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アメリカ民主党の崩壊2001−2020
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人文・科学
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はじめに

『アメリカ民主党の崩壊2001−2020』
[著]渡辺惣樹 [発行]PHP研究所


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 二〇一九年五月三十一日、ドナルド・トランプ大統領が、二〇二〇年の大統領選挙で再選をめざすことを明らかにした。メインストリームメディアに信を置かない彼らしく、ツイッターを通じた発表だった。


「私と妻(ファーストレディ)メラニア、ペンス副大統領とセカンドレディであるカレンは、六月十八日に正式に出馬表明します。場所はオーランド(フロリダ州)のアムウェイ・センターです。この歴史的イベントにぜひ参加してほしい。入場券は二万枚用意されています」



 トランプ大統領の人気は相変わらず高い。六月十八日、会場であるアムウェイ・センターは、写真で見るかぎり空席は見えない。同会場の収容能力(およそ二万二〇〇〇席)いっぱいの入場者があったと考えられる。




 一般的な傾向として、第一期目の大統領は選挙時の公約と実績のあいだの(かい)()が目立ち、人気が落ちるが、トランプ大統領にはそうした心配はない。彼は選挙公約を一つも破っていない。実行できていない公約は二〇一八年の中間選挙で下院を制した野党民主党の妨害によるもので、大統領に責任はない。有権者はそれをよくわかっている(公約については後述)。中間選挙で民主党が下院を制したため、日本では民主党の力は相変わらず強いと思われているがまったく違う。それについても本書で明らかにする。


 アメリカでは選挙の三要素としてEMMが不可欠だとされる。Eは選挙民の熱狂(Enthusiasm)、一つ目のMは資金(Money)、次のMは選挙民への的確なメッセージ(Message)である。上述のように、選挙民の熱狂は先の選挙戦(二〇一六年)以上に熱くなっている。資金についても、前回はトランプに意地悪をして党の資金を出し渋った共和党主流派も、トランプ支持に固まった。メッセージについても、アメリカ経済の復活、強気外交の成果をアピールする「素晴らしき国であり続けよう(Keep America Great!)」と決まった。インパクトのあるコピーである。


 トランプ大統領の再選は間違いない。共和党の重鎮ニュート・ギングリッチ元下院議長はフォックステレビのインタビュー(六月十八日)で、「一九七二年の大統領選の如き結果もある」と発言している。同年選挙では共和党候補リチャード・ニクソンが民主党候補ジョージ・マクガヴァンに圧勝した。民主党が制したのはマサチューセッツとワシントンD.C.の二州のみで、獲得した選挙人はわずか一七。ニクソンの五二〇に遠く及ばなかった。共和党幹部はトランプ人気に自信をもっている。




 二〇二〇年の大統領選挙の筆者の関心は、誰が勝利するかではなく、民主党がどんな負け方をするのかにある。場合によってはアメリカ型二大政党制の崩壊もあると考えている。六月十八日のトランプ出馬表明から(しばら)くたった六月二十六日、ほぼ出そろった民主党候補一〇人による討論会があった(詳細は後述)。彼らは、誰がより過激な左翼思想の持ち主であるかを競い合った。その後の討論会もその傾向は変わっていない。

「リベラル政党」という形容詞はアメリカ民主党にはもはや相応(ふさわ)しくない。フェミニスト、グローバリスト、社会主義者、弱者利権政治家らに乗っ取られた極左政党となった。党幹部も過激な主張を繰り返す若手議員の発言を抑制できない。かつては民主・共和のどちらが政権与党となっても、野党になった側は、何らかの妥協を「提供」して政治を進めてきた。これまでの二大政党制のプラスの面が消えてしまった。対立を(あお)り、いっさいの妥協を拒否する民主党は、かつての日本社会党、あるいは最近の(日本の)民主党が辿った道を歩んでいるように思える。


