読者のみなさま、中高年のアイドル、綾小路きみまろでございます。前作『有効期限の過ぎた亭主・賞味期限の切れた女房』は、おかげさまで二十七方部を超えるベストセラーとなりました。CDは初出荷からちょうど一年でついに百万枚を超え、六月に発売したビデオとDVDもすでに八万本を突破しております。
いったい、どうしたことでしょう。SMAP、宇多田ヒカル、浜崎あゆみなどのトップアーチストと肩を並べて、オリコンヒットチャートの上位にランクされ、いちばん驚いているのは、ほかならぬ私自身であります。「こんな人生に誰がした?」というわけです。しかし、私にとって望外の喜びは、CDやライブを聴いてくださった方の反応でした。
「亭主に対していいたかったことをいってくれたので、すっきりした」
「まるでうちの女房の話をしているようで、すべて思い当たるので大笑いした」
「お風呂に入るとき、いつも聴いています」
「子守唄がわりに聴いています。熟睡できるようになりました」
「家族揃ってこんなに笑ったことははじめてでした」
「冷え切った夫婦の仲がよくなりました」
「生きる自信を失っていたけど、もう一度、がんばろうと思いました」
「あなたはあたしに勇気を与えてくれました」
「私はガン患者ですが、笑いながら一時痛みを忘れました」
「入院してから一度も笑わなかった母が笑いました」
などなど、感謝のメッセージがいっぱい届いているのです。「ああ、よかったなあ、こんな私でも人さまのお役に立つことができて。なかなか世に出ることができなくて悔しい思いもしたけれども、潜伏期間三十年というのはけっしてムダじゃなかったんだなあ」というのが、いまの私の偽らざる心境なのでございます。
さて、再びきみまろの独演会へようこそ。謹んで、お慶び申し上げます。
今度の本には、漫談は一章分しか入ってございません。漫談のように聞こえるかもしれませんが、中身は真面目な話です。
私は小さいころから、ちょっと変わった子どもでした。どこが変わっていたかというと、人間って何だろうとか、人生って何だろうということを、いつも頭の片隅で考えながら生きてきたのです。口では人を笑わせることをいっているのですが、頭のなかは冷静になっている自分を発見したのもかなり若いときでした。
私は鹿児島の田舎の生まれですから、周りは自然だらけです。自然のなかで育ったというか、自然が私にいろいろ教えてくれたといってもよいでしょう。
たとえば、一日中、野原に寝っ転がって、雲を見ていたときもありました。あの雲どこへ行くんだろう、と不思議でしかたがなかったのです。あるいは、タンポポの白い冠毛が風に揺られてあたり一面に飛んでいる風景に出くわすと、ジッと何時間もそれを見ているのです。あの白い冠毛、風に吹かれてどこへ行くんだろう、土の上に落ちて、またタンポポになるのだろうか、なんてことを考えだすと止まらなくなってしまうんです。そんな青春を過ごすなかで、だんだん人間って何だろうと考えはじめたわけです。
大人になってからも、常に「俺って何だろう」とか「何のために生きているんだろう」といった、禅問答のようなことを繰り返してきました。それはキャバレーの司会をやっているときも、毎日のように全国を講演で飛び回っているいまも、変わりません。
そこで、そんな私が日ごろどんなことを考えているのかについて語ったのが本書であります。読者のみなさまには何の役にも立たないかもしれません。少しは役に立つかもしれません。正直なところ、私にはまったくわからないのです。
でも、「潜伏期間三十年」のあいだに学んだ「人間の価値」「人情の機微」「人生の無常」を活字にするのも少しは意義のあることかと思い、二冊目の本を出版する気になりました。
みなさま、きみまろワールドへようこそ。ぜひ、最後までおつきあいいただければ、幸いでございます。
でも、最初から人生論では肩が凝ってしまいます。まずは、マスコミを騒がせたカツラ疑惑の真相からお話ししましょう。