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ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動
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歴史
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日本語版に寄せて

『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』
[著]ジョン・アール・ヘインズ [著] ハーヴェイ・クレア [監訳]中西輝政 [発行]PHP研究所


読了目安時間:7分
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 日本語版の刊行に際し、この場を借りて、本書の原著者として最新の情報を追加できる機会が得られたことを感謝致します。本書が最初に出版されてから約十年(二〇一〇年時点で)になりますが、この間、旧ソ連やヨーロッパ、そしてアメリカの文書館で調査を行った研究者たちによって、私たちの主張の主要な部分が裏付けられ、また彼らのおかげで、一九三〇年代から四〇年代におけるソ連の諜報活動についての私たち自身の知識も深まりました。

「ヴェノナ作戦」による暗号解読がもつ最も重要な意味は、アメリカ国内にいたソ連スパイ一〇〇人以上の身元を特定したことや、本書に登場するエリザベス・ベントリーやウィテカー・チェンバーズのようなソ連諜報活動からの離脱者が、その後、(おおやけ)にした証言や告発が正しかったことを裏付けたことです。これに加え、なぜ冷戦というものが起こったのか、その起源についての真実を明らかにしたことも大きかったといえるでしょう。「ヴェノナ作戦」によって第二次世界大戦中にアメリカと同盟を結んでいたソ連が、実は他方で外交、軍事、技術に関するアメリカの機密を未曾有のスケールで盗み出し、アメリカに対して恐るべき諜報攻勢を仕掛けていたということがわかったのですが、それは、ヨシフ・スターリンがアメリカとの同盟を一時的なものにすぎないと考えていたことを、はっきりと示しています。「ヴェノナ作戦」によってソ連の暗号を破り、ソ連によって盗まれた自国の機密の膨大さを知ってしまったアメリカとしては、ソ連を「アメリカの国益を脅かす意図をもった敵国」と見なさざるをえなかったのです。


 また、戦後における米ソ協調路線を主張したアメリカ共産党書記長アール・ブラウダーが、一九四五年に党を追放されました。この決定の背後にソ連の関与があったのではないか、と長年の間疑われてきましたが、実際にソ連の関与があったことを示す証拠がかつてのソ連の文書館で見つかりました。このことからも、第二次世界大戦が終結する以前にソ連が西側諸国との対決を準備していたことがはっきりと裏付けられるのです。冷戦の起源として、第二次世界大戦が終結に向かうにつれて、米ソの対立がポーランド、ドイツ、イランといったように世界各地で発生していく過程を外交史家たちがこれまで論じてきましたが、それ以上にむしろ、資本主義と共産主義の闘争は避けることができない、というソ連側が強く抱いていた考えに基づくイデオロギー的要因が、ソ連をしてこのような諜報活動に早くから向かわせ、米ソ対立の根本をつくり出していたのです。


 実際、ソ連の諜報機関によってアメリカでリクルートされたスパイの多くは、アメリカ共産党員でした。大恐慌が社会に与えた甚大な影響のために、若いアメリカ人たちは、「資本主義に未来はなく、ソビエトのシステムが最も有効な代替案である」と考えました。フランクリン・ルーズベルトが大統領に就任しニューディール政策に着手すると、連邦政府は巨大化し、これらの急進的な若者が大量に雇用されワシントンで働くようになりました。KGBにとって、これらの人々が協力者として絶好の供給源となったのです。それはとくに、日本やドイツに対する戦争が始まって、アメリカが「ファシズムとの戦い」に全力を傾けるようになってから本格化しました。


 日本の読者がこの本の中でとくに関心をもつのは、ソ連がアメリカの原爆開発計画「マンハッタン・プロジェクト」に多くのスパイを送り込んでいたため、アメリカの原爆開発の実態を非常によく知っていた、という部分だと思います。事実、一九四五年の七月にポツダムでトルーマン大統領はスターリンに会い、アメリカは非常に強力な新型兵器をすぐに日本に対して使用することができる、と話しましたが、そのときスターリンには驚いた様子は全くありませんでした。おそらくスターリンは原爆について、トルーマンよりも早く、そしてより多くのことを知っていたのでしょう。


