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わらべ歌に隠された古代史の闇
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歴史
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第4章 カゴメ歌にこめられた「怨念」の謎

『わらべ歌に隠された古代史の闇』
[著]関裕二 [発行]PHP研究所


読了目安時間:49分
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卑弥呼とトヨの葛藤を闇に葬った『日本書紀』


 ()()()とトヨという邪馬台国のふたりの女王に秘められた歴史の闇──ヤマト建国が深い謎に閉ざされていたのも、このふたりの女人の葛藤があったからにほかなるまい。トヨの卑弥呼殺しとヤマト(吉備)によるトヨの追放劇は、いくつもの歴史の禍根を残したはずである。


 そして、他の拙著でも述べたように、皮肉にも、トヨを引きずり下ろしたことが、ヤマトの吉備(物部)を窮地に追い込んだ。祟りに苦しめられた吉備は、王の座をトヨの末裔に譲り、ヤマトの王家は誕生したのである。


 ではなぜ、ヤマトを裕福にした神功皇后(トヨ)の悲劇は、抹殺されてしまったのだろう。その理由については、徐々に解き明かしていくにしても、ここでまず述べておきたいことがある。すなわち、神功皇后の悲劇が、(とよ)(うけの)(おお)(かみ)(あま)()(ごろも)(でん)(しよう)という形に変えて語り継がれることになり、さらには、豊受大神や羽衣伝承のモチーフが、八~九世紀、あるいはそれ以降にも影響を与え、別の話となって語り継がれていった気配が強いことである。


 カゴメ歌の歌詞が、意外にも羽衣伝承と共通点が見出せたことは、この羽衣伝承というモチーフが、古代を通して忘れられることなく継承され、その残像が、今日カゴメ歌という「あそび」となって、受け継がれていたのではないかと思えてならなかったからである。


 そしてそれは、(とり)()()という強烈な信仰形態があったからこそつながったのであって、その根源をたどっていくと、出雲の風葬に行き着くという推理であった。そして少なくとも、豊受大神の羽衣伝承が、七~九世紀にかけて、けっして忘れられていなかったことは、多くの史料からも明らかなことなのである。


 そして、三世紀の豊受大神(トヨ)の悲劇は、七~九世紀に形を変えて再現されていくのだが、このことを暗示していたのが、有名な()(とう)天皇の、(あま)()()(やま)を詠った『万葉集』なのである。

天の香具山の羽衣伝承に隠されたものは?

『万葉集』巻一―二八には、七世紀の女帝持統の不可解な歌が残されている。



 天皇の御製歌


 春過ぎて夏(きた)るらし(しろ)(たへ)(ころも)()したり(あま)()()

(大意)春が過ぎて夏がやってくるらしい。(青葉の中に)真白な衣が乾してある。天の香具山は。(日本古典文学大系『萬葉集』岩波書店)



 この歌が謎とされるのは、白い衣が天の香具山になぜ干してあるのか、この白い衣には、いったいどのような意味があるのか、判然としない点であった。第一、天の香具山は、ヤマトを代表する霊山、聖地であり、このような場所に、なぜ衣を干すことができたのかも、わからないままであった。


 この歌が「羽衣伝承」であることを発見したのは、共同研究者で歴史作家の梅澤恵美子氏であった。梅澤氏は、歌にある白い衣とは、トヨの羽衣であり、水浴びをしている天女の羽衣としたうえで、この歌を



 いま、この白い衣=羽衣を盗めば、天下は取れる。春がすぎて夏が来るように、動乱が起こり、天下は自分のものとなる。チャンスがやってきたのだ。



 と解釈したのであった。


 この梅澤氏の指摘を私見も支持するが、この解釈が投げかける波紋は二つあるように思われる。


 まず第一に、豊受大神(トヨ)の羽衣伝承のモチーフが、七世紀末から八世紀初頭頃にかけて忘れられずに生き続けていたということ。そして第二に、なぜ持統天皇は、豊受大神(トヨ)の悲劇を引き合いに出して、あたかも政権の交代を暗示するかのような歌を詠ったのか、ということであろう。


 通説に従えば、この時期、トヨの悲劇に匹敵するような大事件は起きていないのである。とすれば、いったい持統天皇は、この歌にどのような思いをこめていたのであろうか。


 実は、この七世紀、唐突に現れたトヨの亡霊こそ、いまだに謎を残す七~九世紀の政争史を解く鍵となるばかりか、第一章で触れた『竹取物語』のかぐや姫の行動の真意をも明確にしていたのである。そして、このことがカゴメ歌にもかかわってくるために、ここでしばらく、持統天皇の時代背景を知るため、再び話を三~四世紀のヤマト朝廷発足からその後の政争の行方について考えておかなくてはならない。

