僕たちはAVでセックスを学んできた
突然ですが、あなたは、セックスのやり方を学んだことはありますか?
人のセックスを見る機会は日常にはありません。ですから男性の場合、知らず知らずのうちにアダルトビデオ(AV)をセックスのお手本にしていたという人が多いのではないでしょうか。
一方、女性は付き合っている男性からセックスを学んだという人が多いと言われています。ということは、男性は直接的に、女性は間接的に、AVのセックスのやり方に影響を受けてきたことになります。
実はここに、男性と女性がセックスですれ違ってしまうひとつの要因があります。
僕は、15年前にAV男優になり、これまでに3000本を超える作品に出演してきました。仕事でご一緒した女優さんの数も約3000人になると思います。
AVのセックスには、“演出”があります。AVには、観る人たちの欲望をかなえるための、ファンタジーが盛り込まれているからです。男優も女優もスタッフ陣も、その世界観を演出するために、いろんな工夫をしています。
その作られたファンタジーをお手本にして実際のセックスをしてしまうと、パートナーを傷つけたり、悩ませてしまったりすることもあります。
これまで僕は、講演会やイベント、オンラインサロンなどで、「どうして自分はセックスでイケないんでしょうか」「恋人とのセックスが痛くて辛いです」といった、女性からの相談を受けてきました。
たしかに、AVでは女性は必ずといっていいほど、オーガズムに達しています。潮吹きのシーンもよく映されます。ですから、セックスをすれば女性は必ずイケるものだ。イケないのは男性のテクニック不足か、女性が不感症だからだと、考えてしまう人がいるのも無理ありません。
けれども、実際に挿入した状態で女性が中イキできることは、めったにありません。もともと中でイケる女性は、全体の3割以下だと言われています。
男性の激しい愛撫も同様です。男優さんが指を何本も使って強い刺激を与え、女優さんはそれに感じるというシーンもよくあります。
しかし、それもやはり、カメラ映えさせるための演出で、実際に僕たちは女優さんの性器を傷つけないように、爪を切り、体重をかけず、細心の注意を払って撮影をしています。
「女性向けAV」で行われているセックスとは?
男性向けのAV市場が古くから存在していたのに対して、女性向けのAV市場は、この10年で大きくのびました。
僕自身も、女性が作る女性のためのAVメーカー「シルクラボ」の作品に設立当初から出演させていただきました。専属俳優として4年半活動し、今は女性向けのAVレーベルを自分で立ち上げました。
男性向けのAVと、女性向けのAVは、同じセックスを扱っているにもかかわらず、ずいぶん内容が異なります。
たとえば、女性向けのAVではセックスの会話やスキンシップといった、心のつながりが重視されます。コンドームをつける描写もシルクラボの女性向けのAVではマストですし、指も基本的には1本しか挿入しません。顔射もありません。お互いを大切に思っていることがわかるような、ラブラブ感、いちゃいちゃ感が特徴です。
僕が演者として出演させていただいたシルクラボは、スタッフのほとんどが女性でした。これまでの男性向けAVに対する女性の不満をすべて排除して、女性同士ディスカッションを重ねて作品を作っていました。
もちろん、女性向けのAVにも女性のファンタジーがつまっています。
ですが、男性向けのAVよりは、リアルに近い女性の願望がわかるものになっていると感じます。実は男性は、女性向けAVを参考にするほうが、女性からは喜ばれるのではないかと思います。
セックスの不幸なすれ違いをなくすために
AVには演出があります。
そして女性向けAVは、男性向けAVとはずいぶん内容が異なります。
このように言い切ってしまうと「男の夢を壊すな」と怒られてしまうかもしれません。でもこのようなことをあえてお伝えするのは、前に書いたように、AVの知識を元にした男性の、間違ったセックス観に悩んでいる女性が多いからです。
AVをお手本にして激しい愛撫をされるのが痛くて辛い
イカないと彼が不機嫌になるのでいつもイッたふりをしている
一生演技をしなくてはいけないのだろうか
そんな悩みを持つ女性が世の中にはたくさんいます。中には、彼とのセックスで深刻なトラウマを抱え、セックスが怖くなってしまったという女性もいます。
セックスにおける男女のすれ違いを、少しでも減らしたい。
僕だけではなく、AV業界で働くスタッフや役者たちは、機会があるごとに、AVはファンタジーであることを伝え、性に対する正しい知識を啓蒙する活動を行ってきました。
そんな活動を続ける中で、一昨年、インターネットメディアの「ハフポスト日本版」の取材に答える機会がありました。そこで「『AVが教科書』のせいで女性は悩んでいる」というタイトルの記事が掲載されると、ありがたいことにたくさんの方に読んでもらうことができ、女性からも男性からも大きな反響をいただきました。
女性からは「自分のパートナーにも、このことを知ってほしい」という声が多かったですし、男性からは「自分が勘違いしていたことに気づいた」という声をたくさんいただきました。
この時の反響が、この本を書くきっかけになりました。
「演出やファンタジーを取り払った、セックスのほんとうについて考える本を作れないだろうか?」と、ハフポストの編集部の方に提案いただいたのです。
ほとんどの男性は、自分のパートナーに気持ちよくなってほしいと思っているはずです。だとしたら、AVを(とくに男性向けのAVを)教科書にして、大切な彼女を傷つけてしまうのは、男性にとっても不幸なことです。
逆に、男性が正しい知識を持てば、女性も不安なくセックスを楽しむことができるようになりますし、彼女がセックスを楽しんでくれることは、男性にとっても嬉しいことであるはずです。
この本では、僕自身が、AVの撮影現場で知ったこと、女優さんや女性のファンのみなさんから教えてもらったことをお伝えしていきます。
1章では、AVというファンタジーについて。AVの現場ではどんな演出をしているか、みなさんに知ってもらえたらと思います。
2章では、女性向けのAVの特徴を解説しながら、女性が喜ぶセックスについて考えていきたいと思います。
3章では、AI時代、VR時代、そしてセクハラが厳しく追及される時代に、これからのセックスが、どのように変わっていくのかを考えていきたいと思います。
そして最後に、AV女優の紗倉まなさんとの対談で、女性目線のセックスも紐解いていきます。
みなさんのパートナーとのセックスが、より楽しく素敵なものになるための、お役に立てたら嬉しいです。