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ウェストファリア体制 天才グロティウスに学ぶ「人殺し」と平和の法
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政治・社会
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第五章 日本人の世界史的使命

『ウェストファリア体制 天才グロティウスに学ぶ「人殺し」と平和の法』
[著]倉山満 [発行]PHP研究所


読了目安時間:37分
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大日本帝国の取り返しがつかない愚かさ


 一九四五年は、人類が野蛮に回帰していく年です。多くの悲劇がありました。最大の悲劇は、大日本帝国が滅んだことです。


 確かに、昭和初期の日本は調子に乗っていました。ソ連の片手間の中国の片手間のイギリスの片手間に、アメリカに戦争を仕掛けました。これでは、滅びるように戦ったようなものです。


 最初、大日本帝国は隣国のソ連を警戒していました。共産主義という、幼稚極まりないけれども狂暴な思想を掲げる国が隣にいるのですから、警戒するのは当然です。ところが、同じく隣国の中華民国の挑発がやみません。挑発と言っても口で罵るレベルではなく、邦人に対するテロが日常的になります。そこで「対支一撃論」との、「ソ連の前に支那を叩いて、後顧の憂いをなくして置け」という、もっともらしい主張が通ります。


 そうして始めたのが、一九三七年からの支那事変です。中国大陸全土で戦闘を繰り広げ、日本は片っ端から中華民国の主要都市を攻略するのですが、中国は降伏しません。その理由を、イギリス(と、ついでにアメリカ)が中国を支援するからだと考えました。


 そして、日英関係がどんどん泥沼化し、ここにアメリカが乱入します。突如、「日本は中国から手を引け! さもないと、経済制裁で絞め殺すぞ!」と脅してきました。そして、一九四一年からは、米英を相手に大戦争を始めてしまいます。なぜ何の関係もないアメリカが日本に喧嘩を売ってきたかは歴史の謎ですが、「当時の大統領のフランクリン・ルーズベルトが日本を殺したかったから」としか言いようがありません。ルーズベルトはウィルソンの再来のような人でした、と言えば前章をお読みいただいた方にはご理解いただけると思います。狂人の思考回路を分析するのは時間の無駄なので、これくらいにしておきます。


国際法をわかっていた根本博中将


 こういう展開の中、日本はソ連とは中立条約を結びました。いつの間にか、ソ連以外の隣国すべてと交戦状態に突入していました。


 こんな大まかな話だけでも、当時の日本人の愚かさが伝わってきます。細かい話を言い出すと何冊も本が書けてしまうのでこれくらいにしますが、本書の主題と関連したソ連との関係で日本人の愚かさを示す話を述べておきます。


 一九四五年八月、敗色濃厚を通り越して、降伏直前の日本に対してソ連が攻めかかってきました。裏切りの騙し討ちです。軍人にとって最も恥は、奇襲を受けることです。そして、八月十五日に日本が降伏してからも、ソ連は戦闘をやめませんでした。


 結果、阿鼻叫喚の地獄絵図となりました。女は片っ端から強姦され、後で自殺と中絶が相次ぎます。婦女子を守り、少しでも逃げる時間を稼ごうと、男たちのアンパン突撃が繰り返されました。「アンパン」とあだ名される地雷を抱いて、ソ連の戦車に体当たりするのです。しかし、(とう)(ろう)(おの)です。武器を持った日本兵七万に対し、重武装したソ連兵百三十万。戦いになりません。次々と撃破され、生き残った人々はシベリアに拉致され、奴隷労働をさせられます。


 ただ、例外はあります。駐蒙軍司令官だった、()(もと)(ひろし)中将の場合です。


 ドイツの降伏でヨーロッパ戦線が終結してからは、ソ連がこちらに攻めてくるのが濃厚です。それにもかかわらず日本陸軍の上層部は、「ソ連が攻めてくるとしても秋だろう」などと、何の根拠もない希望的観測を繰り返すだけで十分な兵力を寄越しません。兵は、たかが二五〇〇人です。根本将軍は仕方なく最低限の物資の要求だけして、対ソ戦の準備を勝手に始めていました。


 案の定、ソ連の侵入が開始されました。上層部は大混乱です。それを無視して根本将軍は中国と勝手に交渉し、「我々が撤退した後、内蒙古はあなたのものです」などと秘密協定を結び、中立化させます。これで、当面の敵を一人減らしました。


 急いで、司令部のある(ちよう)()(こう)に兵力と居留民を集中させます。


 根本将軍は丸一陣地という、要塞と呼ぶのもおこがましいけど、無いよりはマシという程度の砦を構築し、山地に戦車をひそませて初動で打撃を与えるという作戦を立てます。




 ソ連軍は張家口を空爆してから降伏勧告のビラを撒くというなめたマネをしましたが、無視。町中に放送を流して、居留民に退避準備を命令。外交官は「素直に武器を捨てて降伏しましょう」などと言い出しましたが、無視。威力偵察に来たソ連軍には、中戦車と九〇式野砲をお見舞いして、お引取り願いました。ソ連には、こちらが手ごわいと思わせた上で、やる気のない停戦交渉で時間稼ぎをします。いよいよ脱出準備ができたところで、居留民たちに手榴弾を二発渡します。一発は敵に投げるため、もう一発は自決用です。老若男女差別なしなので、緊張感がこれでもかと走ります。


 直属の上司の(おか)(むら)(やす)()支那派遣軍総司令官から武装解除命令の電報(明らかに従わなくて良いとの含み)が届きますが、「無法者のソ連に降伏はしない!」と返電します。


 ここまでの態度に、ソ連は「国際法違反だ!」と自分のことを思いっきり棚に上げた批判をしてきましたが、無視。根本将軍は「負けたら俺一人が死刑になってやる」と、勝つ気満々の決心を軍民日本人全員に宣言したので、軍民全員が燃えます。


 八月二十日、ソ連軍が大戦車部隊で猛攻を加えてきました。これに対し、敵をできるだけ引きつけてこちらの射程から一斉射撃するという単純な罠にはめて、一網打尽。ソ連軍を、味方の死体も回収できない敗走に追い込みます。


 そして、その日の夜陰にまぎれて撤収。岡村大将の下に逃げ込み、民間人は全員無事でした。岡村兵団は無傷なので、ソ連も手を出せなかったのです。


 奇跡のような生還です。


国際法、三つの原則


 では、なぜ根本将軍は居留民全員を助けるなどという、奇跡ができたのでしょうか。一つには、神業のような戦闘指揮です。要するに、強かったからです。もう一つは賢かったからです。特に、国際法を熟知していました。


 この話に出てきた外交官は、「おとなしく武器を捨てて、ソ連に降伏しよう」と言い出しています。こういう人は各地にいたのですが、その通りにした人たちは一人残らずシベリアに送られて奴隷労働をさせられました。それに対して根本将軍は、知恵を働かし、武器を持って戦い抜きました。


 ちなみに「無視」を連呼しましたが、実際に根本将軍は、国際法の原則に則っていない発言をすべて無視しているのです。


 国際法には、いくつかの原則があります。一つは、軍事合理性に適わないことは要求しない。二つは、一方が破った場合、その条約は無効。もう一方は従う義務はありません。

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