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(2021/11/26 追記)

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おとな時間の、つくりかた
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ルポ・エッセイ
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一歩一歩──文庫化にあたって

『おとな時間の、つくりかた』
[著]山本ふみこ [発行]PHP研究所


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 この本を書いたのがほんの四年前だというのに、ひどく遠いことのように思えます。まるで、はるかかなたの風景を眺める気持ちです。


 いちばんには、東日本大震災(二〇一一年)()の当たりにする以前のわたしが書いているからだと思われます。当時(二〇〇九年)は、だいぶ(のん)()でした。朝風呂のはなしを書いたりしていますが、震災後、何か月もお風呂なしの生活がつづいた被災地の様子を知るや、とてもではありませんが、朝風呂には入れなくなりました。



 東日本大震災を知らない、遠いことに思えるこの本ですが、なつかしさはあります。時間と相撲(すもう)をとっていたわたしが、なつかしいのです。

「発気揚々(はっけよい)」「残った残った」


 みずからの人生という土俵の上で、時間と組みあい、相手を知ろうとし、お互いの関係を理解しようとしていたのです。その組みあいを記録した本書は、いきおい荒削りではありますが、当時の奮闘、こんがらかりが、わたしには必要なものだったことを思わせます。


 そうですね、現在はそのおかげもあるのでしょう、時間とは幾分うまくつきあえるようになっているでしょうか。うまく、というのは、相手を要領よくあしらうという意味ではまったくありません。わたしは、時間に、人生のたのしみをおそわりました。そしておそわったのは、むしろ要領なんかとは一切かかわりのない、一歩一歩(の過程)のたのしみでした。


 時間を短縮したり節約したりすることに夢中になり、手間を惜しみ、揚げ句結果だけをもとめるというなら、人生のたのしみなどないことになる。そのことをわからせてもらっただけで、わたしのものの見方はずいぶんと変化したのでした。


 今朝庭に集まるスズメたちの(さえず)り。ゼラニウムの花たち。クジラのかたちの雲。煮上がったおいなりさんの皮。散歩途中の子猫。訪ねてきてくれた若い友だち。守宮! 澄んで愉快な漫画。二女が()れてくれた紅茶。きれいな切手の貼ってある便り。からりと乾いた洗濯もの。おいしくできた水餃子。夫の駄洒落。夜半の雨音……。


 きょうひと日も、じつに多くの時間がたのしみをもたらしてくれました。


 こうした一歩一歩の積みかさねの値打ちさえ忘れずにいれば、結果がどうでも、よろこびに満ちた人生を歩いてゆける、と、わたしは信じます。



 さて、この本の登場人物の年齢、起きた事柄の年数については、二〇〇九年を基準に、そのままとしました。当時住んでいた家から引っ越しをし、十七年半ともに暮らした猫のいちごが逝きました。そしてわたしはといえば、少し宵っ張りになりました。こうしたうつろいが、さびしい一面を抱いてはいても、うつくしいものだという見方を、わたしはしたいのです。



 二〇一三年六月

山本ふみこ 

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