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ロシアを知る。(東京堂出版)
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政治・社会
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序章 〈緊急対談〉動き始めた北方領土交渉のゆくえ

『ロシアを知る。(東京堂出版)』
[著]池上彰 [著] 佐藤優 [発行]PHP研究所


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これが最後のチャンスだ

池上 私たちにとって「近くて遠い国」であるロシアについて、表象ではなく、じっくり腰を据えて議論しようという本書の企画が立ち上がったのは、もう足かけ三年前の二〇一七年のことです。それから佐藤優さんと対談を重ね、実は二〇一九年の春には発刊される予定でした。それが本書の1章以降です。


 ところがその間、日露間の長年の懸案だった北方領土問題と平和条約締結交渉が、にわかに動き始めました。そこで発刊を遅らせ、外交分析のプロであり、かつて外務官僚時代にはこの問題の当事者でもあった佐藤さんに、これまでの経緯とその裏側、さらに今後の展望まで語っていただこうということになりました。


 まず単刀直入にお伺いします。世間的には「どうせ無理だろう」という懐疑的な見方が多いようですが、北方領土問題は解決できますか?

佐藤 可能性は十分にあると思います。おそらくは今回が最後のチャンスでしょう。ただし、外務省の動きが鈍い。それはサボタージュではないんです。能力と経験の不足が問題。例えばかつての甲子園の常連校が、一九年間も地方大会にすら出ていない状態から、いきなり春の選抜大会の二一世紀枠という特別枠で出場したとします。どうなりますか?

池上 試合にならないでしょうね。

佐藤 そう。もうボールのスピードについていけないから、バットも振れない。それが今の外務省です。

池上 (笑)。一九年前というと、二〇〇〇年ごろ。森喜朗内閣のとき、衆議院議員だった鈴木宗男さんと外務省主任分析官だった佐藤さんが、「二島先行返還」というアイデアを出しましたね。当時、この方向でまとまる可能性がかなり高かったはずです。

佐藤 正確に言うと「二島先行返還」に踏み込む前に、交渉が日本側の事情で頓挫してしまいました。本格的な交渉に入る前に、森内閣が退陣して小泉純一郎内閣が誕生し、田中眞紀子さんが外相に就任します。その一年少し後鈴木さんと私が逮捕され、ご破算になりました。そのとき、外務省は鈴木さんが関与した機微に触れる関連文書を廃棄したのです。だから過去の経緯がわからなくなってしまった。その条件で戦うのは、厳しいですよね。

池上 しかし安倍晋三首相は、ずいぶんやる気になっているように見えます。特に事態が大きく動いたのは、二〇一八年一一月一四日のシンガポールでの会談ですね。一九五六年の日ソ共同宣()に基づいて、平和条約交渉を加速させると。



佐藤 会談後の安倍首相が記者会見で述べた全文を、同日の「産経ニュース」がそのまま報じています。

〈「先ほどプーチン大統領と日露首脳会談を行いました。その中で通訳以外、私と大統領だけで、平和条約締結問題について相当突っ込んだ議論を行いました。2年前の(山口県)長門での日露首脳会談以降、新しいアプローチで問題を解決するとの方針の下、元島民の皆さんの航空機によるお墓参り、そして共同経済活動の実現に向けた現地調査の実施など、北方四島における日露のこれまでにない協力が実現しています」

「この信頼の積み重ねの上に、領土問題を解決をして平和条約を締結する。この戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つ、必ずや終止符を打つというその強い意思を完全に大統領と完全に共有いたしました」〉


 つまり、安倍政権の間に解決すると。そうでなければもう解決しませんと。その合意ができたと言っているわけです。

池上 すごいですね、「完全に大統領と完全に共有いたしました」と。本当に話したとおりをそのまま記事にしている(笑)。

佐藤 そのあたりが産経新聞のすばらしいところで。さらに続きがあります。

〈「そして1956(昭和31年、(日ソ)共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意いたしました。(大阪市で開かれる)来年(6月)のG20(=20ヵ国・地域首脳会議)においてプーチン大統領をお迎えいたしますが、その前に、年明けにも私がロシアを訪問して日露首脳会談を行います。今回の合意の上に私とプーチン大統領のリーダーシップの下、戦後残されてきた懸案、平和条約交渉を仕上げていく決意であります。ありがとうございました」〉(「産経ニュース」二〇一八年一一月一四日付)


 これに加えて、二〇一八年一二月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20でも、二人は首脳会談をやっています。


※ 日ソ共同宣言 一九五六年一〇月に調印、同年一二月に発効。これにより日ソの戦争は終結し、国交を回復。また平和条約締結交渉を継続し、その締結後にソ連は日本に歯舞群島と色丹島を引き渡すと明記された。

「二島先行返還」論は消えた

池上 問題は、どういう方向で話をまとめようとしているのか。安倍さんがプーチンにどんな提案をしているのか。この部分は明らかになっていませんね。

佐藤 安倍さんが「プーチン大統領とのリーダーシップで仕上げる」と言ったのは、外交当局の積み重ねの延長線上ではないということです。

池上 全国紙は「二島先行返還」論で行くという見方を示していますが、これは間違いでしょう?

佐藤 明らかな誤報です。シンガポール首脳会談について正確に報じたのが北海道新聞です。

〈首相は会談後、プーチン氏と通訳のみを交えた一対一の会談で「平和条約締結交渉について相当突っ込んだ議論を行った」と記者団に述べたが、具体的な内容は明らかにしなかった。日本政府内には同宣言に基づく歯舞、色丹両島の引き渡し協議入りを求めつつ、国後、択捉両島では共同経済活動を実現して自由な往来を可能にするという「2島プラスアルファ」論が強まっており、首相がこうした考えをプーチン氏に伝達した可能性もある〉(「北海道新聞」電子版 二〇一八年一一月一五日付)

佐藤 「二島先行返還」論と「二島プラスアルファ」論とはまったく違う。それをこの時点でわかっていたのは北海道新聞だけですね。

「二島先行返還」論というのは、まず歯舞群島と色丹島を日本に返還して中間条約(例えば日露友好・協力条約)を締結し、その後で国後島と択捉島返還の継続協議を行い、その二島が日本に帰属すると確認された時点で平和条約を締結しようというものです。


 しかしプーチンの北方領土に関する交渉スタンスは、二〇一二年にロシアの第四代大統領に就任して以来、はっきりしています。日本が国後島と択捉島を領土交渉の対象に含めるなら、実質的な交渉には応じないということです。逆にいえば、今は実質的な交渉に応じているわけですから、これは日本が国後島と択捉島を対象から外したことを意味します。

池上 先にも言いましたが、森内閣の時代なら「二島先行返還」の可能性がありましたが、今はもうダメと。

佐藤 そうです。

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