独裁化した天皇家に地方豪族は反発した


 さて、トヨを九州から追放し死に至らしめたヤマトの物部(もののべ)(出雲であり、吉備でもある)は九州のトヨの末裔・(じん)()を迎え入れることで、西日本を二分する長年の対立、確執を解消したのだった。この結果、大王家(天皇家)に妃()()を送り込む一族として、物部氏が実権を握る形でヤマト政権は出発した。つまり、邪馬台国の卑弥呼同様、大王はヤマト周辺の豪族や首長たちに共立されたのである。


 ところが、五世紀に入ると、このような王朝の図式に変化が現れる。これがすでに触れた独裁志向の雄略天皇の登場であり、ヤマトの王家は、中央集権国家を目指したのだった。ところがここで、周囲の既得権を振りかざす豪族との(あつ)(れき)が生まれたのだろう。五世紀の末、皇位継承をめぐり、ヤマトは混乱し、ついに酒池肉林をくり広げる()(れつ)天皇の出現によって、王統は断絶してしまった。


 ここに、応神天皇五世の孫の継体天皇が、越(北陸)から連れてこられたのだと『日本書紀』は言い、通説はこれを王朝交替ではないかと疑う。けれどもこのいきさつには、裏があったと考えられる。というのも、継体天皇の出現の後も、「強いヤマト」を建設しようとする流れは変わらなかったからである。多くの豪族層の抵抗に遭って頓挫した改革事業を、王家を刷新することで、ふたたび軌道に乗せようというのが、継体天皇誕生の真相ではなかったか。

当事者によって書かれた歴史の信憑性


 私見は継体王朝がトヨの亡霊であり、(たけ)()()(かた)の末裔が王権をつないだのではないかとさえ勘ぐっている(『継体東国王朝の正体』三一書房)のだが、根拠はいくつかある。


 継体天皇を支えた一族に、(すみ)(よし)(たい)(しや)(この)(じん)(じや)とつながる()(わり)()がいたこと、この王朝の出現とほぼ同時に、(たけの)(うち)宿(すく)()の末裔、()()氏がヤマトで勃興し、本来()()であり()()であった彼らが、蘇我=「我れ蘇り」と改名したこと、蘇我氏が()()出身の(やまとの)(あや)一族に後押しされていたことは偶然ではあるまい。


 さらに、継体天皇に始まる新王朝の全盛期、飛鳥に都を定めた蘇我氏系の女帝・(すい)()天皇の宮が(とゆ)(らの)(みや)で、その忠臣が(しまの)(おお)(おみ)(蘇我馬子)であったことは、第三章ですでに触れたが、推古女帝の()(ふう)()(ごう)にトヨの名が冠せられていること(とよ)()()(かしき)()(ひめ)にも、深いわけがあってのことに違いない。


 また、推古天皇の皇太子、聖徳太子の別名に、トヨトミミと、やはりトヨがつくのも興味深い。聖徳太子は蘇我氏の血が濃く入っていたから、トヨの血脈と見られていた節がある。


 ところで、このような仮説は鬼という視点からもいえる。


 鬼は本来モノと呼ばれ、神と同義語であったが、『日本書紀』は、鬼を()しき者として神と差別している。


 たとえば、神話の世界でいえば、土着の(つち)()()までも鬼とみなし、出雲もまた鬼であった。さらに物部氏や蘇我氏といった豪族、海外では伽耶や新羅(しらぎ)を鬼とみなしているが、これらのことごとくが、『日本書紀』が(へん)(さん)される直前に滅び、()に下っていた者どもであったことは、改めて述べるまでもない。本来神に近かった彼らが政権を追われ、権力者の入れ替わりが起きていたわけである。


 もちろん、このような歴史のねじれを、『日本書紀』は認めていないが、たとえば、聖徳太子に謎が多いのは、この人物が七世紀に蘇我系王朝のもとで活躍していたことと無縁ではなかろう。『日本書紀』がこの人物の正体を抹殺していた疑いは強く、太子を鬼とみなしていたところに、ことの真相は隠れているに違いない。


 それはともかく、ここで改めて持統天皇の天の香具山の歌を思い出せば、興味深い事実に気づかされるはずである。


 天の香具山に干された白い衣、この羽衣を盗めば天下は自分のものになるという歌は、七世紀の王朝がトヨの王朝であったと仮定してみることで、俄然深い意味を持ってくるのである。つまり、持統天皇の歌こそ、トヨの王朝に実権を奪われた反体制派(あるいは守旧派)の再起への誓いであり、重大な政変のありかを確信するのである。

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