の新しい首都は、おどろくほど様相を一新していたようだ。『東京の三十年』には、「その時分」のことが、感慨をこめてつづられており、これを読むと、現在に至るまで姿を変えてやまない東京という町の変貌の様子を、まざまざと痛感させられる。

 と言って、この随筆は東京の変遷史を記したものではない。彼の回想は、むしろ自分の青年期の生活、交遊の記憶に主眼が置かれており、いわば彼自身の“懐古録”となっている。国木田独歩、柳田国男、尾崎紅葉、川上眉山(びざん)、正宗白鳥、岩野泡鳴(ほうめい)、馬場孤蝶(こちよう)、小栗風葉(ふうよう)、斎藤緑雨(りよくう)、島崎藤村、蒲原有明(かんばらありあけ)、そして二葉亭四迷……こういう明治文壇の人たちが、じつに生き生きと描かれているのである。

 だが、そうした作家たちへの興味もさることながら、そのところどころに叙述されている東京の風物が、私に、たまらないほどの“郷愁”を呼びおこさせる。

 この著作の冒頭に、花袋が本屋の「小僧」として使い走りをしていたころの東京が記されている。本を背負いながら、彼が使いにやらされた、いちばん遠いところが、「高輪(たかなわ)の柳沢伯邸」と、もうひとつは、「駒場(こまば)の農学校」だった、という。ことに駒場の農学校へ行くのには骨が折れたようだ。なにしろ、京橋から現在の目黒区駒場、東大教養学部(旧一高)のあたりにあった「駒場農学校」(明治十一年開設)まで、子供の足で歩いて行くのであるから、その苦労たるや推して知られよう。まだ(おさな)い花袋は、青山の長い通りを、何丁目、何丁目と数えながら歩を運んだ。

 ぼくも小学校四年のとき、中野の桃園(ももぞの)第四小学校(現在の神明小学校)から、青山にあった青山師範(現在の学芸大)附属小学校へ転校し、渋谷駅から青山通りを五丁目まで、よく歩いて──たまには市電に乗ったが──かよったから、こうした花袋の体験が、じつによくわかるのだ。
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