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(2021/11/26 追記)

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人生で一番大切なのに誰も教えてくれない 幸せになる技術(きずな出版)
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生き方・教養
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幸せな人は、「成功」を目指さない

『人生で一番大切なのに誰も教えてくれない 幸せになる技術(きずな出版)』
[著]上阪徹 [発行]PHP研究所


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 フリーランスになって数年経った頃、大きな気づきになった取材がある。


 あるとき2日連続で取材が入っていた。1件目は、岩手での取材だった。


 当時、私は独立を支援する情報誌の仕事をたくさんさせてもらっていた。有名起業家から街の小さな飲食店まで、独立した人たちをたくさん取材していたのだ。そのひとつがこの岩手での取材だった。


 30代の男性は、会社を辞めてアクセサリーの彫金をする仕事で独立していた。仕事場は、かなり古い町工場の奥にある小さな一室。お金がないのでオフィスを借りられず、知り合いの町工場の人に頼み込んだという。


 それにしても、ボロボロの仕事場だった。天井からは裸電球が垂れ下がり、壁紙はあちこちはがれ、傷だらけの木のテーブルの上には彫金のためのさまざまな道具が並べられていた。それでも、本人はまったく気にしていない様子だった。


 この取材に限らず、会社を辞めて独立をした人たちは誰もがなんとも晴れやかな顔をしていた。今でこそ独立や転職は珍しくないが、20年前、それこそ名の通った会社を辞めるのはなかなか勇気のいることだった。それを果たした人たちならではの覚悟が感じられた。


 社長(というか個人事業主だったが)は、とにかくよくしゃべった。「自分がいかに彫金が好きなのか」「納品して喜んでもらえることがいかにうれしいか」「毎日がいかに充実しているか」、目をキラキラさせながら語ってくれた。自分の仕事を誇りに思い、楽しく生きている人の姿がそこにあった。


 だが、事業として大きく利益を出していくことは簡単ではないようだった。収入は会社員時代(たしか銀行だった)のほうがずっと良かったという。社会的な地位があるわけでもない。誰もが憧れるような存在か、といえば違うだろう。オフィスもボロボロ。成功者、という言葉はまったく似つかわしくない。


 ただ、彼は「岩手で食べていければ十分」と語っていた。そして何より、幸せそうだった。取材後、「おいしいところがあるんです」と、わざわざ車でジャージャー麺の店に連れていってくれたことを覚えている。とてもおいしかった。


死んだ魚の目をしていたエリート部長



 新幹線で東京に戻った翌日の朝、私はもう一件の取材で丸の内に向かった。誰でも知っている大きな会社の部長へのインタビューが入っていたのである。私はここで大きなショックを受ける。


 まず挨拶からして、なんとも(いん)(ぎん)()(れい)だった。名刺を渡すと、()(べつ)的な表情が浮かんでいた。ときどき、こういう人がいる。肩書きですべてを判断するのだと思う。エリート会社員にしてみれば、「フリーのライターなど自分たちとは関わりのない職業」ということなのだろう。メディアの担当者と行くときには、「どうせ外部の業者だ」と挨拶もしてもらえないことがある。


 それよりも、このときショックだったのは、部長があまりにつまらなそうだったことだ。質問をしても「(ぬか)に釘」とも言うべきか、まるで手応えがない。しかも、戻ってくる話は当たり前の内容ばかりでちっとも面白くない。言葉も進まない。


 何より、目が(よど)んでいた。言い方は悪いかもしれないが、死んだ魚のような目をしていた。自分の仕事をまったく楽しんでいないのは明らかだった。まったく幸せそうじゃなかったのである。


 社会的に見れば、この人はスーパーエリートだろう。「ああ、あの会社の部長さんですか!」と周囲は反応するはずだ。誰に聞いても社会的には「成功者」の部類に入るのではないか。一流の大学も出ているだろう。


 前日の岩手の取材と、戻ってからの大企業の取材。このはっきりとしたコントラストは、私を混乱させた。


 世の中では誰もが「成功」を望み、いろいろ頑張っているのではないか。そのために多くの子どもたちが勉強だって頑張っているのではないか。そこにゴールがあると思って努力をしているのではないか。


 しかし、どう考えても、岩手の社長のほうが幸せそうだった。世間的に言われる「成功者」ではないのに、圧倒的に幸せそうだったのである。


 私の中に浮かんだのは、「もしかして社会的な成功と幸福には相関関係はないのではないか」という素朴な仮説だった。


 ここから、私の長い検証の旅が始まる。社会的な成功を目指していても、幸せになれるとは限らないのではないか、という疑問への検証だ。


 多くの人が、社会的な成功を目指して頑張っている。なのに、それは幸せを保証しない。幸せが手に入らない成功とは、いったい何なのか。もしかすると目指すべきは、成功ではなく幸せではないか。しかし、そんなことは誰も言ってくれない……。


 やはり誰も教えていないのだ、ということを確信する出来事があった。


 2010年に刊行した著書『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)を読んでくださっていた高校の先生から連絡をいただき、高校で特別授業をする機会があったのだ。


 工業高校だったこともあり、私は自分の思いを生徒たちにぶつけてみた。「勉強ができて、エリートになるだけが人生じゃないぞ」ということも伝えたかった。


 難しい年頃だけに、その場では手応えはよくわからなかったが、後日、先生からお礼の手紙とともに私の授業への高校生たちの感想文が送られてきた。そこに、男子生徒が手書きの不器用な文字で、こう書いてくれていたのである。

「人生で大切なのは成功することよりも幸せになること。すごい衝撃だったです」


 今でも、私の宝物のひとつになっている。


幸せになる技術

社会的な成功ではなく、自分の幸せを追求する

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