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「色彩セラピー」入門 心を元気にする色のはなし
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生き方・教養
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IV 色彩セラピーの実践──日常に活かす色彩心理

『「色彩セラピー」入門 心を元気にする色のはなし』
[著]末永蒼生 [発行]PHP研究所


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ストレス解消としてのセラピー・ブーム


 最近日本でも「セラピー」という言葉がさかんに使われるようになった。ミュージックセラピーをはじめ、香りや色など五感に働きかける形でのセラピーが関心を呼んでいる。


 私が行っているような色彩を使ったメンタルケアの方法も「色彩セラピー」という形でよく紹介されることがある。ただ、この章を読んでもらうにあたって、この「セラピー」という言葉の意味について整理をしておきたいと思う。


 というのは、「セラピー」という言葉は本来「治療」を意味するものなので、それが精神的な疾患を対象にした「サイコセラピー」であっても、精神医学などの専門家によって行われている。そこではカウンセリングや分析療法、作業療法、絵画療法、また投薬もふくめた治療などが臨床医学の経験を踏まえて実践されている。


 しかし、昨今、(ちまた)で一般に言われている「セラピー」という言葉は、普通に生活している人のためのストレス解消など、メンタルヘルスのレベルで使われている。同じ「セラピー」という言葉なので紛らわしいわけだが、精神医学などで資格を持った専門家が行う本格的な治療行為とは区別をしなければならない。


 もちろん、一般の人がストレス障害から深刻な病気になったりすることが多い時代なので、メンタルケアとしてのセラピーと医学的なセラピーの境界線が引きにくくなっていることも事実である。欧米では、医師と看護師、それに資格を持ったアートセラピストが対等な立場でチームを組んでいる医療施設もある。このところ、日本でも医療のありがたについて「キュア(cure)からケア(care)へ」ということが求められるようになってきたので、いずれセラピストの立場が社会的に認知されるとは思う。そうすれば、医療現場で患者のケアにあたるセラピストの姿が見られるようになるはずだ。


 しかし、現状では仕事や人間関係からくるストレスや疲れを深刻な症状になる前に軽減する方法としての「セラピー」が一般の人に必要とされている。一種の心の健康法、病気予防の知恵といったらいいだろうか。ハーブ健康法、アロマセラピー、フラワーセラピーやガーデニングのブームなどが起きるのも、社会全体が精神的疲労に陥っていることを語っているのだろう。


 そういう意味で、ここで私が述べようとしている「色彩セラピー」も日常の暮らしの中で気軽に取り入れるための健康法である。一言で色彩セラピーといってもいろいろな方法がある。身近なものでいうなら、クレヨンや絵の具を使って好きな色で絵を描くことだ。ただし、この場合上手な絵を描こうと意識すると逆効果になる。子どもの落書きのように気ままに描くことがリラックス効果を生む。以下、その効用を示す実践例を紹介したい。


暮らしの中の 色彩セラピー


「色彩の自分史」をつくってみる


 女性の受講生が多い「色彩学校」にも、年に数名は男性が入ってくる。男性の場合、色についても感覚的なとらえ方だけでなく理論的に理解しようとする人が多く、色彩論を勉強しはじめると結構真剣に探究しはじめるところがある。


 ある男性デザイナーの場合は、まず仕事に活かすために色彩心理を学ぼうという動機で参加してきた。仮にTさんとしておこう。Tさんはグラフィック・デザインの事務所をやっている。ちょっと繊細な感じの優しそうな三十代半ばの男性である。

デザインの場合、クライアントにプレゼンテーションする上で形についてはわりあいに合理的な説明がしやすいんですよ。でも、色彩についての提案をする段になるとこれが難しいんです。どうして、この色でなければならないかということをなかなか説得できない。流行っているからとか、あるいは単に感覚や主観的な好みではないか、ということになりがちなんですね。相手も、それほど色彩についてはっきりした方針を持っているわけではないんで、いつも色彩決定の段階でもめてしまう。それで、色彩が持つ心理的な作用という切り口から提案できると、説得力があるんじゃないかと思って。それともう一つは自分が苦手な色彩があって、これをなんとかしたかったんですよ」


 これがTさんが「色彩学校」に来た主な理由だった。ところが、最初は基本的な色彩論を吸収して仕事に取り込もうと熱心に受講していたTさんだったが、途中からは仕事のためというよりは自分の色彩感覚そのものについて関心が向かっていった。


