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なぜ論語は「善」なのに、儒教は「悪」なのか 日本と中韓「道徳格差」の核心
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生き方・教養
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第四章 朱子学を捨て、『論語』に「愛」を求めた日本

『なぜ論語は「善」なのに、儒教は「悪」なのか 日本と中韓「道徳格差」の核心』
[著]石平 [発行]PHP研究所


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朱子学に反抗した中国知識人たちは「微弱」


 前章では、明清時代の五百年以上にわたって中国を支配した朱子学と礼教が、その峻烈な原理主義と非人間性のために、この二つの王朝時代を生きた人々、とりわけ女性たちにどれほどの被害を与えたのかを見てきた。私見ではあるが、朱子学と礼教こそは、中国五千年の歴史の中で生まれた最悪にしてもっとも非道な学問・イデオロギーであると思う。


 もちろん、明清時代を生きた知識人の中にも、朱子学と礼教に疑問や反発を感じたり、そこから離脱しようとした人もいる。


 たとえば明朝の中期を生きた王陽明の提唱した陽明学は、形骸化した朱子学への批判から出発したものである。人間の上に君臨する絶対的な「天理」よりも、人間の心に宿る「良知」に信頼をおく陽明学は、ある意味では朱子学によって切り捨てられた人間性の回復を目指したものであろう。


 明朝の晩期を生きた陽明学左派の()(たく)()となると、人間の情と欲望に「童心」という名の純真性を見出してそれを大いに肯定し、人欲否定の朱子学に公然と反旗を翻したのである。


 そのために李卓吾は弾圧を受けて投獄され、七十六歳の高齢にして獄中で自殺を遂げた。この李卓吾こそは、明清時代において朱子学と礼教に正面から反抗し、そして押し潰された知識人の代表格である。


 あるいは清朝時代の(たい)(しん)という知識人も、李卓吾ほど過激ではないが、朱子学と礼教に大いなる疑問を感じた一人である。戴震は清朝時代の考証学の確立者であり、朝廷の中で四庫全書纂修官、(かん)(りん)(いん)(しよ)(きつ)()を務めた、その時代の代表的な知識人である。


 彼は朱子学の理気二元論に反対して気一元論の「気の哲学」を唱えるが、その意図は明らかに、朱子学と礼教がよりどころとする「理」の絶対性をひっくり返すことによって、そのまま「気」である人間の欲望や感情の復権を図ったものである。


 その一方、戴震は「以理殺人」(理を以って人を殺す)という言葉を使って朱子学と礼教に対する厳しい批判を展開した。彼からすれば、「存天理、滅人欲」を叫ぶ朱子学と礼教は、まさに「理」というものを武器に人の欲望を滅ぼして人を殺すものである。その際、「以理殺人」とは具体的にどういうことなのかについて、戴震は言及していないが、前章で取り上げた女性の「殉節」がおそらくその念頭にあったのではないかと推測できる。毎年、万単位の数の女性を「守節」「殉節」に追い込むその時代の礼教は、まさに「以理殺人」そのものである。


 以上は、朱子学と礼教が猛威をふるった明清時代における、朱子学と礼教に対する反発の動きであるが、全体的に見れば、それは散発的で微弱なものであると言わざるを得ない。


 考えてみれば明清時代の五百年間、本気で朱子学と礼教に向き合い批判した主たる知識人はただの二人、明朝時代の李卓吾と清朝時代の戴震のみである。もちろん、この二人の力だけで朱子学と礼教の支配的地位を揺るがすのはまず不可能である。


 明清時代に大きな勢力をなした陽明学はといえば、それは決して朱子学との全面対決を目指したものではなかった。朱子学とは学問の立脚点が違ったものの、朱子学と礼教の「以理殺人」に対してはただ目をつぶっているだけである。


 このようにして、中国という国と中国人は、明清時代の五百年間の長きにわたって朱子学と礼教の抑圧を受けていながらも、ついに朱子学と礼教から一歩も脱出することができなかった。

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