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昭和天皇とその時代 新版 昭和天皇
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歴史
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終章 崩御

『昭和天皇とその時代 新版 昭和天皇』
[著]小堀桂一郎 [発行]PHP研究所


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兆候


 昭和六十二年四月二十九日、御誕生日の祝宴の最中に天皇は嘔吐を催された。これが御発病の最初の兆候だつた。ただそれから二箇月半ほどは、特別異常のこともなく、普通通りの生活をされてゐた。七月中旬に例年の如く那須の御用邸に避暑に赴かれたのだが、そこで七月十九日に昏倒されるといふことがあつた。理由はよくわからず、侍医長の高木顯博士は記者団に対し「脳貧血症状」と説明してゐる。


 八月十四日には列車で東京にお戻りになり、翌十五日、日本武道館での全国戦歿者追悼式にも例年通りに臨席され、無事に弔辞のおつとめを果された。


 ところが十七日に那須にもどられてから、次第に体調の異常を呈することが頻繁となり、九月十一日に帰京されて間もなく宮内庁病院で精密検診の運びとなつた。そして前章に記した如く九月二十二日の正午近い時刻に小腸と十二指腸の接合部の見当で開腹手術を受けられた。


 生来御健康であつた天皇にとつて入院は初めての経験、又天皇の御身体に外科手術のメスが入るといふのもこれが日本史上全く初めてのケースだつた。


 開腹の結果、膵臓に腫大がありそれが癌であることは九十パーセントの確率で判断できた。しかし侍医長の高木博士も、執刀の東大医学部第一外科の森岡恭彥教授も、天皇の御病気が癌によるものであることを、本人への告知はおろか、口外することを厳に慎しむといふ方針をとつた。平生の所信と状況判断とを併せて、即座に決つたことだつた。富田宮内庁長官と德川侍従長には真相を打ち明け、同時に之を公表しない方針についても諒解をとつた。幸ひにして天皇は自分の病気の真相などについて、医者に一切質問することなく、全てを任せ切るといふ型の患者であつた。


 皇太子殿下には、御訪米旅行の予定を持たれてゐるのにお心をお騒がせしてはならぬとの配慮もあつて、御帰国後の十月十六日になつて初めて、天皇の御病気が癌によるものであることを報告申し上げた。

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