 そのきっかけは、カリキュラムの中の一つ「カラーヒストリー」を受講したことだった。「カラーヒストリー」というのは、自分のこれまでの色彩の歴史を振り返って自分だけのチャートを作成するもので、「色彩学校」のオリジナルメソッドの一つだ。できるだけ幼児期まで記憶を(さかのぼ)り、心に残っている色彩を洗い出していく。とにかく記憶にある色をカラーチップなどでピックアップし専用のシートに貼っていく。そして、その色の横の欄にそれぞれの色にまつわる事柄や生活史を記入していくのである。この作業によって、その人の好みの色の変化と対比して精神的な変化や生活の変化の関わりが浮かび上がってくる。いわば、「色彩による自分史」である。


 この方法は色彩と心理の関係を自分の体験を通してはっきりつかめるので、受講生の必修ワークとなっている。より記憶を鮮明にするために、他のいくつかの色彩ワークと組み合わせてやることで効果が出るメソッドになっており、色彩レッスンの中ではかなり大きな比重を置いている。一九八九年、「色彩学校」を始めるに当たって実用化したので、私もかれこれ三千ケース以上を見てきたことになる。

茶色の記憶が語るもの


 さてTさんなのだが、この「カラーヒストリー」をやってからしばらくたった頃、私に語りかけてきた。

実は、私がデザインをしていて色決めの時悩むのは、クライアントが要求してきた色が苦手な部類の時なんです。どうも褐色系がダメなんですよ。同じダーク系でもグレーや濃い青なんかだとむしろ好きなんですけど。でもどうして茶系が苦手なのかあまり考えたことがなかったんです。ところが、自分のカラーヒストリーをやってみて、意外なことに気づいたんです。つまり、苦手なはずの茶色が時々、特に子ども時代に出てくるんですね。それは土や砂の色の記憶だったんです。私は土や砂にある種の拒絶反応と、同時に妙な憧れのようなものがあったんです。というのは、私は幼児の頃から(ぜん)(そく)体質で、調子が悪くなるとよく学校も休んでいたし、登校しても体育は欠席でした。


 ですから、母親もとても私の健康には過敏になっていました。とにかく家の中はいつも神経質なほど掃除をしていたし、私にもよく手を洗わせていたのを覚えています。だから、他の子が公園で泥遊びや砂遊びをしていても、私はあまりさせてもらえず遠くから見ていたものです。いつの間にか、泥や砂で汚れることは、体によくないんだというふうに子ども心に思っていたようです。でも、いつか元気になったら思い切り泥にまみれてみたいという気持ちがありましたね。


 カラーヒストリーの茶色系の部分を振り返ってみると、泥遊びをして叱られた時のことや他の子が砂場でお山を作って遊んでいて(うらや)ましかった時のことが出ているんですよ。土の色とかを思い起こさせる茶色という色に対して、私は気づかないうちに葛藤していたんじゃないかと思ってびっくりしましたよ。茶色が苦手だというのは、単に感覚の問題であったり好みの問題だと思っていたんだけど、その裏には自分の心理的なものが作用していたんでしょうかね」

嫌いな色に秘められた意味


 この話を聞いて私は大いに(うなず)いてしまった。何かよくわかるような気がしたのだ。というのも、こういう私自身やはり茶系の色が苦手だったからなのだ。絵でも洋服の色選びでも長い間茶系は選んだことがなかった。色彩の仕事をしているのに、「あんな色、うんこ色だ」などと冗談をいって避けていたところがある。しかしなぜ自分は茶色が苦手なのか、ある時じっくり考えてみたことがあった。


 私の中で茶色といって思い出すのは、子ども時代を過ごした家である。木造家屋で、その古い家は全体に茶褐色だった。多分、その家に住みはじめたのは私が六歳の頃、昭和二十六年前後だった。そこは長屋の一角で、二階建て。今でいえば六畳二間の2Kという間取りだ。それまでも狭い家に暮らしていたので、広く感じたものだ。戦後間もない当時、日本全体が貧乏だったことを考えると画家の一家にとっては充分すぎる住まいだった。


 しかし、その質素な建物は歩けば床がギシギシ鳴るし、土壁は()()し、サッシなどない頃の立て付けの悪い戸口や窓は隙間風が入り冬は寒さに悩まされた。

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