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(2021/11/26 追記)

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放送作家の時間
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エンタメ
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グループの人たちの話

『放送作家の時間』
[著]大倉徹也 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:21分
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『見上げてごらん夜の星を』と私



 前述のように『見上げて…』は、私にとっては同タイトルのステージ・ミュージカルの主題曲。歌っていたのは、私はモッチャンと呼んでいた伊藤素道とリリオ・リズム・エアーズ。メンバーは伊藤のほかに石島健一郎、古川和彦、河野通雄、山ノ井しげるの4人。そしてステージでの共演者として生徒の母親役に元タカラヅカスターの橘薫と、唯一の女性生徒として当時は少し知られていた宮地晴子。


 そのころの芸能界は現在と同様大手プロダクションが支配していたが、その商業主義に対して労働者のための音楽を広げようという勤労者音楽協議会、略称「労音」の動きが各地で活発だった。


 今も残してある上演台本によると『見上げて…』の制作は「大阪労音」と、リリオの属していたナベプロこと渡辺プロダクション。作曲者のいずみたくが「労音」派で、当時はまだ無名の永六輔が「心情左派」と知って、東京にいる彼に「作・演出」を依頼したと思われる。しかし「大阪」だからステージは中之島にあったフェスティバル・ホールで、1960(昭和35年夏の二十日間公演。


 この翌年には東京のNHKで『夢あい』が始まっている。当時の永さんは例によって猛烈に忙しい。彼に頼まれるとなんでもハイと応える私だから演出助手を頼まれると、どんな仕事をするのかも聞かずにすぐに引き受けている。まずは東京でいずみたく音楽の録音に立ち会うことから始まった。彼が指揮棒を振ると、オーケストラが奏でた序曲はまるでハリウッド・ミュージカルを生で聞くようで、その旋律に私はダジャレではなく戦慄したのを憶えている。


 こまかいスケジュールは忘れたが、全員大阪へ移動。舞台稽古が始まると私は舞台の道具方も兼ねさせられているのを知った。作・演出家は初日を見てダメオシをして2日目を見て満足するとさっさと東京へ帰っていった。私にも本職の仕事はあったが、道具方としては毎日リリオと付き合わないといけない。おかげでステージが終わるとホテルで台本を書いて東京局へ送ったりした。しかしリリオと20日間一緒にいたことで彼らと親しくなり、そのことがあとでとても役立つことになる。


 肝腎の舞台だがリリオのメンバーは全員が夜間高校生。永さんに「夜間」の体験があったかどうかは知らないが、主役を夜間高校生にしたところがいかにも「労音的」。主題歌の歌詞に「ぼくらのように名もない星が」とあるが、「名もない」にはカネがないと行けない昼間の「普通高校の生徒」に対して、昼は働き夜は学ぶ貧しい生徒という意味が込められていたと思う。といって特にドラマがあるわけではなく、主に教室を舞台に生徒の喜怒哀楽を描いたものだった。


 例えば夜間高校には少年だけではなく、すでに結婚している青年も通う。だから子持ちの高校生もいて不思議はない。もっとも記憶に残っているのが、父親になっていたメンバーが学校へ赤ん坊を乳母車に乗せて連れてくる場面。前場面から暗転中に夜の教室になる、その間に私が乳母車を用意したことだ。


 そしてその場面は暗闇の中で赤ん坊の泣き声が聞こえることから始まり、教室が明るくなると伊藤素道扮する教師が入ってきて「誰だ、赤ん坊連れてきたのは!」と怒鳴ると客席大笑い。いかにも「お笑い」好きの永さんらしい作・演出だった。


 もう一つ忘れられないのは舞台装置を担当していたのが、まだ『アンパンマン』で知られる前のやなせたかし氏だったこと。話が昼から夜に移る時、舞台を暗転にしないで太陽が沈んで教室の後ろで寝てしまう場面を見せた時にも観客は笑った。それがマンガ家だったやなせ氏のアイディアだったのか、それとも永さんのアイディアだったかは知らない。しかし遥か後年、マンガ家として功なり名を遂げていたやなせ氏が「ある時突然、永六輔という人物が訪ねてきてセットを頼むと言われた」という意味のことを書いていたから、やはり永さんのアイディアだったのかもしれない。

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