読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-2
kiji
0
0
1287280
0
イギリスの失敗 「合意なき離脱」のリスク
2
0
0
0
0
0
0
政治・社会
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第7章 英国が「日英同盟」復活を急ぐ理由

『イギリスの失敗 「合意なき離脱」のリスク』
[著]岡部伸 [発行]PHP研究所


読了目安時間:43分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


「戦時内閣」の成立?


 EUからの離脱を決めながら、退出のかたちを決められず、()()()の混迷を続ける英国は、一体何がしたいのか。そんな疑問を抱く読者も少なくないだろう。


 筆者は、ジョンソン首相はいかなるかたちでもEUからの離脱を実現させると考える。しかし、これまで見てきたように、国民も議会も首相の身内の保守党も、離脱派と残留派で分断している事情を(かんが)みると、その(みち)(のり)は決して平坦ではない。


 ボリス・ジョンソン首相は、「合意があろうがなかろうが、2019年10月末の期限までに離脱する」と述べて「合意なき離脱」を()()した。しかし、3月に議会が反対の決議をしているだけにスムーズに実行できるかどうか大きな疑問符がつく。英メディアは、現在の混沌とした状況を「第2次大戦以来の政治的危機」と評している。


 そこで考えられることは、メイ前首相が取り組みながら挫折した「挙国一致」の体制だ。


 国家的な危機を回避しようとするなら、国政に関わる人びとが日頃からの主義主張の(へだ)たりを超えて、挙国一致的な政治体制を築いても不思議でない。


 (がん)(めい)に反対を続ける身内の保守党の最強硬離脱派を(かい)(じゆう)することを断念して、メイ前首相が選択したのは、最大野党・労働党との禁断の協調によるコンセンサス作りだった。しかしながら、労働党はメイ政権と対立姿勢を維持するだけで、労働党が主張するEU残留のための有効な解決策を提示しなかった。


 さらに、労働党のジェレミー・コービン党首は事態打開に向けてメイ前首相と協議することなく、傍観的な態度に終始して与野党協調は不調に終わった。


 しかし、メイ前首相のアプローチは間違いではなかったと思う。国を二分する分断解消には、大戦時の「戦時内閣」のように、党派を超えて一致団結しなければならない。現在の状況が「第2次大戦以来の政治的危機」というならば、まさに第2次大戦の時の政治体制で国難に対処すべきだろう。


 (ゆう)()政策をとってナチス・ドイツの大陸欧州への侵攻を招いたネヴィル・チェンバレン首相に代わって首相に就任し、英国を勝利に導いたのがウィンストン・チャーチルだった。


 チャーチルは、日頃から対立する保守党と労働党が挙国一致した「戦時内閣」を結成、国民を()()してバトルオブブリテンを戦い抜いた。同じアングロサクソンの米国を欧州戦線に引き入れて第三帝国を滅亡させ、かろうじて祖国を勝利に導き、救国の英雄となった。


 混迷する現在の難局を打開するのは、チャーチルがとった「戦時内閣」のような挙国一致の政治スタイルだろう。『チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力』の著書があるジョンソン首相は、チャーチルを政治家の手本として()(しゆく)している。ウエストミンスター周辺では、ジョンソン氏は首相に就任後、チャーチルの(ひそ)みに(なら)って救国の挙国一致を労働党など野党に呼びかけるプランを練っていたと伝えられている。


 注目したいのが19年1月25日、エリザベス女王がノーフォークで行なった演説で、共通点を見出すことの重要性に言及して、間接的ながら、EUからの離脱で結論を出さない政治家に対して、歩み寄りを促したことだ。英タイムズ紙は、女王がブレグジットを巡る対立を終わらせるよう政治家に伝えたと報じ、英BBC放送も、メッセージを伝えたと指摘した。


 英国の国家元首である女王は、政治的には中立の立場を保っている。しかし、国家存亡の危機では、役割を果たすこともある。女王の発言は、分断を続ける英政治家らに団結するよう呼びかけたメッセージだと受け止められた。エリザベス女王の後押しで各党が(ほこ)を収めれば、ジョンソン首相が超党派で挙国一致内閣を作り、救国の宰相となるかもしれない。


