読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/9/29 UP)

犬耳書店は、姉妹店のRenta!(レンタ)へ統合いたします。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-2
kiji
0
0
1282394
0
人類の歴史とAIの未来
2
0
0
0
0
0
0
人文・科学
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第三部 汎用人工知能(AGI) 魔法使いの弟子の物語

『人類の歴史とAIの未来』
[著]バイロン・リース [発行]ディスカヴァー・トゥエンティワン


読了目安時間:1時間26分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ

PART THREE: ARTIFICIAL GENERAL INTELLIGENCE

The Story of the Sorcerer’s Apprentice



 1940年のウォルト・ディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」では、クラシック音楽をバックに8つの物語が展開する。中でも有名なのは、18世紀のゲーテの詩をもとに作られた「魔法使いの弟子」という一編だ。


 物語はミッキー・マウス演じる魔法使いの弟子が、共同井戸からバケツで水を城に運びこむという骨の折れる仕事をしている場面から始まる。城の中に入った彼は、師匠である魔法使いがソーサラーハット(魔法使いの帽子)を頭にかぶり、様々な魔法を使っているところを目の当たりにする。その後、魔法使いはなにやら疲れきった様子で、ハットを置きっぱなしにしてベッドに入ってしまう。


 そこでミッキーは、かなり賢いことをやった。ソーサラーハットを自らがかぶり、部屋の隅においてあったホウキに魔法で命を吹き込んだのだ。ホウキに手も生やしたミッキーは井戸からバケツで水を汲んでくる方法をホウキに教えた。ホウキはすぐに仕事を覚え、ミッキーは勝ち取った休憩時間で昼寝を始めた。


 やがて昼寝から目覚めたミッキーは、ふつうの人間ならばとっくに止めていたであろう作業を、彼の創造物が黙々と続けていたことに気づく。城の地下全体が今や50の高さまで浸水してしまっている。それでもホウキはバケツで水を運び込むのをやめない。なんといっても、それがホウキにプログラムされた唯一のことなのだから。


 ミッキーは止めようとするが、仕事と目的を与えられたホウキはミッキーの制止など聞きはしない。ついにミッキーは強硬手段に出る。斧をつかむやホウキを木っ端みじんにたたき割ったのだ。ミッキーはほっと胸をなで下ろし、物語はハッピーエンドを迎える。最悪の結末は避けられた。

……と思いきや、なんということだろう! ホウキを切り刻んだために信じられないことが起こった。ホウキの破片一つひとつが新しいホウキに生まれ変わったのだ。今や大群となったホウキたちの目的はただ1つ、水を運び込むことだ。彼らは海が干上がるまで水くみをやめないだろう。


 ミッキーは自分の創造物を止められない。そのとき、なんとも都合の良いことに騒ぎを聞きつけた魔法使いが起き出して降りてきた。魔法使いは騒動を一瞬で収め、自分の所業を深く悔いている様子の弟子からハットを取り返す。


13 ヒトの脳



脳には銀河が広がっている!?


 さて、私たちは狭いAIについて十分に議論してきた。狭いAIが自動運転の車を動かし、あなた好みの室温を学ぶサーモスタットを制御し、メールソフトのスパムフィルターを動かしている。そう、狭いAIは素晴らしい技術だ。だが、大切な人へのクリスマスプレゼントは何が良いか、といったことは狭いAIに聞いてはいけない。かたや、汎用人工知能(AGI)は少なくとも私やあなたと同程度には賢い存在だ。AGIになら何でも、プログラムされていないタスクだって頼める。AGIはそういうタスクをこなす方法を自分で探し出して実行するからだ。6×7は? と聞けば、答えを教えてくれる。今の彼女とこのまま結婚して大丈夫かな? と聞けば、答えを教えてくれる。