 アメリカの原爆をコピーすることで、ソ連はすべてを自前で行うよりも三年から五年も早く原爆を製造し実験まですることができました。これが、アメリカの原爆開発についての秘密情報を手に入れることによってソ連が得た科学面での成果とすれば、その外交面と軍事面での成果は、原爆を落とされた日本が降伏する前に日本に対して素早く宣戦布告をする必要がある、とスターリンが認識し用意をするようになった、ということでしょう。


 日本のことを直接扱った「ヴェノナ」通信文は比較的少ないのですが、日本に対する工作活動を行った二、三のソ連スパイについて知ることができます。まず、フィリップ・キーニーとメアリー・ジェーン・キーニーの夫妻がソ連のエージェントだったことは重要です。長年にわたって過激派であった夫妻は、一九四四年にKGBにリクルートされるまで、ソ連軍情報部GRUのために働いていました。夫妻がKGBにリクルートされたのは、夫のフィリップがGHQのメンバーとして日本の図書館システムを変革するという仕事のために日本に送られる直前のことでした。フィリップはソ連に対して日本の情報を送っていたのかもしれませんが、まだ実態はよくわかりません。


 より重大な活動を行っていたのがウィリアム・ワイズバンドです。彼についてはこの本の中である程度詳しく取り上げました。もともとKGBのクーリエ(文書運搬係)だったワイズバンドはロシア生まれで、語学の才能に恵まれ、アメリカに来る前はエジプトに住み、第二次世界大戦中はイタリアで米軍の通信保全部に勤務しました。しかし戦後、ワイズバンドは、ソ連通信の解読に携わったアメリカの暗号解読部局の「アーリントン・ホール」で文民職員となり、「ヴェノナ作戦」に従事しました。しかし、まさにその「ヴェノナ」の解読文書によって、一九三〇年代にKGBのクーリエであったワイズバンドに情報を渡していた人物が浮かび上がり、そこからワイズバンドの正体が暴露されました。米政府は、ワイズバンドを起訴するだけの十分な証拠をもっていませんでしたが、ワイズバンドは大陪審で答弁を拒否したため法廷侮辱罪で一年間投獄されました。

「ヴェノナ」が明らかにしたワイズバンドのアメリカへの裏切りは大変深刻なものですが、これは彼がアメリカの安全保障に与えた最も大きな打撃ではありませんでした。KGBのアーカイブが近年明らかにしているところによれば、エリザベス・ベントリーのソ連諜報網からの離脱によって三年間凍結されていた彼の活動を、KGBが一九四八年に再開させたとき、ワイズバンドはソ連側の管理者に対して、アメリカの暗号解読者がソ連軍の軍事通信も読んでいることを知らせたのです。ソ連はすぐに新たなより強固な暗号に切り替えたため、以後アメリカの対ソ連情報活動は大きく後退しました。


 多くのアメリカの情報関係者たちは、過去数十年の中でアメリカの国益に対する最も大きな痛手は、ワイズバンドの裏切りによって、北朝鮮の韓国侵攻を支援するためにスターリンが送った莫大な装備や兵器の動きを、アメリカの情報機関が追跡できなかったことだ、と認識しています。ワイズバンドがソ連に提供した情報によって、朝鮮戦争はアメリカにとって突如として勃発することになり、そして多くの犠牲者を生んだこの戦争とその影響が、今日のアジア情勢をいまだに混乱させ続けているのです。


ジョン・アール・ヘインズ

ハーヴェイ・クレア


我が妻マーシャ・スタインバーグへ

──ハーヴェイ・クレア



我が妻ジャネットへ

──ジョン・アール・ヘインズ

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