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太平洋戦争の失敗・10のポイント
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歴史
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第五章 山本五十六の戦死と戦争の終わり

『太平洋戦争の失敗・10のポイント』
[著]保阪正康 [発行]PHP研究所


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憎きヒットラー以上の敵


 この章では、連合艦隊司令長官山本五十六とはどういう人物であったか、そして山本五十六の戦死は、実質的にはこの戦争の終結を意味したのではないかという話を中心にしたいと思います。


 山本五十六という人は戦後、日本の軍人の中でもっとも頻繁に語られ、様々な評伝も書かれていて、過大に英雄視されているきらいがあります。しかし実際に彼の年譜を追いかけると、山本五十六とは、確かに日本海軍そのものだったとの感は受けます。山本は、日木海軍を見る時、あるいは日本海軍を懐かしむ時、やはり一番象徴的な人だということにもなります。戦後の風潮やものの考え方の中でも、わかりやすいということがあるんだと思います。


 アメリカ側も、山本五十六という人物を相当に研究していました。彼は大正期、そして昭和に入るころまでの二回、アメリカでの武官生活を体験しますが、この時の彼の行動は、アメリカ側に徹底的に監視されていた。若くて優秀な軍人だから、おそらく日本海軍は将来、この男が背負うだろうと、当初からマークされていたんですね。一説では、彼が日本に宛てた私信類もほとんど読まれていたといいます。


 これは有名な話ですが、山本五十六がアメリカ駐在武官を務めていた昭和初期に、日本のある人物に宛てて出した手紙があるんです。そこで彼は、「日本とアメリカとは戦争ができない」と書いた。戦争するような状況ではない、国力の差は歴然と開いている、ということを言いたいために、こういう表現を使ったんですね。日本海軍が本当に戦うなら、その決戦場はハワイでもフィリピンでも太平洋でもない、本当に戦うのなら、ホワイトハウスまで追い詰めなければならないが、それだけのことを実行する国力が日本にあるだろうか、ということを書いたんです。


 ところが、この部分が日米の開戦後、アメリカで反日キャンペーンの材料とされました。とんでもない日本海軍の軍人がいて、ホワイトハウスに乗り込んできて降伏文書に調印させようとしているというのです。それはアメリカの国民や軍人を烈火のごとく怒らせたわけです。しかし山本五十六は、アメリカと戦うのは決して簡単なことではない、そこまでの国力は日本にはない、という意味で言ったんですが、それが逆説的に取られて利用された。ただ、山本五十六にはそういった何か誤解を生むような言動が確かにあって、しかしそれを彼自身も別に訂正しようとしなかったところが、生存中にはいくつかあったと思います。


 現実にアメリカの軍人たちは、開戦後、山本五十六をヒットラー以上に嫌ったといいます。つまり山本五十六は日本海軍そのものであり、日本海軍を壊滅するためには、山本を亡き者にしなければいけない、という認識を持っていた。この山本に対する憎悪はアメリカ海軍の末端にまで行き届いていて、「山本」姓の兵が捕虜になると、「お前は山本五十六の親戚か」とか「山本の息子ではないか」と必ず聞かれたというほどです。


 最終的に山本五十六は、昭和十八年四月、ブーゲンビル上空でアメリカ軍のP38に撃ち落とされて戦死しますが、海軍が各司令部に出していた電報がアメリカに傍受・解読されていて、山本の乗った機が飛んでくる日程やコースが知られていた。その電報を傍受したアメリカの士官が、ニミッツのところへ報告に行くと、「とうとう山本が来たか」と言ったそうです。それで山本を今、亡き者にすることは、我々の陣営にとってプラスかマイナスかということを考えます。山木五十六より優秀な日本海軍の士官や提督がいるのか、もしいるなら、山本をそのポストにつけておこう、という計算をする。


 それをワシントンのアメリカ海軍省に問い合わせます。アメリカ海軍省には、日本軍人の名簿や、その動きを捕捉しているリストがあって、それらをチェックしてみるとただ一人、山口多聞というのがいるとわかった。山口多聞というのは残念ながら、日本から見れば残念だということですが、ミッドウェー海戦の時に「飛龍」に乗っていて戦死したとリストにあります。従って山本以上の海軍の軍人はいない、あの男を倒せば日本海軍の指揮は混乱するし、新たな戦略も生み出せないだろう、と海軍省からすぐに返事が来たといいます。それでニミッツは、ではやろう、と山本機の撃墜を命じる。


 山本五十六を狙っていくアメリカ海軍の動きを見ていくと、驚くほど情報収集量が豊富で、日本についての認識も深い。アメリカ海軍の軍人全てがそうだったとは思いませんが、少なくとも担当セクションは日本のことについてほとんど知っている。軍人の性格から姻戚関係から何から何まで全部、調べあげている。こういう情報戦で、日本とアメリカとの間には決定的な差があったんだと思います。そういう情報をつかみながら、山本五十六のある一面を誇張することによって、「あの男を倒さなければ日本海軍をやっつけることはできない」というプロパガンダを進めたわけですね。

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