 そんな機械はどうやれば作れるのだろうか。まずは私たちがもつ汎用知能の源、すなわち脳を理解するところから始めるといいかもしれない。


 断っておくが、私は脳が大好きだ。私自身も1つもっているし、だいたい毎日使っている。では、脳の中がどうなっているか、私たちはどれくらい理解しているだろうか? 実は驚くほど少しのことしかわかっていない。驚くほど、だ。脳についてなんて、すでに多くのことが明らかになっていそうなものではないか? ところがそんなことはないのだ。確かに過去20年ほどの間に意味のある進歩はあったが、それでもなお、脳の中で記憶がどのようにコード化されているかすらまださっぱりわかっていない。ましてや記憶を化学式や数式で表そうなんてとても無理な話だ。


 脳はどうしてここまでかたくなに秘密を守り通しているのだろうか? 理由は2つ。まず、脳は頭蓋骨に密閉されているので、最近まで動作中の脳を研究する方法がほとんどなかったのだ。死後の脳は、死後の心臓ほどには研究材料として役に立たない。2つ目の理由は、脳が宇宙一、複雑な存在だからだ。脳が持つニューロンの数はだいたい1000億、銀河系のなかにある星の数と同じくらいだ。そんな大きな数、私たちの脳には(奇妙な表現だが)とても扱えない。しかも一つひとつのニューロンは、それぞれ他の1000個のニューロンとつながっている。夜空にみえる天の川を思い浮かべてみて欲しい。そして全ての星を、他の1000個の星とケーブルでつないでみよう。それが、脳の複雑さをおおまかに再現している。星同士をつないだケーブルが表しているのは脳の中のシナプスだ。脳には単純計算からおよそ100兆個のシナプスが存在するといわれるが、1000兆近いという説もある。しかも、これに加えて脳には数え切れないほどのグリア細胞が存在している。1つの脳に少なくとも1兆個はあるだろう。グリア細胞にはニューロンを保護する役割があり、私たちがまだ理解していないやり方で認知に寄与している。これでもまだ驚かないなら、人の脳の中では、1秒に10万回以上の化学反応が起こっている。これら全てが謎めいたやり方で協調し、あなたをあなたたらしめている。ちなみに、世界最速のスパコンは数千万ワットの電力を消費するが、できることは私たちの20ワットしか消費しない私たちの脳に遙か及ばない。


 脳のことについてまだ分からないことが多いのは、その複雑さのせいだけではない。何せ、私たちはまだ最も単純な脳がどうやって機能しているかさえ、わかっていないのだ。地球上で最も成功した生物と言われる、ちっぽけな線虫について考えてみよう。彼らはどこででも繁栄できるようだ。海底にもいれば砂漠にもいるし、湖の底にも山にもいる。驚くなかれ、地球上に存在する80%の動物は、100万種以上はいるといわれる線虫の仲間なのだ。今のは見間違いではない。全動物のうち80%は、線虫なのだ。


 一般的に線虫は全長1mmに満たない細長い形をしている。中でもC.エレガンスと名付けられた線虫は、最初に遺伝情報が解読された多細胞生物だ。つまり私たちはその生き物について多くのことを知っている。実際、この線虫は何千人もの研究者に数十年にわたり研究され続けている。線虫を研究すること自体はそこまで大変なことではなさそうだ。なにせ、C.エレガンスはたった959個の細胞からできているのだ。その脳には302個のニューロンしか存在しない。各ニューロンはおよそ30個の他のニューロンと接続されているので、シナプスの総数は大体1万個だ。


 考えてもみてほしい。あなたの脳には、天の川に匹敵する数のニューロンがある。線虫の脳には、ボウル1杯分のコーンフレークくらいの数のニューロンしかない。そう考えると、線虫の脳をモデル化したり、線虫がどうやってやるべきことをやっているのかを解明したりすることは、そんなに難しくなさそうではないか?


