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世界を変えた暦の歴史
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歴史
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はじめに

『世界を変えた暦の歴史』
[著]谷岡一郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:6分
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 まず、本書は、(こよみ)の内容を解説する本ではないことに注意していただきたい。


 話の流れのなかで、暦のテクニカルな側面や、数学的知見にふれているのは確かだが、暦というシステムやバリエーション、そしてそれらの意味を解説すること自体を目的とはしていない。


 本書の目的は、暦と社会の関係を解説すること、つまり、暦がいかに社会と知を構築し、変化させ、発展させてきたのか、ということを中心としている。それにあたり、歴史の流れを大きく二つの段階に分けることになる。


 その二つは、次のとおり。


〈第一段階〉月、太陽、星が集団生活の基礎を構築し、知識を発展させ、暦の出現が最終的に「社会」と呼べるものに変身させるまでの段階。

〈第二段階〉社会がより発展し、その活動の質や量により、より正確な「統一的(共通)暦」が必要とされるにいたる段階。



 たとえば、メソポタミア地方で起こったことと、南アメリカのインカ帝国で起こった社会誕生のプロセスは、質的には類似したものであるが、両者の年代は数千年も(あるいはもっと)の差がある。したがって本書において、変化・発展のプロセスは説明するが、年代の特定はあえてしない。


 年代を特定しないという条件下に限定するなら、第一段階、第二段階は、どんな文明でも、ほぼ同じことが同じ順序で起こったといってよいだろう。むろん細部まで同じとはかぎらないにせよ、二つの段階のような大きな流れは共通しているといえる。


 社会誕生のプロセスにおいて、暦が果たす役割は、なぜか歴史学的にはあまり重要視されてこなかった。本書は、暦(初期においては月や太陽のサイクル)こそが、「そのフレームを構築し、加速させた重要なエンジン役であった」ことを強調するつもりである(ただ、全体像が徐々に見えてくるような構成になっているため、特定の章を切り離すと、少々理解が難しくなる可能性がある)


 では、暦はどのようにして生まれたのだろうか。


 原初は、月によるサイクルが、太陽のそれより先に認識されたであろう。


 月がだんだん細くなっていき、ある日、月が見えない状態(さく)となる。その後、月が徐々に太りはじめ、(さく)(じつ)を一日めとすると、八日めくらいに半円(半月)状態になる。さらに十五日めくらいに真ん丸(満月)に見えるなどなど……。


 月のサイクルがまず、生活のリズムに入ってきただろう。


 朔日のあたりの夜は暗く、満月の夜は明るい。また、潮の満ち()も高さや時刻が変わる。こうしたことが、果実や食べられる植物の採集、漁、狩猟などのリズムを変えたであろうことは、想像に難くない。


 本書は暦の専門書ではないので、一般に(正式には)朔望と呼ばれる月のサイクルを表す用語は使用しない。それより、月の満ち欠けとか、新月から新月までの期間などと表現することにした。


 その正確な数値は、現在、二九・五三〇五八九日ほどであるが、場合によっては二九・五三日、あるいは二九・五日といった表現をするかもしれない。


 そもそも新月の定義すら統一されているわけではなく、いくつかの国ではいまでも、細い月が最初に視認できた日を新月としていることが知られている。グレゴリオ暦(現行の太陽暦)では、ご存じと思うが、地球、月、太陽が一直線に並ぶ日(一直線にもっとも近い日)を朔日と定義している。


 そうこうするうちに、人びとは月が約一二回満ち欠けを繰り返すくらいのサイクルで太陽の昇る位置が変化し、暑い季節と寒い季節とが交互にやってくることに気がつく。特定グループ内の食料の内容や量に直結する情報であり、生存を決める重要なサイクルである。そして、定住化が進み、農業がスタートすると、そのサイクルにはとくに敏感にならざるをえない。


 いまからおよそ五千年前の古代エジプトでは、「一年は三百六十五日と四分の一」とされていたことが、古代の記録(ヒエログリフ)から判明している。そしてそれは、農業の発展に大きく寄与したものと考えられる。


 地球から見た太陽の位置──本当は太陽に対する地球の位置──による「一太陽年」は正確には三六五・二四二一九八日程度であるため、四年に一度の割で(うるう)年のある暦でも、ほんの少しズレが起こる。


 これらは政治的、経済的、宗教的な、さまざまな問題を内包するがゆえに、社会を形成する第一段階、そして社会がより正確な暦を必要とする第二段階において、多くの新たな視点を引き起こすことになる。それらについては、本文中で説明する。


 なお、太陽も月も背景の天空の星も、「地球から見た見かけの位置」を規準として話を進めることがある。厳密には、たとえば恒星の位置による一年と、太陽の位置による一年とは同じではない。しかし前に述べたように、暦の数学的な意味を解説する目的ではないので、用語の使用法は厳密なものでないかもしれないことをお断りしておく。



 社会が大きくなるにつれ、いろいろ新しい概念が生まれる。あるものは自然に生まれるし、いくつかは付随して生じるが、どの文明においても、おおよそ次のような概念が生じる。


 共同作業、戸籍、文字・記録媒体、役割分担、階級分化・身分、政治・支配体制、経済・通貨、交易・商業、紛争・戦闘などなど、まだあると思う。


 いくつかは第一段階で生じ、いくつかは第二段階で生じる。そして、いくつかは両方の段階に関係する概念もあろう。理解を促進するために、二つの段階を図示しておこう。




 こうして生産性が向上するにつれ、余暇活動──スポーツやゲーム──の時間が増え、内容も変化する。本題からはやや脇道に()れる感がなきにしもあらずだが、本書では暦に関係する(暦を出発点とする)「ゲームボード」に関する話をコラムとして設定している。


 それらのコラムを読めば、おそらく納得していただけるはずだが、ゲームボードは暦と深い関係をもっている。その事実がいままであまり語られてこなかったとすれば、それは歴史学研究者がゲームを知らないか、ゲーム研究者が暦の実態を知らないせいであると考える。


 勝手に自負するに、筆者はたまたま両者をまあまあよく知っており、その観点から見て、両者の関係は明らかであるため、あえて複数のコラムを設定したしだいである。


 ゲームにまったく興味のない人は、コラムを飛ばして読んでくださってかまわない。しかしどんな概念でも、根底でつながっていることが多いのは世の常で、暦が祝祭日を決め、その祝祭日が工夫されて(余暇活動として)ストレス解消機能を発露する変化を経過したこともよくあった。


 こうした事実は無視されるべきではないと考えている。ましてや初期のゲームボードは、暦としての実用性をもっていたのである。



 本書は、少なからず、みなさんの常識を裏切る記述があると思います。が、事実とはそもそも奇なるもの。少々不思議な「知的冒険」を、一緒にしてみようではありませんか。


谷岡一郎 

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