 7月28日付サンデー・タイムズ紙によると、ジョンソン首相は「合意なき離脱」の準備を担当するゴーブ国務相を中心に、ラーブ外相、バークレイ離脱担当相、ジャビド財務相、コックス司法長官ら強硬離脱派の主要閣僚を集結させた「戦時内閣」を設置。16年の国民投票で離脱キャンペーンを成功させたドミニク・カミングス氏らも招いて、議会休会や総選挙など、あらゆる手段を使ってでもEU離脱を実現させるため、平日のみならず、週末も会合を開く構えだ。


 しかしジョンソン首相は、「何でも反対」の労働党と再度の国民投票によるEU残留を明確に打ち出している自由民主党と協調してコンセンサスが得られるのだろうか。すでに述べたように、首相就任後、初めてウェールズで行なわれた英下院補欠選挙で、自由民主党に議席を奪われ、議会運営はさらに厳しくなった。こうした中で、強引に「合意なき離脱」を進めれば、不信任案が可決され、空中分解となりかねない。スコットランドや北アイルランド、ジブラルタル(イベリア半島南端。スペインが領有権を主張している)が独立志向をいっそう強めることも必至だ。いかに説得して、連合王国の一体性を維持するか。課題は山積みだ。

金融システムの危機は回避できるか


 ジョンソン首相の就任で懸念される「合意なき離脱」の影響が各方面から指摘されるが、世界の金融システムの危機に発展するリスクはほぼないといわれている。


 金融業界は、16年の国民投票直後から英国が単一市場から離脱することを想定した体制を作っており、ほぼその準備ができている。英国の金融当局もストレステストを実施し、「合意なき離脱」となっても金融システムの頑健性が担保されることを確認している。EUも特別立法などでハードランディングを回避する施策を用意しており、リーマン・ショック時のように世界の金融システムが揺らぐような事態にはならないもようだ。


 英国のEU離脱は、日本の企業にとっても悩ましい。英国に製造拠点を置く自動車などの製造業は、「合意なき離脱」によるサプライチェーン寸断などの混乱に備えた在庫の積み増しや操業調整に追われている。ホンダが英国工場の撤廃を決め、日産も新たな車種生産を中止している。


 しかし日本の証券最大手、野村ホールディングスの柏樹康生前欧州地域エグゼクティブ・チェアマン(現顧問)は、「(世界の外国為替取引の40%を占め、海外のおよそ250の金融機関が拠点を置く世界の金融センターの)ロンドンは、離脱してもあらゆる情報が集まる情報の首都であることは変わらない。資金、人材、そして情報が集まり、欧州で金融ビジネスを展開する窓口であり続ける。少なくとも20年はシティの機能は(すた)れない。ロンドンの欧州本社では、離脱後、大陸欧州で業務拡大のため一部の従業員が異動するが、欧州を統括する多くの機能は残る。他の金融機関も同様と思う」と話している。

「グローバル・ブリテン」構想


 EUから抜けた後、英国は、どうするのだろうか。

「英国は『自信と自由に満ちた国』としてヨーロッパ大陸にとどまらず、幅広い世界で経済的・外交的機会を求める」


 メイ前首相は、国民投票から4カ月後、1610月の保守党大会で「グローバル・ブリテン」構想を明らかにした。その理由としてメイ氏は、「国民投票の結果は、英国が内向きになることではなく、世界で野心的かつ楽観的な新しい役割を担うことへの決意表明だった」と説明した。


 英国は68年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明して以来、グローバルパワー(世界の大国)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきた。ところが、EU離脱を決断した今、引き続き欧州の一員である一方、国際社会に引き続き積極的に貢献して、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指すという。


 EU離脱後の新たな経済、外交、軍事的な戦略として、インド洋から太平洋へと再び進出する「グローバル・ブリテン」構想を掲げたのだ。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:17868文字/本文:21108文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次