 とんでもない。


 なんとも不思議なことに、私たちがまだ見当もつかないメカニズムで、線虫はかなり複雑なことをやってのける。熱源のある方向へ移動したり、反対に熱源から逃げるように動いたり、食べ物を探したり、触られると反応したりと、要するにあらゆる場面で最もうまく生き延びられるように振る舞うのだ。


 この謎を解こうと躍起になっている人間は少なからずいるのに、どうしたことだろうか。例えば、線虫の一つひとつの細胞をモデル化することで、生物学的に正しく完璧な線虫をコンピュータ内でシミュレーションという真剣な試みがなされている。そうすれば、総体としての線虫の振る舞いが立ち現れると期待されているのだ。どうだろう。やれそうなことではないか? 1つのニューロンの振る舞いを明らかにし、それを302個分モデル化し、1000個のシナプスで繋げたら、ほら、コンピュータの中で線虫と全く同じように振る舞う何かの出来上がり。ところが残念ながらまだそこには至っていない。このオープン・ワーム・プロジェクトに関わっている専門家たちの間でも、そのようなモデルを実際作り上げることが可能かどうかのコンセンサスすら得られていない。1つ確実なことは、私たちが人の脳のしくみを解明できるとしたら、それは線虫の脳を解明した後だ、ということだ。そしてもしオープン・ワーム・プロジェクトが最終的に成功したならば、コンピュータのメモリの中で泳ぎ回るそれは、生きているといえるのだろうか? いえないとしたら、それはなぜだろうか。一つひとつ細胞から作られていて、出来上がったらあらゆる面で線虫と同じように振る舞う存在なのに。


 ある意味で、線虫の脳は人の脳よりも興味深い存在だ。人の脳については、そもそも考えることを放棄して「だって私たちはものすごい数のニューロンを持っているのだから、複雑なこともできて当然だよ」と言ってしまうことだってできる。しかし線虫は302個しかニューロンを持っていないのに、かなり複雑な振る舞いをするではないか。


 このため、私たちは脳の仕組みについて理解し始めてすらいないと考える人々もいる。MITで60年以上も教えた博学者ノーム・チョムスキーもその1人だ。彼は、AIの分野における研究が「思考の本質に関する知見を与えてくれたとは考えていない……そしてそのことに驚きもしない……。ダイオウイカのニューロンがどうやって食べ物と敵を見分けているかを理解することだって難しいのだ。人間の知性や人間の選択の本質を理解するというのは、現代科学では太刀打ちできない、途方もない問題だ」と述べている。


 脳は大体1・5kg弱、牛乳2本分よりも少し軽い。つまり人の体重のおよそ2%しか占めないわけだが、使っているエネルギーは20%だ。脳の60%は脂肪なので、つまり私たちは本物のファットヘッドの集まりだ訳注)。その重量のうち3/4は水で、ゼラチンのようにプルプルしている。中に張り巡らされている血管の総距離は数百kmにも及ぶ。


 脳は非常に可塑性の高い組織で、必要に応じてダイナミックに変わる。若い人の脳の一部を何らかの医学的な理由で切除すると、切除された部分の機能を補うために再接続が起こる。私たちが生まれながらに持つ五感とは別の、新たな感覚の入力に対応することだって可能だ。例えば、神経学者デイヴィッド・イーグルマンは音波が当たると様々な部位に振動が生じるベストを開発した。このタイトフィットのベストを聴覚障害者が着ると、体に伝わるその振動を頼りに「聞く」ことができるようになる。慣れてくれば、振動をいちいち解読しようと思わずに、無意識で「聞ける」ようになっていく。イーグルマンは、彼らがいずれは聴者と同じようなやり方で聞けるようになると考えている。


脳が持つクセ


 脳について私たちが新たなことを知るスピードは上がっている。優れた研究例を1つ挙げよう。ある研究グループが、YouTubeの動画をみている人々の脳をスキャンするシステムを開発した。そして、YouTube動画を見ている被験者の脳スキャンデータと、そのとき見ていた動画を同時にコンピュータに記録した。その後、全く新しい動画を見ている被験者の脳のスキャンデータをコンピュータに与え、その被験者が見ている動画をコンピュータに予測、再現させた。その結果は驚くべきものだった。再現できたのだ。完璧ではなかったが、とにかくできた。このコンピュータは脳を読むことができたのだ。こうした技術が、脳の多くの謎を解く手助けをしてくれていることは間違いない。


