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「色彩セラピー」入門 心を元気にする色のはなし
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生き方・教養
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III 色の“癒し”効果──色彩と人間のかかわり

『「色彩セラピー」入門 心を元気にする色のはなし』
[著]末永蒼生 [発行]PHP研究所


読了目安時間:37分
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民族文化の 中の色彩


“色彩セラピー”は昔から知られていた?


 世界各地の文化や文明の歴史で、人間は色彩の効果をうまく利用していたようだ。特に、古代においては宗教的な営みを通して人々は色に特別な作用があると信じていた。今なら、色彩の持つセラピー効果というところだろう。


 私の旅行はそんな旅先の土地に伝わる色彩文化に誘われて始まる。そして、色彩への興味に引かれて歩き回っているうちに思わぬ体験に遭遇することも少なくない。


 十年以上前、五~六名の仲間でマヤやアステカなど中央アメリカ先住民の古代文明の面影を求めてメキシコからグァテマラにかけて旅をした時のことだ。ナチカステナンゴという町を移動していた私たちに、ある情報が飛び込んできた。それは、マヤ民族の霊場が近くにあり、そこではシャーマンによる()(とう)儀式が行われているというのである。それも、なんと“色彩祈禱”だという。頼めば特別に祈禱もしてくれるというので、すぐに申し出た。願ってもない機会である。


 翌日の夜明け、私たちは山の頂きにある霊場へと向かった。早朝とはいえ、夏の太陽が照りつける山歩きはかなりの暑さだ。やがて、目的の霊場にたどり着いた。あたり一面に強烈な樹木の香りが漂っており、つい大きく深呼吸したのを今でもはっきりと思い出す。登りきった所は少し平らになっていて二、三カ所に石を組んだ儀式用の炉が造ってあった。


 いよいよシャーマンが登場。彫りの深い顔だちの風格あるマヤ族の中年男性だ。といっても赤ん坊を抱いた奥さんを伴っていて、なんだかアットホームな感じである。彼らにとっては、祈禱といってもごく日常的な営みなのだろう。私たち日本人が仏壇でお線香をあげるような感覚に近いかもしれない。


 それにしてもシャーマンたちが着ている民族衣装は実に色彩豊かで美しい。しかもそのデザイン感覚が素晴らしい。黒地に赤や白、青や緑など鮮やかな()(しゆう)で、シンボリックな絵が描かれている。それらは、雨、雷、太陽など自然現象ばかりだ。理由を聞いてみると、彼らにとって、太陽や雷もすべて神々の化身であり、そのパワーを身体に宿すために身につけているという。日本の神道も含めて、世界各地の原始宗教とも共通するところがありそうだ。

古代マヤから伝わる色彩祈禱


 さて、どうやって“色彩祈禱”を始めるのだろう。興味深く見守る私たちの前で、まずシャーマンは周囲の樹の皮を小型のナタで削りはじめた。それを炉にくべて火をおこすのだ。さらに地面に砂で丸い円を描き、そこに米や花などいろいろな物を配置していく。その砂絵は仏教の(まん)()()を思い出させる。そして、最後に置かれたのが数十色のローソクの束だった。クレヨンのようにきれいだ。このローソクの色の一つ一つに祈禱の意味があるらしい。訊ねてみると、赤は愛や幸運、黄色が経済、緑が健康……といった具合に説明してくれた。シャーマンの奥さんが赤ん坊をあやしながら、薔薇の赤い花びらを砂絵の曼陀羅の上に散らしている。


 やがてシャーマンがローソクに火をつけて祈禱を始めると、奥さんの方は香を()いた紐つきの器を振り回してそこら一帯に煙を流す。よくキリスト教会の儀式でも見受けるものである。一種の()(はら)いなのだろう。色の違う一つ一つのローソクが燃えて、その煙が立ちのぼっていく中でシャーマンは一心に祈りを続けていた。それぞれの色の煙が天に昇ることによって、色に象徴される祈りが神に通じるというのである。つまり、色はメッセージであり、同時に神に祈りを届けるチャンネルでもあるわけだ。


 最後に、私たち全員を円陣に立たせると、旅の無事と健康を祈るといって緑の草で一人一人の背中を祓ってくれた。ちょうど、神社で(さかき)を使った御祓いを受けているような感じである。


 私にはマヤ語もスペイン語も通訳なしにはまるでわからない。しかし、シャーマンが説明してくれた色彩の意味はすんなりと伝わってきたし、共感もした。もちろん、文化や宗教において色彩が象徴的な意味を持つこと自体は、世界各地で見られることで、珍しいことではない。だが、マヤのシャーマンが教えてくれた色の意味は、日頃、私が感じていることと非常に似通っていたのだ。


 彼らの色の意味を知ったことで、この後の旅行がさらに楽しくなったことはいうまでもない。色を通して、マヤ族の文化の(へん)(りん)を少しでも感じ取れる気がしたからだ。古代マヤ文明の(まつ)(えい)でもある現在のマヤ・インディオの中に、色彩を通して神々や自然の精霊と語り合い、そのことによって癒しを得ようとする伝統が生き延びていることは実に興味深いことであった。

太陽信仰と結びつく古代の赤


 では、古代マヤ文明において、色彩はどのような意味を持っていたのだろうか。チチカステナンゴを離れた私たちは、さらに古代マヤの精神的な場、(さい)()センターとみなされる遺跡があるティカルヘと向かった。


 ピラミッドを中心とするその遺跡群は人里離れたジャングルの奥地に横たわっていた。セスナ機で上空から眺めると、一面緑色の大森林の所々に、写真で見慣れていたあのマヤ・ピラミッドの最上部がわずかに頭を見せている。空からは近くに見えたピラミッドも、たどり着くには、セスナを降りてからバスや徒歩でかなりの行程がある。密林の中は(うつ)(そう)として昼なお薄暗く、木漏れ日が美しい。しかし、歩くと蒸し風呂のような暑さで()(まい)がしそうだ。起伏の激しい道を汗だくになって歩くと、突然、広場のような所に出る。そこにみごとな配置でピラミッド群がそそり立っていた。マヤのピラミッドは独特の急勾配な姿にデザインされている。深い緑の中に、その品のいいシルエットを見た時の感動はひとしおだ。


 というのは、現地に行く前にたまたま得ることのできた情報によって、かつて古代マヤ文明の時代、これらのピラミッドはすべて赤く彩色されていたということを知ったからでもある。濃い緑色の密林の中から、空に向かってそそり立っていた赤いピラミッド。その光景を想像しただけでも、私は鳥肌立つような思いだった。


 この赤は、マヤ、アステカなどの古代文明において重要な意味を持っていたと伝えられている。ティカルの祭祀センターのピラミッドだけでなく、メキシコ各地の他のピラミッドにおいても赤く彩色されていた(こん)(せき)が残っているという。事実、私もその幾つかを目にした。ピラミッドの土台石のあたりに赤い色が(かす)かにこびりついていたのだ。


 古代の赤は何を語り伝えているのか。マヤ・インディオだけではなく、古代のトルティカ、アステカ、そしてホピにいたるまで、中央アメリカの先住民に多く共通しているのは太陽信仰である。

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