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歴史を変えた10の薬
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歴史
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Chapter10 究極の血液、モノクローナル抗体

『歴史を変えた10の薬』
[著]トーマス・ヘイガー [訳]久保美代子 [発行]すばる舎


読了目安時間:29分
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免疫系に作用する真の魔法の弾丸


 スタチンが、強力なマーケティングは薬物治療を支配しうるというケーススタディで、こんにちのビッグファーマの最悪の例を体現しているとすると、この章の話はいい解毒剤になるだろう。この発見は、昔ながらの献身と科学的な利他主義と、寛大な友情によって成しとげられた。そしてその結果、世界中の人への贈り物になった。非常に正確で、強力で、安全なこの薬物ファミリーは、大きく成長しており、薬物治療に関する私たちの考えかたを変化させつつある。


 「モノクローナル抗体」という言葉は、なんだか聞きなれないかもしれないが、バラバラにしてみたらそうでもない。「モノ」とは「モノトーン」みたいに、ひとつという意味だ。「クローナル」はクローンを作ること。バーブラ・ストライサンドのクローン犬みたいに、オリジナルと遺伝学的にまったく同じコピーだ。そして抗体は感染が起こったときに体内で戦う分子のことである。たとえば、白血球は体内に侵入した異物と戦うときにこれを放出する。抗体は血中の誘導ミサイルみたいなもので、細菌やウイルスを認識してロックオンし、あなたの身体から排除するのに役立つ。だからあなたの体内にはそれが備わっている。つまり、モノクローナル抗体とは、白血球のクローンによって作りだされる誘導ミサイルなのだ。


 なぜ、それが大騒ぎするほどのものなのか。


 このモノクローナル抗体こそが、真の魔法の弾丸にもっとも近いものだからだ。


 現在、もっともよく売れている薬剤トップ一〇の半数がこのモノクローナル抗体である。それらの薬の学名の後ろには、「マブ(mab、Monoclonal Antibody[モノクローナル抗体]の略)」が付いているので、名前をみればそれとわかる。たとえば、自己免疫疾患薬のインフリキシマブ(商品名レミケード)、ガン治療薬のベバシズマブ(アバスチン)、乳ガンのためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、ガン治療薬のリツキシマブ(リツキサン)などがある。なかでもトップはアダリムマブ(ヒュミラ)で炎症性の疾患を治療するために使われているが、使える疾患のリストはどんどん長くなるいっぽうだ。これらの薬は何十億ドルもの売り上げをたたきだしている。


 さらに多くのモノクローナル抗体がまだ続々と登場しつつある。


 この薬のすべて――白血球のクローンや特定の疾患を標的とする抗体、巨額の売り上げ――は、あなたの身体のとてつもなく複雑で絶対に欠かすことのできない部分と関連している。


 それは免疫系だ。私が学校に通っていた一九七〇年代後半は、免疫についてわかっていることはずいぶん少なかったので、私にとって免疫系は、LSDでハイになったルーブ・ゴールドバーグが作った、玉を転がして動かすからくり装置みたいに思えた。プレイヤーが多すぎるようにみえたのだ。やたらと凝った恐ろしく絡まりあったクモの巣みたいに、器官と細胞と受容体と抗体と信号と経路とフィードバックと遺伝子と酵素カスケードがあなたの安全を守るためにみな一緒に働いている。


 現在、以前とは比べられないほど多くのことが解明されており、私にとって免疫系はいまでは、交響楽団のような印象だ。それぞれのプレイヤーは異なる音を出すが、演奏している曲は同じで、壮大な音楽を作りだしている。


 免疫系はどういうわけか、あなた(とあなた自身の細胞)とそうでないものを区別する方法を知っている。何十億もの異なる異物を認識するだけでなく、白血球に指示を出して、特定の標的にくっつくように綿密にデザインされた抗体を数多く作らせる。その後、免疫系はそれらの侵入者それぞれを何年間も何十年も覚えているのだ。


 これこそが、レディ・メアリー・モンタギューの人痘接種が作用した仕組みだ。侵入してくる物質の少量を患者にさらし、その侵入者を認識して覚えるよう免疫系を刺激する。そうすれば、何年かのちに、ふたたびその感染が起こったとき、最初の刺激がないときよりもずっとすばやく免疫応答の手はずを整えることができるのだ。その結果、あなたの身体は守られる。


 けれども、細胞はどのようにして敵を記憶しているのだろうか。どのように侵入者を認識し、あなたとあなたでないものを区別しているのだろうか。免疫系はどのようにして、これまで自然界に存在していなかった何百万もの合成化学物質を含め、本来あなたではないすべてのものに反応できるのだろうか。私たちは、この注目すべき系の層をひとつひとつはぎとって、免疫系の深い秘密を明らかにしつつある。それでもまだ多くが著しく難解で、果てしなく魅力的だ。何世代もの科学者の関心を引きつづけるのも不思議はない。


 本当に驚かされるのは、このシステムがたいていはすばらしくよく作用しているということだ。免疫系は、ときにあなた自身の細胞を侵入者とみなし、防御を開始する自己免疫疾患や、侵入者に過剰に反応するアレルギーを引き起こすし、ウイルスやガン細胞の策略にだまされることもあるし、決して完全無欠ではないが、ほぼ完璧に近い。


 いまも免疫は完全な監視モードで、熱心にあなたの体内で働き、侵入者をひっそりと偵察し、防御を開始して、異物を排除し、あなたを健康に保っている。免疫系の重要な部分の大半は、二〇世紀のなかばに特定され、科学者は分子レベルでそれらがどのように共同で働くのかを理解し始め、疾患がいかにして免疫系のスイッチをオンにするのか、どのように疾患が進行するのかを学びつつあった。

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