 しかし、私たちが脳についてまだ知らないことのリストはかなりの長さだ。私たちは、脳が情報をどうやってコード化しているかも、どうやってそれを読み出しているかも知らない。例えば、あなたが初めて自転車に乗ったときのことを思い出してみて欲しい。何色の自転車で、乗り心地はどうだったかなど、思い浮かべられるだろうか。子どもの頃のあなたがその自転車に乗って行っていたのはどんな場所だった? さて、ではその記憶がどのように脳に「書き込まれて」いるか、想像できるだろうか。小さい自転車のアイコンがどこかに保管されている、という感じはしないはずだ。さらに、何年もそのことについて考えたこともなかったのに、今この瞬間にいとも簡単にその記憶を呼び出せたというのもすごいことだ。脳科学者らはもちろんこうしたことについていろいろな仮説を持っているが、答えを知るにはほど遠いところに私たちはいる。脳の様々な領域がそれぞれどんな機能を持っているかに関しては、私たちもそれなりに知ってはいるが、それらが実際どうやって働いているのかについてはまだ手探りの状態だ。


 よく脳はコンピュータにたとえられるものの、コンピュータと脳の構造は全く違う。似ている点はといえば、コンピュータが脳と同じようなことをできるように作られているところだ。しかし、コンロでも電子レンジでもポップコーンを作れるからといって、コンロと電子レンジが似ていることにはならない。実際、コンピュータと脳を勝負させたら、今のところ脳のほうが勝つ。コンピュータは2+2みたいな計算を人間よりもずっと速くできるが、脳は多くのタスクでコンピュータを圧倒する。なぜかというと、脳は超並列分散処理をする、つまりたくさんの物事を一気にこなせるからだ。


 あなたの脳はどれくらいすごいのだろう。例えば、「人は脳の10%しか使っていない」という俗説を聞いたことはないだろうか。この「事実」をベースに真面目なSF作品のプロットが作られたことはあるが、この考え方はすぐに廃れた。実際、人は脳のほとんどあらゆる部分を使っている。とはいえ、脳を使って並外れたことをやってのける人がいることもまた確かだ。ここでは3人だけ例を挙げよう。


 キム・ピークという男は、本を1度に2ページずつ読む(片側のページを片方の目で、もう片側のページをもう片方の目で)ことで、1分間に1万語を読むことができた。


 イギリスの数学者ビル・タットは、紙とペンだけでナチのローレンツの暗号を解読した。彼は暗号機など見たこともなかったが、ドイツ側が誤って同じメッセージを2回送ったことから暗号の解読へとこぎ着けた。


 1939年、カリフォルニア大学バークレー校の大学院生だったジョージ・ダンツィクは、授業に遅刻してしまった。教授はそのとき、2つの有名な統計学上の未解決問題を黒板に書いていたところだった。その問題をみたダンツィグは、それが宿題なのだと勘違いし、ノートに書き取った。そして、(おそらく読者の皆も展開はわかっているだろうが)彼はそれを解いた。後になって彼はその問題が「いつもの宿題よりは少し難しい気がした」と振り返っている。


 脳は、いくつか奇妙な特徴を持っている。まず、何百もの認知バイアスがある。認知バイアスとは、間違っているかもしれない答えを導いてしまう脳の癖のようなものだ。私が一番好きな例は「韻踏み効果」というものだ。このバイアスのおかげで、韻を踏んでいる主張は踏んでいないものよりも正しいと思われがちである。今日の一針、明日の九針(a stitch in time save nine)というのは本当なのだろうか? 私にはわからないが、本当だと思いたくなってしまう。子どもの頃、隣に住む100歳くらいのお婆さんとドミノをして遊んでいたとき、私が次にどの牌を出すか迷っていると彼女はこう言って私をたしなめたものだ。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:36324文字/本文:42781文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次