この本は、フランスがまだフランスでなかった頃、つまりは、あの有名なカエサル(シーザー)の『ガリア戦記』のもっと前から、話が始まります。最後は、二十一世紀のグローバルな時代環境の中で、多様な問題と格闘している現在のフランスまでを視野に入れた、とても長いスパンでの歴史の話です。
かなりの分量ではありますが、それでも、二〇〇〇年を超える歴史を過不足なく語っているわけではありません。
では、何を取り上げているのかといえば、広く歴史好きの方たち、あるいは歴史に学んで現在の生き方やこれからの世界のあり方を考えてみよう、さまざまな観点からそう考えておいでの方たちに、何かヒントが提供できるような「フランス史」、その「読み方」の提起、ということです。
特にフランスに強い関心があるわけではないけれども、EU(欧州連合)を巡る問題をはじめ、ヨーロッパがさまざまに関心を呼ぶ時代ですから、ヨーロッパの歴史と現在に興味がある、という方もおいででしょう。いや、今やアジアの時代だ、とか、これからの世界はアフリカの時代だ、という風に考える方もおいででしょう。
実は長いフランスの歴史をとらえることは、周辺世界との関係のあり方をとらえるだけでなく、中世の終わりからは世界を視野に置く必要があるのですから、その点で、フランス史は現在のフランス国境内部には限定できないのです。この本の基本的な立ち位置は、そのようなものです。
一つの国や地域を取り上げて考えようとする場合に、どのような視点を定めて、どのような角度から考えてみることが必要なのか、論点をどのように立てて、いかなる要素を複合的にとらえてみることが望ましいのか。こうした現在の問題の考察にも共通する姿勢を、フランス史をフィールドとして鍛えてみようとしている、と言って良いかもしれません。
「鍛えてみる」などとは僭越至極、とは言わないでください。私自身が、こうして長いスパンで語ることで、自らを鍛えざるを得ない、と思っているのです。
でも、当然ながら、ピンポイントでフランスについて関心を持っておいでの方も、いらっしゃる。ロワール川沿いのお城にヴェルサイユ宮殿、フランス革命やナポレオン、あるいは芸術やファッション、フレンチ料理やワイン、文学や映画、項目はキリなく、テーマやきっかけはいろいろでしょう。現在でもフランスは、いろいろ問題・課題は多いといっても、またさまざまな魅力に満ちている社会でもあります。そうした関心を持つ方々に、その母体、ないしは舞台となったフランスでは、こんな歴史の激動や課題のクリアがなされてきた中で、社会や文化が特徴を持って形作られてきたのです、という提起をしたいわけです。
すべての関心にお応えすることは、スペースからしても、私の能力からしても、とても無理でしょう。しかし、「教養としての」という形容がついているように、以上のような広い視野から取り上げた「フランス史」の語りに接していただいて、歴史研究のプロでなくとも、それぞれの興味や考えに歴史的な深みや広がりを備えていただくことは可能ですし、それが実現できれば、著者としては望外の幸せです。