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古武術からの発想
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生き方・教養
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文庫本刊行に寄せて

『古武術からの発想』
[著]甲野善紀 [発行]PHP研究所


読了目安時間:4分
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 本書の文庫化の話をPHP研究所の文庫出版部からいただいて、何年ぶりかに、この本を読み直してみた。


 ページを繰ってゆくうち、これを書いた当時、私の心の中に混沌とした思いが、さまざまに変形しつつ、決して止まることなく渦巻きつづけていた状況を思い出してしまった。


 私のそうした心の状況は九七年の夏に観た宮崎駿監督の映画『もののけ姫』が原因であったが、そのショックが、まだ身体(からだ)の至るところに残っていた感触があったこの頃、人間が築き上げてきた文明や文化に対する、どうにもならぬ不信や絶望感を抱え、一体どんなふうな原稿を書いたらいいのか、散々苦しんでいた。


 そして、最終的にインタビュー形式としたが、本書刊行時の「まえがき」でも触れたように、聞き手は特定の個人ではない。いろいろな方から今まで聞かれた事を中心にまとめたが、話の展開によっては、聞き手自体にかなり突っ込んだ形で語ってもらうため、私自身が聞き手の役割を演じたところも少なくない。


 こうした形で書くことは、昔、弘法大師空海の最初の著作とされる『三教指帰』を読んだ時に、「ああ、こういう方法もあるのか」と思ったことが、伏流水のようにずっと私の心の中に流れていたことが大きいと思う。


 つまり、内面を覗く『三教指帰』のような宗教書にある、この形式に似た形で自分の考えをまとめることが出来れば、何とか少しは、今自分が陥っている『もののけ姫』でズタズタなままの状況からも抜け出せるのではないか、そう思うと漸く机に向かう意欲が出てきた記憶がある。


 いま振り返ってみても、あの時はこうした形以外に書きようがなかった。


 さて、このようないきさつで本書は生まれたのであるが、その制作時の私の心理状態を誰よりも詳しく知る人物であった、畏友で鼎談共著『スプリット』の共著者でもある、精神科医の名越康文氏が、文庫化にあたって解説を書いて下さったことは、私としてはそれだけで十分本書文庫化の意味があったと思うほどに有難いことであった。


 そして、その“解説”を読ませていただき、あらためて閉じ籠って誰にも心を開かなかったクライアントが、名越医師だけには心を開き、精神に光を得てゆく例が少なからずある、という理由が分かったような気がした。


 とにかく、名越氏のように、外見が極めて若々しく、ユニークで目立つ存在でありながら(名越氏の四十歳すぎという実年齢を聞き、椅子からころげ落ちそうになるほど驚いた中学生もいたらしい)、その存在の押しつけがましさが皆無に近い、という驚くべき人物を私は他に知らない。御縁のあったこと、そして解説を書いていただいたことに心から御礼を申し上げたい。


 本書で述べている技術的なことに関しては、現在の私の術理と直接つながっていることが意外に多く、これは読み返してみて私自身驚いた。


 私が現在実践している武術の身体運用法の概略は、まず身体全体のアソビをとること、そしてそのアソビをなくした身体全体にロック(急ブレーキ)をかけて一気に発力するシステムをつくる作業であり、主にその工夫研究を行なっている。


 そして、この身体のアソビのとり方は、昨年の八月に私の道場に来られた、北京在住の中国武術のH老師から親しく御教示いただいた歩法が大きなヒントになっている。


 どういう事かと言えば、歩行に際して足の裏全面を同時に床から離陸させるものであるが、この際もう一方の足にかかる体重を出来るだけ増やさないようにすることが重要である。そうすると、殆ど歩行不能状態となるが、そこで苦しんで動き方を工夫することによって、次第にアソビがなくなってくる。


 ロックの機構は、ごく最近になって身体の沈みに対して跳び上がる浮きを上半身でかけることによる急停止作用を使うことで、以前にも増して身体全体で急停止をかけられるようになり、身体の中身のエネルギーがより有効に取り出せるようになった。


 今後、これがどのように進展するか分からないが、剣術、抜刀術、杖術、手裏剣術、体術などの稽古を通し、また最近増えてきた様々なスポーツへの応用などを通して工夫を続けてゆきたいと思っている。


 本書の文庫化にあたっては、前回の『武術の新・人間学』同様、PHP研究所文庫出版部の太田智一氏にお世話になった。ここにあらためて感謝の意を表したい。


二〇〇三年 一月

甲野善紀

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