読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/9/29 UP)

犬耳書店は、姉妹店のRenta!(レンタ)へ統合いたします。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-2
kiji
0
0
1275900
0
幕末・長州に吹いた風
2
0
0
0
0
0
0
ルポ・エッセイ
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
5 歴史のつめあと

『幕末・長州に吹いた風』
[著]古川薫 [発行]PHP研究所


読了目安時間:21分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


高杉晋作の墓碑銘



 慶応三年(一八六七)、下関で病死した高杉晋作の遺体は、吉田の清水山(現下関市内)に葬られた。遺言といわれているが、確かなことはわからない。


 臨終間際に、「吉田……」とうわごとのようにつぶやいたのは、「吉田松陰先生」といおうとしたのではないか、いや奇兵隊の本陣があるそこへ埋めてくれというつもりだったのだろうと、解釈は二通りあったらしい。


 とにかく墓地としては恰好の場所で、地下の晋作も満足しているにちがいない。ただ彼がいささか不満を覚えているとすれば、墓石の表に「東行墓」としか刻まれていないということである。


 表 奇兵隊開闢総督高杉晋作則


   西海一狂生東行墓


   遊撃将軍谷梅之助也


 裏 毛利恩古臣高杉某嫡子也


 晋作は生前、大庭伝七にあてた遺書めいた手紙に、自分の墓碑銘はこのようにしてくれと書いている。伝七は奇兵隊結成当時からの協力者として知られる白石正一郎の弟である。晋作の葬式を取り仕切ったのは、正一郎だからそのことはわかっていたと思われる。


 自分より二十七歳下の晋作の奔放な行状を見てきた正一郎は、そんな墓碑銘も例によっての「稚気」に類するものとして、それを無視したのだろう。国学者であり、謹厳そのものだった正一郎のことだ。簡潔に「東行墓」としたほうがよいと考えたのかもしれない。


 晋作のためにはそれでよかったとうなずく人も多かろう。私なども基本的には賛成だが、毎年四月十四日の東行忌にいとなまれる墓前祭に参列するたびに、あの「まぼろしの墓碑銘」が浮かんできて、本当にこれでよかったのかなとつい思ってしまう。


 奇兵隊創設者たることをみずから至大の誇りとし、西海一狂生、遊撃将軍と名乗る昂揚した意識と自己顕示をみなぎらせたこの墓碑銘もまた激動の時代を駆けた青年の像を、現世に蘇らせるものではあるまいか。


 晋作の像といえば、文字通りの実像をたしかめられそうな期待を、最近抱かされたのである。墓の石組みがゆるんだので、今年(一九八九)の生誕百五十年祭にあたり、改修されることになった。遺骨も掘りあげて改葬するが、そのさい頭骨に肉付けして晋作像を再生してみようという計画が内々練られていた。


 歴史上の人物に関するそうした例はこれまでもあるのだから心待ちにしていたのに、国の史跡に指定されており、どうやら文部省のお達しでとりやめとなったらしい。


 これも賛否両論の生ずるところだが、次の改修はおそらく二十一世紀末になるのだろうか、幕末風雲児と対面する機会を逸したことが、何だか口惜しくも思えるのである。



面白きこともなき世を



 高杉晋作生誕百五十年ということで、昨年(一九八九)はあれこれの記念行事で賑わった。ことしはNHKの大河ドラマが、久しぶりに維新史を舞台にのせる。


 主人公は西郷隆盛だが、はじめのうちは長州藩の関係者も登場すると聞いている。第一次長州征伐のときの征長総督は西郷隆盛で、この当時はまだ薩摩にとって長州藩は敵対関係にあった。しかし半面、薩摩の幕府離れもはじまっている。


 第一次長州征伐が不発に終わってから一カ月後、高杉晋作の功山寺挙兵があり、歴史はいちだんと展開した。このあたりの長州がドラマの中でどのように描かれるのか、山口県に暮らすわれわれの大いに注目する場面である。


 いずれにしても、昨年にひきつづいて高杉晋作に全国の視線が集まるわけだ。単に歴史の役割を果たして早々と消えて行った人物と見るのではなく、その生きざまが現代人に何を訴えているかが受け止められるとき、高杉晋作の存在感は映像を超えた重みを伝えてくるだろう。


ロマンチシズムの体現


 晋作が、夜、家を抜け出して、ひそかに吉田松陰のところに通ったのは、十九歳のときだった。これは自分を縛りつけている封建の家のしがらみから、いかにして抜け出るかという彼の青春の課題を果たそうとする行動の糸口をのぞかせた瞬間である。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:8607文字/本文:10209文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次