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東儀秀樹の永遠のオモチャ箱
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ルポ・エッセイ
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1 バリにて──民族舞踊に魅せられて──

『東儀秀樹の永遠のオモチャ箱』
[著]東儀秀樹 [発行]PHP研究所


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某月某日


 何もしないでボーっとしようとバリ島に行った。海はかなりのリゾート化が進んでいるようで、個人的には山に()かれる。



 ウブドゥという村には物静かで神聖な感じがする。民族芸能にも少しは触れておこう、というぐらいの気持ちで観光客用のパフォーマンスを見る。すると、次の日も次の日も、いてもたってもいられずに毎晩、舞踏や音楽が待ち遠しくてたまらなくなる。ぞくぞくするほどの踊りや音が演者と一体となっているのだ。観光客相手といってもテクニックやセンスはよほど小さいころから本格的に仕込まれたものに違いない。たまたま僕らが見る部分が観光用なだけで、演奏者はみんなきっと普段から神を意識して、神に芸能を捧げる気を当たり前に持っているのだろう。すごさの向こうに純粋さ以外の何物でもないものを感じて、とても気持ちが良い。朝から晩まで見ていたいものだ。


某月某日


 ウブドゥでちょうど学問の神様をお祭りする日を迎えた。前日に知り合ったプトゥという名の現地の若者が、一緒に参拝をしようと言ってくれたので、彼の家で現地の正装に変身させてもらい、寺院に出かけた。


 寺院では老若男女や人達がただただ集まっておしゃべりをしているのだが、着こなしとはほど遠い正装の変な東洋人を、ほがらかな笑顔でみんな迎え入れてくれた。女性の僧侶らしき長老が現れるとみんな順々にお祈りを始める。立て膝をついて花びらを両手に挟み、目を閉じる。作法を教えてもらいながら見よう見まねでお祈りを捧げる。聖水をかけてもらって、さらに口にする。生水を口にするとなるとちょっぴり不安になる。


飲んでもお腹、こわさないかい?」

これは聖なる水だから大丈夫」



 そう言われれば納得するほかない。信仰心を厚くして飲む。



 特にアジアを旅すると民族楽器がとても気になる。やさしくなめらかな音のするバリの縦笛を買おうと店に入る。職業柄の悪いクセでついつい自分の雅楽器とのアンサンブルを考えてしまう。そうすると気になるのがピッチ。一本一本微妙に異なるからわからなくて二十本近く買ってしまった。「それも音へのこだわり」と言い聞かせながら、お金のムダ使いとも思うのだが妥協しない、という一点に一瞬自分を好きになる。



 もうひとつ、ティンレックという竹製の木琴の音もとても良い。ほっとする音である。素朴だが深みのある優しさを感じる。これも自分の創作に役立つ、と数ある店じゅうの楽器をたたいて一つを選ぶ。深みのある音質のものを職人の薦めもあって選んだのだが、若干音程に難がある。


ちょっとこの音程が気になるんだけど、これはどうにかならないの?」に対し、「オレは気にしないね」と。



 そうだ。気にしてはいけないのだ。こだわってはいけないのだ。後日、日本に持ち帰ったティンレックをたたいてみた。バリで耳にしたときよりさらに音程が悪くなっていたし、音の深みも欠けている気がする。もしかしたら湿気や温度など、気候の違いがそうさせるのだろう。そういえば雅楽の(りゆう)(てき)という横笛をヨーロッパに持っていったらヒビが入って壊れてしまった、という話がある。やはりその国の風土がその国の楽器をいちばん良い状態に保つように自然にできているのだなとつくづく思う。



 今、日本の我が家にあるバリの楽器たち。ただの飾り物だけにはしたくない。僕なりに頑張って音を鳴らしてあげるから少なくとも割れたりしないでくれ、とお祈りをしてしまう……。



 そういえば、あの聖水、……お腹こわさなかったな……。

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