『世界でいちばん大切な孫に贈る15通の手紙』
[著]南和子
[発行]PHP研究所
ひらりのおみやげは手編みのマフラー
ひらりが五歳のときだったかしら。お正月のころ、のんちゃんとみいちゃんと三人で、おじいさんが読んでカルタ取りをしましたね。一回やって、ひらりが負けてしまいました。そのとき、小さいときのように泣きはしなかったのですが、
「私はしない。見てる」
と言いました。負けたくなかったのでしょう。
私は、これはちょうどよい機会だと思いました。知らん顔をして、おじいさん、おばあさんとのんちゃんたちの四人で遊びはじめました。ひらりは、顔だけはニコニコしていましたが、心のなかでつまらなくなってきたことが、はっきり表情に出ていました。
私たちは、ひらりになにも言わず四人でカルタ取りをしていました。ひと回り終わって「もう一度しよう」と、のんちゃんが言い出したので、私は、ひらりの顔を見ました。
「私も入りたい」
と言って、今度は五人になったのです。ますますにぎやかに「やった!」とか「あーっ」などと声を上げて、最後までみんな仲よく遊びました。
その前までは、ほかの人が先にカルタをとるたびに悔しそうな顔をしていた負けず嫌いなひらりは、一度、遊びから抜けてみると、見ているだけではつまらないこと、勝ったり負けたりするから楽しいことがわかったようですね。負けたとき、ちょっとがまんすれば、仲よく遊べます。
がまんすることがどんなに大切か、いろいろな失敗をしながら覚えていきましょうね。
つぎの年の冬に、六歳になったひらりは、またオーストラリアから三週間ほど、東京のおじいさんとおばあさんのところに来ました。ひらりのお母さんが、
「おばあちゃんから編み物を習って、シドニーで留守番をしているお父さんにマフラーを編んであげたら」
と、提案しました。
「ひらりちゃん、全部編むのはたいへんだけれど、がんばってやってみる?」
私は、そう言いながら、まず、かぎ針編みの最初である、くさり編みを教えました。
なんとかそれができるようになりました。
「本当にやるなら、一緒に毛糸を買いにいきましょう」
その新しい毛糸を使って、くさりを二十五目立て、それからいよいよ長編みです。
ひらりは、初めて編み物をするわけですから、目が大きくなり過ぎたり、どこにつぎの目を立てるのかわからなくなって、半分泣きそうにもなりましたね。