『未来世療法 運命は変えられる』
[著]ブライアン・L・ワイス
[訳]山川紘矢
[訳] 山川亜希子
[発行]PHP研究所
怒りの克服は、これからの転生で暴力をくり返さないために、今、私たちが習得すべき技術の一つです。次のお話は、まだ未来世療法を患者に施し始める前に、私が治療した男性患者の例です。もし、彼がこれから何年も先に何が待っているかを見ることができれば、彼の治療はずっと早くすんだことでしょう。
ジョージ・スカルニックは自滅するために、あらゆることをしていました。心臓発作と高血圧の既往症があるにもかかわらず、彼は太りすぎで、ヘビースモーカーでした。その上、働きすぎで、最後の瞬間に休暇を取りやめるという生活を送っていました。さらに、心臓の薬の飲み方もメチャクチャで、ある時は飲み忘れ、それを補うために、次には一度に沢山飲んでしまうといった有様でした。彼はすでに重度の心臓発作を起こしたことがあって、もう一度発作を起こすのは時間の問題でした。
彼の主治医であるバーバラ・トレイシーが、ストレスを何とかするために私の診察を受けるよう、彼に勧めました。
「ジョージは手ごわいですよ」とバーバラが私に警告しました。
「怒り狂っても驚かないで下さいね」
そして今、その彼が奥さんと一緒に、私のオフィスにいました。彼の妻ベティは四十代半ばの女性で、すがりつくような目で私を見つめていました。
「ベティを待合室に待たせておきます。彼女が必要な時もあるでしょうから」とジョージが言いました。
「それでよろしいですか」と私は彼女の方を向いて、やさしく言いました。
「もちろん、けっこうです」。彼女は最後にもう一度、すがりつくような目で私を見てからオフィスを出て行き、ドアを閉めました。
ジョージはずんぐりとして頑丈そうで、精力的な感じの男性でした。そして、太い腕と出っぱったお腹、そして、びっくりするほど細い脚をしていて、まるで運動をしないベーブ・ルースみたいでした。彼のまん丸い顔は赤味を帯び、鼻のまわりには毛細血管が浮き出ています。それは彼が大酒呑みであることを示していました。大体六十歳ぐらいだろうと推測したのですが、まだ五十二歳であることがわかりました。
「あなたが輪廻転生を説くお医者さんですね」と彼は言いました。質問ではなく断定でした。
「そうです」
「私はそんな馬鹿げた話は信じませんよ」
彼は私を怒らせようとしましたが、それはうまくいきませんでした。
「多くの人は信じませんね」
「トレイシー先生の話では、あなたは退行セラピーとやらをやるそうですね」
「ええ、それによって、患者はよく、過去世に戻ります」
「そんな馬鹿な」と彼は言いかけて言葉を止め、片手をあげました。
「悪く取らないで下さい。次の心臓発作を防げるなら、私は何でもやってみるつもりですから」
実は、ジョージはかつて、臨死体験をしたことをバーバラに話していました。心臓発作を起こしていた間、彼は自分の身体を離れて青い光の雲の方向へと登っていくのを感じたのです。空中に浮かんでいる時、彼は一つの考えに気がつきました。すべてはうまくいく。このことを知って、彼は落ち着きました。そして、そう家族に知らせたいと思いました。彼のいる場所からは、妻と子供たちがいるところが見えました。彼らがとても心配していたので、大丈夫だと伝えたかったのです。しかし、伝えることはできませんでした。彼は自分の身体をもう一度見るために目をそらしました。そしてまた、家族に目を戻すと、彼らはもう彼に何も注意を向けていないことがわかりました。すでに彼の死から何年もたったかのようでした。この体験によって、彼は私に会いに来ることにしたのでした。
「あなたのお話をもっと聞いてから、何をすべきか決めましょう」と私は言いました。
「トレイシー先生によれば、あなたは建設業をなさっているそうですね」
「『スカルニック建設』です。工場や倉庫やオフィスビルの専門会社です。私どもの広告をご覧になっているはずです。マイアミ中、どこにでもありますから」
確かに見たことがありました。
「頭痛の種ですよ」と彼は続けました。「いつもプレッシャーになっています。自分で全部の現場を監督しなかったら、必ず誰かがヘマをしでかしますからね」
「ヘマをしでかすと、どうなるのですか?」
「腹が立ちます」と彼は目をむきました。
バーバラから、ジョージにとって怒りが最も危険であると聞いていました。それは彼の心臓に向けられたナイフのようなものでした。
「あなたの怒りについて話して下さい」と私は言いました。
「自制心を失うんです。すぐ怒鳴ってしまいます。顔が真っ赤になり、心臓が早鐘のように鳴って、爆発しそうに感じます」彼の呼吸は話しているうちに速くなりました。
「飛び出して行って、誰かをなぐりたくなります。誰かを殺したくなるんです。それほど、怒り狂うのです」
「奥さんや家族と一緒の時はどうですか?」
「同じか、もっと悪いかもしれません。時々オフィスの誰かに怒り狂うと、途中で二、三杯ひっかけてから家に戻って、けんかの原因を探します。