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アメリカ 情報・文化支配の終焉
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政治・社会
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第2章 国際政治を操る陰の組織 NED、パブリック・ディプロマシー、シャープ・パワー論争

『アメリカ 情報・文化支配の終焉』
[著]石澤靖治 [発行]PHP研究所


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 ロシアのプーチンは旧ソ連の情報機関であるKGB出身のはずだが、1980年代半ばに駐在していた当時東ドイツのドレスデンでは、数年間「ドイツ・ソ連友好の家」の主任という職にあった。一見、KGBとは無関係に見えるこの組織と任務だが、こうした平和友好的な表部隊の組織に所属しながら、プーチンはKGBの一員として情報活動を行っていたのである。


 そんなプーチンだからこそ、2004年のウクライナの大統領選の際におけるアメリカのある組織の動きが、かつての自らの役割を重ね合わせてはっきりと見えていたのかもしれない。その組織とは、「全米民主主義基金(National Endowment for Democracy:NED)」。この名前は日本ではあまり知られていないが、とくにアメリカとロシアとの国際的な情報・世論・メディアの抗争のなかで、アメリカではこのNEDこそがクローズアップされる存在なのである。まさにロシアでRTがそうであったように。


 では、プーチンを激怒させた2004年のウクライナの大統領選でNEDは何をしたのか。そしてNEDとはどんな組織なのか。


 NEDとは、1983年に民主党でフロリダ州選出の下院議員ダンテ・ファセルが設立を提唱したものだが、最終的にゴーサインを出した人物がレーガン大統領であるために、一般には「レーガンによって設立された組織」として知られている。組織の形態としては非政府組織(NGO)であり、正式には翌1984年にスタートした。ソ連が同じ時期に敵対者のイメージを失墜させる戦略を展開していることに対して、レーガン政権で分析・検討がなされていたことは前章の最後で示したが、このNEDもまた、米ソ冷戦の最終局面でアメリカに登場した組織であった。そしてこのNGOはアメリカの近年の外交政策のなかで、戦略的な存在として次第に一部の専門家から注目を集め、最終的にはプーチンのロシアから追放されるほどの存在になっていく。


 この組織がNGOであると述べたように、NEDは議会から資金を得てはいるものの、政府機関ではない。また議会でつねに対立している共和党と民主党だが、NEDは超党派の位置付けとして存在している。そのためワシントン政治の党派的な動きにあまり左右されることなく、自由に活動できるという点が特徴である。その目的は、名前が示すようにアメリカが唱道する「自由」「民主主義」そして「人権」を、それらが実現していない世界の地域に広めることであり、世界各地で活動を行う組織に援助を行っている。近年では、タリバン崩壊後のアフガニスタンの大統領選挙、フセイン政権崩壊後のイラク暫定国民議会選挙など、現地の民主化実現を支援したことなどが広く知られる活動である。


 NEDの支援活動は大きく分けて二つある。一つは民主化を求めて活動している団体に活動のノウハウを教え、また民主化を阻むような政府の不正を告発するメディアや組織に資金を提供して、現地の民主化を支援するというものである。そんなNEDには世界中から年間2000にも上る数の団体から応募がある。そこから1700余りを選び、それぞれに5万ドルから7万ドルほどを援助する。支援金額は日本円に換算すると1000万円に届かない額だが、民主化が進んでいない国の活動資金としては、それなりに使い出のある金額である。


 そして、このNGOで働くスタッフは「民主主義を求める気持ちは人類共通の願望」であるという考えのもとに、どうやって政策をまとめるか、またメッセージを効果的に伝えるためにはどのような世論調査を行って、それをどのように利用すればよいかなどの手法を指導する活動も併せて行っている。


 その資金は議会から拠出される。額はその時々の情勢によって異なるが、次第に増加しており、2015年度は1億3000万ドル強。2016年度からは1億7000万ドルと、円換算で200億円弱の規模で推移している。資金のうち全体の45%は、NED自身が直接渡すものとして分配。残りの55%を共和党系の国際共和協会(IRI)、民主党系の全米民主国際研究所(NDI)、財界系の国際民間企業センター(CIPE)、労働界の米国国際労働連帯センター(ACILS)という4つの組織を通じて分配するという具合である。


