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宝塚歌劇 柚希礼音論(東京堂出版) レオンと9人のトップスターたち
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ルポ・エッセイ
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はじめに

『宝塚歌劇 柚希礼音論(東京堂出版) レオンと9人のトップスターたち』
[著]松島奈巳 [発行]PHP研究所


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 競争率20倍超。定員40人の狭き門に、毎年ざっと千人が殺到する。


 「なんだ、20人にひとりは合格するんだ」


 こう、早合点してはいけない。


 宝塚音楽学校の入学試験である。


 受験を決意した時点で、家族には時間的・精神的・金銭的負担がのしかかる。まずもってバレエを永続的に稽古していなければ、実技試験には太刀打ちできない。バレエほどではないが、声楽もしかり。ちなみに多数のタカラジェンヌを輩出しているさるバレエ・スクールでは、宝塚受験コースの個別面接で、


 「で、おたくは、いくらレッスン料をご用意できますか?」


 こう尋ねられるという。


 最終試験の合格発表は3月末だから、不合格だった場合にそなえて高校・大学も受験しておかなければならない。


 なにより、生まれ持った容姿が合否を決定的に左右する。鏡を前にして嘆息するような中高生女子には、合格する見込みがない。


 受験資格年齢は、中学3年生から高校3年生まで。言うまでもなく女性限定だ。ざっとした計算ではあるが、ひと学年50万人×4学年として全国で200万人いるわけだが、実際には銀の(さじ)をくわえて生まれてきた()(もく)(しゅう)(れい)(いっ)()(あん)(ねい)な令嬢のみが受験資格を持つ。


 受験当日の宝塚市内には、ピリピリとした緊張感がただよう。2つしかないホテルのロビーには、全国津々浦々から集まった十代美形が保護者とともにカートを引きながらチェックインを待つ。笑顔などあろうはずがない。緊張感からつい眉間にシワが寄り、表情はこわばっている。宝塚観劇に訪れた宿泊客は事情を知っているだけに、「みんな、がんばってね」と心の中でつぶやく。



 合否をおおきく左右するのは、歌劇団の演出家をはじめとする幹部による面接試験だ。いかにレッスンを重ねてきても素の部分がさらけだされ、これまでに幾多の原石を見てきた試験官は、5年後10年後の舞台姿を瞬時にかぎわける。


 「特技、なんかある?」


 さりげなく繰り出される質問にも、用意周到なタカラジェンヌの卵は準備を怠ることない。得意の声楽を聴かせたり、早口コトバを披露して滑舌の良さをアピールする。


 用意周到でない受験生もいる。


 (んーん、どうしようか)


 当時高校2年生だったフミヨちゃんは、「モノマネが得意です」。つい口をすべらせた。


 「じゃあ、やってみて。誰の?」


 「あの~、学校の先生の」


 フミヨちゃんは、東京の私立目黒星美学園高校での恩師のモノマネを披露したが、


 「似てるかどうか、わからないよ。我々が知っている人で誰かいない?」


 フミヨちゃんは観念した。当時絶大な人気をほこっていたアイドル田原俊彦の大ファンで、自宅でよくモノマネをしていたのだ。


 「こんわんら~、トシちゃん れ~す」


 舞台度胸が評価され、フミヨちゃんは見事、合格をはたす。演技派として評価をえて、後に雪組の男役トップスターに就任。いまも女優として活躍する()()()ゆう(現・えまおゆう)である。



 大阪の私立四天王寺高校2年生だったチエちゃんにも、「なんか特技ある?」。


 意を決して、無言のままレオタードにつつまれた身体をほぐすと、面接会場の隅に歩を進めた。やおら身体をそらせ、海老ぞりに。両掌をペタっと床につけて、会場を隅から隅へとブリッジのまま、高速で海老ぞり歩行した。




 このチエちゃんこそ「十年にひとりの逸材」と評され、2015年初夏に宝塚歌劇団を退団し、秋には新作ミュージカルで退団後第1弾を飾った(ゆず)()()(おん)である。



 「柚希礼音って、そんなにスゴいの?」


 こう尋ねられることが増えた。退団時のヤフーニュースのトップ項目には、


 「サヨナラ公演に、3万人のファンが見送り」


 「加熱する所属事務所の争奪戦」


 こんな見出しがおどった。


 退団後の初仕事は、「念願のブロードウェイのステージ」。退団直前の人気沸騰をピークにスっと消えていくタカラジェンヌが多い中にあって、宝塚の男役からミュージカル・スターに転身した柚希礼音の話題性は群を抜いている。ただバラエティ番組や新聞雑誌の中には、かつての報道や主催者の公式発表を、しかるべき検証なしにフレームアップして再生産するケースが見受けられる。


 柚希礼音は、稀有な才能の持ち主である。


 ただし才能だけでトップスターに昇りつめたわけではない。今後の芸能活動にはいくつか乗りこえなければならない要素がある。トップスターとして、ある面では王道を歩み、ある面ではマイノリティの面もあった。振りかえればラッキーと思えるめぐりあわせもあった。


 筆者は所属事務所とはまったく利害関係もないし、ことさら柚希礼音の才能を持ち上げるつもりもない。逆に人気ぶりをおとしめるつもりもない。初舞台から定点観測している間に浮かんだ自分なりの評価や記憶、そして当時の空気を記録しておきたいという気持ちから本書を記した。



 本書では、柚希礼音の宝塚人生を年代順に追うとともに、各章を過去・現在のトップスターと比較することにした。何が秀でていて、何が異なっていたのか。別のスターという補助線を引くことによって、柚希礼音という多面体のファルムをより鮮明にしようという次第である。


 最終10章は、退団後の姿を占うため、ビフォーアフターでの比較となった。過去の自分自身を含めて、「9人のトップスターたち」となる。


 柚希礼音を理解するうえで絶対に欠かせない要素であり、宝塚歌劇団での16年間の変遷を知るうえで重要なことは何か?


 絶好の比較対象になるのが、1章でとりあげる「宝塚の風雲児」である。

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