 筆者は、民主党の左傾化を十分に認識してはいたが、上述の討論会ではその認識をはるかに超えた「事件」が起きた。コーリー・ブッカー(上院議員、ニュージャージー州)、ベト・オルーク(前下院議員、テキサス州)、フリアン・カストロ(元連邦住宅都市開発庁長官)が突然にスペイン語で議論を始めたのである。ほかの七人の候補者は苦虫を嚙みつぶしたような顔で押し黙った。彼らはスペイン語を操れなかった(と思われる)。会場はフロリダ州マイアミであったから、スペイン系移民票を意識したものだった。


 スペイン語を理解できる人口は四〇〇〇万人である。アメリカ人口は三億三〇〇〇万人であるから、三人の候補者は二億九〇〇〇万人にとっては理解不能な言語を使って国民に語ったのである。アメリカは、かつてはWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)が支配する国であった。しかし、弱者であった層が、「政治的に正しい発言(ポリコレ)」を武器に攻勢をかけた。いまでは、職場や学校で、白人であることが不利な事例が頻発する。弱者に属することが出世に有利になる「弱者利権」が現れた。その典型例が、チェロキー族インディアンの(まつ)(えい)だと虚偽の出生履歴を駆使して出世したエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)である。彼女も大統領の座を狙う一人である(ウォーレンの出生詐欺事件については後述する)


 筆者は、評論家宮崎正弘氏との対談(『激動の日本近現代史1852-1941』ビジネス社)で「弱者の(ずる)さ」について論じたことがある。弱者は、けっして他者に寛容ではない。強者の側に立った途端に、彼らが正しいと考える思想を他者に強要する。妥協を探るリアリストの視点を欠く原理主義者となる。アメリカ社会では、すでに弱者が権力者になると起こるおぞましい現象が起きている。


 アメリカのWASP層を中心とする白人ミドルクラスは、オバマ政権時代に弱者となる恐怖を味わった。先の選挙で彼らがヒラリー・クリントンを拒否できたことは奇跡であった。CNNに代表される主要メディアは、番組の九〇%以上を反トランプの論調で(おお)った。リードしたのは、リベラル系のキャスターだった。


 保守系白人の中間層(一般的な愛国者層、伝統に価値を見出す層)が、マイノリティを(いささ)かでも刺激すれば、「白人至上主義者」「人種差別主義者」「外国人嫌い」「女性差別主義者」、さらには「豚(fat pigs)」「うすのろ(slob)」「馬鹿野郎(jackass)」などと罵倒される。二〇一六年の選挙は、彼らの「反逆」だった。こうした言葉はトランプ候補にも浴びせられた。それでも些かも(ひる)まないトランプ候補に、保守層はようやく勇気を取り戻した。


 筆者は、先の選挙戦ではトランプ候補の演説を聴き、聴衆の反応を観察し、それを報じるメインストリームメディアの記事を確認した。ソーシャルネットワーク上の情報も追った。実際にいくつかの州をまわり、現場の情報を収集した。ヒラリーの動向からも目を離さなかった。その結果、トランプ大統領誕生の強い可能性を見て取り、月刊誌「Voice」(平成二十八年十一月号、PHP研究所)で「トランプ大統領のアメリカ」と題した論考を発表した。


 当時、トランプ大統領誕生の可能性を口にすれば、笑われる空気があった。「Voice」編集長の永田貴之氏は拙稿を発表することに迷いもあったと思うが、掲載を決断してくれた。ここ数年でアメリカの政治風景は一変した。「トランプ大統領は再選されるだろう」と書いても誰も驚かない。


 本書は、アメリカ民主党が激しく左傾化し、分解(自己溶解)の危機にあることを論述するものである。言い換えれば、二〇二〇年のアメリカ大統領選挙の観戦マニュアルであるが、その後に訪れるであろうアメリカの政治風土の変質を予言する書でもある。日本のリベラルメディアのアメリカ政治に関する報道は信用できない。保守系論客の分析も首を(かし)げることが多い。アメリカの政治状況は、昔ながらの日本語に翻訳された二次加工情報だけで理解することはできない。日々激変する生の政治風景を見ながら、同時に、「コンドラチェフの波」(大きなうねり)も押さえることが必要になっている。

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