 このような面倒な形を取るのは、共和、民主の両政党、財界、労働界などにウィングを広げることで、米国内でのそれぞれの利害をうまくバランスさせることにある。こうした仕掛けでNEDの活動は円滑に回っている。


 組織の規模としては、現在120人程度の国際NGO活動のスペシャリストを中心に、管理・間接部門を加えて200人を超えるほどの所帯である。そのなかで、議会との交渉の前面に立つなど、設立時から長くトップの座に君臨してきたカール・ガーシュマンがNEDの対外的な顔として知られている。ガーシュマンはそれ以前に国連人権委員会に派遣されていた人物である。


 こうしたNEDの活動を見ると、まさに「アメリカらしい」戦略であると言えるかもしれない。アメリカは建国以前から、マサチューセッツ湾植民地知事ジョン・ウィンスロップが「われわれは世界の人々の模範となる『丘の上の都市』を築かなければならない」と語り、自由と民主主義を世界に広げるべき特別の国として「例外主義(American exceptionalism)」を自国のアイデンティティとしてきた。第40代大統領のレーガンもまたアメリカを「丘の上の輝く都市」と自称したが、このレーガンがNED設立に関与したことはすでに述べた。

「強いアメリカ」を掲げてソ連と対峙したレーガンのアメリカは、レーガン退任直後の1989年12月、同政権で8年間副大統領を務めたのちに大統領となったジョージ・H・W・ブッシュと、ソ連の最高指導者ミカエル・ゴルバチョフによる地中海のマルタ島での会談で、東西冷戦終結の合意に達した。それは西側の盟主として自由と民主主義を掲げたアメリカが、冷戦の勝利者として、その価値においてあらためて世界に君臨する「例外的な」国家となったことを意味する。したがって「自由」と「民主主義」の盟主としてそれを掲げ、世界にその理念を広めていくことは、最も「アメリカらしい」ことであったのである。そして、冷戦時代から継続してその実現を進めていく先兵がNEDであった。


 したがって、NEDの設立には民主党議員のファセルが関わったが、その支持者は民主党などのリベラル派だけではない。NEDを支持する団体の一つは、保守系のシンクタンクであるヘリテージ財団である。またレーガンの主張を鼓舞したジョージ・ウィルや、2018年に亡くなったチャールズ・クラウトハマーという2人の著名な保守派のコラムニストは、ともにNEDに深い理解を示していた。NEDが「アメリカ的価値」を体現していることがこれでわかるだろう。


 NEDにとっての活動の場は、その目的から、世界のなかで民主化が十分に実践されず、専制的な政治のために人々の生活から自由が奪われている国や地域ということになる。したがって西欧や日本のような先進国は、特別の事例があった場合は別として、その対象にはならない。対象となるのは途上国や、取り巻く環境が変わって民主化に向かっている国、あるいはそれまでの自由や民主化が抑制されようとしている国などである。


 そこで、NEDが1984年にスタートしてから世界で起きた大きな出来事を振り返ると、その活動の場所がわかる。1989年の冷戦の終結と1991年のソ連の崩壊、EUの成立とNATO軍の拡大、アジア諸国の成長、中国の台頭がこの時期の大きな出来事である。


 そのなかでソ連・ロシアとの関連では、旧ソ連の国々が新しい国として再スタートを切り、民主化に向けて90年代から21世紀にかけて様々な動きを示してきた。また、ソ連からの事実上の支配下にあった東欧諸国で民主化が進んだ。その一方で、ユーゴスラビアは分裂して戦闘や虐殺が繰り広げられた。そんな動きのなかで、これらの国での「自由」や「民主化」を促進するべく、NEDの活動が展開されたのである。


 1991年に独立したグルジアでは、ゴルバチョフ政権時代に外相を務めたのち、同国の2代目の大統領に転じたエドゥアルド・シェワルナゼがその後、退陣に追い込まれるという事態が起きた。ソ連外相時代から手堅い仕事ぶりで知られたシェワルナゼは、グルジア大統領としても同様の手法で統治を行ってきた。しかしながらこの国では、シェワルナゼ政権下で官僚主義や汚職が広がる、という状況が生まれていた。

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