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ロシアを知る。(東京堂出版)
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政治・社会
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6章 帝国の攻防──諜報と外交の舞台裏

『ロシアを知る。(東京堂出版)』
[著]池上彰 [著] 佐藤優 [発行]PHP研究所


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なぜ暗殺事件は繰り返されるのか

「ポロニウム暗殺」はプーチン政権の強さか脆さか

池上 ロシアでは、反プーチンのジャーナリストや実業家などが殺される事件がよくありますね。あれもプーチンが命令しているのではなく、プーチンに忖度する連中が勝手にやっているように見えるんですけど。

佐藤 そういう部分もあると思います。個別のケースで見ると、例えば二〇〇六年に暗殺されたアンナ・ポリトコフスカ(※1)の場合、チェチェンの取材を進める過程で、マフィア間の利権抗争に巻き込まれたことは間違いない。つまり、暗殺を指示したのはプーチンの周辺の誰かではなく、マフィアだったと思います。


 ただそのとき、ふつうなら警察が公権力として、マフィアからジャーナリストを守るはずですよね。でも守らなかった。マフィアのやるがままにやらせたわけです。


 あるいは一九九八年に暗殺された改革派の政治家ガリーナ・スタロヴォイト(※2)も、実はかなり建築関係の利権に首を突っ込んでいました。ミクロで見ると、そういう事情がいろいろあるんです。その暗殺に対して、やはり公権力が「不作為」という形で関与していたことは明らかです。


 それから、KGB(ソ連国家保安委員会)、FSB(ロシア連邦保安庁)から反体制活動家に転じたアレクサンドル・リトビネンコは、二〇〇六年にロンドンでポロニウムを飲まされて暗殺されましたね。彼はイスラム教徒だったんです。

池上 そうなんですか。

佐藤 彼はもともとチェチェンの掃討を担当していましたが、そのうちにチェチェンマフィアとの関係ができて、ロンドンでは武器商人をしていたんです。イスラム教徒になったのも、その商売の関係です。


 だから暗殺に元KGBの誰かが関与していることは間違いないのですが、それがプーチンの政権的思惑によるものか、それとも武器販売をめぐるトラブルなのかはわからない。

池上 ポロニウムというと、原子炉から取り出さなければいけない放射性物質で、しかもそういう原子炉を持っているのはロシアとイスラエルぐらいですよね。本来なら国家管理しているはずですが、それが殺人の材料に使われたということは……。

佐藤 だからGRU(ロシア連邦軍参謀本部諜報総局あたりが関与している可能性が排除できないんです。むしろ問題は、核管理ができているかどうかです。国家の管理下での殺人ならまだましです。しかし、管理が及ばずに核物質が拡散しているとすれば、そちらのほうがずっとリスクは高いですよね。

池上 それは危険じゃないですか。

佐藤 だからあの事件自体、ものすごく危険なんです。プーチンとしても、政権が計画的に暗殺をしたという言説が広まってくれたほうが、核が拡散したという憶測が広まるよりずっとましです。もし特定のマフィアグループなりが持ち出していたとすれば、国家管理ができていないことになりますからね。

池上 つまりプーチンの命令で暗殺したなら、文民統制が行き届いていることになる(笑)。

佐藤 そう。だからもしプーチンが関わっていないのに関わったというプロパガンダが出たら、政権の威信にかけて潰しにかかるんじゃないかという人もいますが、それはロシアがわかっていない人の見方ですね。プーチン側にとっては、計画殺人をやったと見られるのと、核管理ができていないと見られるのとでは、どちらのダメージが少ないかという問題です(笑)。核管理ができていないとなれば、国際干渉が始まります。

池上 そうですね。面白い見方ですね。

佐藤 だからあの国にいると、ものの見方がひねくれてくるんですよ。一つひとつの見極めが、ものすごく難しい。


※1 ポリトコフスカヤ、アンナ 一九五八〜二〇〇六年。チェチェン取材の他、プーチン批判の急先鋒としても知名度の高かったジャーナリスト。自宅アパートのエレベーターで射殺された。

※2 スタロヴォイトワ、ガリーナ 一九四六〜一九九八年。社会心理学・民族学の専門家でもあり、エリツィン大統領の時代には民族問題担当の大統領顧問も務めた。自宅前で射殺された。

暗殺には経済合理性がある

池上 それから成金もたくさん殺されましたね。ソ連が崩壊してロシア連邦になったとき、民主化の名のもとに、とりあえず国営企業の株券を国民にばら撒いた。それをかき集めた者が新興成金として台頭したわけですが、そんな彼らが狙われた。

佐藤 そうです。私が知っているだけでも、銀行の頭取が一人、それに非常に大きな利権を持っていたスポーツ観光国家委員会の第一次官が一人殺されています。あるいはモスクワでいつも使っているスラヴャンスカヤ・ホテルの共同支配人も、地下道でハチの巣にされました。


 私が日本大使館にいたころの感覚で言うと、日本円で三億円がボーダーラインですね。この人間が死ぬことによって誰かが三億円の利益を得られるとなると、殺されました。というのも、嘱託殺人が最低二〇万~三〇万円、高くても五〇〇万円ぐらいでできたんですよ。そうすると、三億から五〇〇万を引いた二億九五〇〇万円が自分の利益になる。しかもそれで迷宮入りですからね。そうするといくら友情があっても、やはり二億九五〇〇万円のほうが重くなる(笑)。

池上 経済合理性があるんですね(笑)。

佐藤 捕まらないという前提もありますからね(笑)。そりゃそうですよ、警察官の給料は五〇ドルなのに、マフィア組織なんかに向かっていったら殺されるリスクが高いですからね。警察官だって家族がいますから、そんなリスクを冒してまで捜査なんかしないですよ。


 でも逆に言うと、利権抗争に入っていかなければ殺されないんですよ。だからモスクワでも安全な場所といえば、まず外国人の集まるホテル。マフィアが白タクとか管理売春とかをやっているところです。マフィアの城は安全なんですよ。強盗が入ることもないし。それに継続的にお客が来なきゃいけないから、価格が決まっていてぼったくることもない。

池上 なるほど(笑)。

佐藤 怖いのはチンピラです。マフィアの真似をしたがる中学生とかね。私がモスクワにいたころそうでした。

池上 日本でも、山口組がちゃんと運営しているところは安全ですからね。やさぐれている連中のほうが怖い。

佐藤 そう、だからそれもロシアと日本は似ているんですよ。いずれも合理性があるわけです。ただし、あの国はそういう部分が見えにくいところがある。


謎だらけの「ノビチョク事件」

イギリスはロシアとの関係悪化を狙っている?

佐藤 それから二〇一八年三月、イギリスで神経剤「ノビチョク」を使った暗殺未遂事件がありました。ターゲットはロシアの元スパイとその娘だったわけですが、この事件はわかりにくいんです。

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