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「最高の自分」をつくる秘訣
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生き方・教養
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まえがき

『「最高の自分」をつくる秘訣』
[著]渡部昇一 [発行]PHP研究所


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 出世コースに乗っている人には人生論や処世論は通俗的に見えるらしい。サミュエル・スマイルズの『自助論(セルフ・ヘルプ)』はイギリスでは聖書に次いで多く刷られた本だと言われるが、当時のイギリスの上流階級──イートンやハローのような有名パブリック・スクール(私立学校)からオクスフォード大学やケンブリッジ大学に進んだ貴族たち──は決して読まなかったであろう。そういう青年たちには家柄や学閥からの強力なコネが縦横に張りめぐらされていた。父とか、伯父さんとか、父の友人とかの話しを聞いておれば、議員や大臣になるノウ・ハウは(おのず)から明かで、スマイルズの助言など全く必要なかったであろう。日本でも大名や将軍の子供は、大名や将軍としての心得を教えられればよいので、町人の家訓などに関心はなかったはずである。


 ところが明治維新になり、既成の出世コースが見えなくなった。その時に『自助論』の翻訳が敬宇先生中村(まさ)(なお)によって『西(さい)(ごく)(りつ)()(へん)』と題して出された。明治時代に志を立てた青年でこの本を読まなかった者はないと言われるほど広く読まれた。スマイルズの助言や忠告が自分たちの人生を考えるのに役に立ったからである。


 しかしそのうち日本にも出世コースが踏み固められてゆく。戦前で言えば、旧制中学─一高(旧制高校)─帝大(特に東大)のコース。陸軍幼年学校─陸軍士官学校─陸軍大学校と海軍兵学校─海軍大学校などという軍関係のコースなどである。こういうコースに入ることができれば、人生における大問題である就職や出世などがほぼきまってしまうような感じになった。スマイルズの助言や忠告は無用で、入学試験突破の方法が身につけばよい。ひとたび出世コースに乗ってしまえば、上役と下手な喧嘩をしたり、重病にかかったりしなければ人生の(たん)(たん)たる道が開けているからである。


 ところがこのコースに乗らなかった人はどうするか。たとえば旧制中学に進めなかった人(戦前は経済的に中学に進めない人が多かった)、あるいは中学は卒業したが更に上の学校には経済的理由などで進めなかった人が、志を立てた時にどうするのか。書物によって教えを受けるのだ。(おそ)()きながらスマイルズを読んだり、幸田露伴──この人も中学を卒業しなかった──の『努力論』を読んで自分に人生の知恵をつけるより仕方がなかったのである。


 実は私の人生の上の師と呼べる佐藤順太先生は旧制中学に行かなかった人だったし、神藤克彦先生も旧制中学からすんなりと旧制高校・大学に進まれた人ではなかった。だから担当の学科を超えて私の人生に大きな影響を与えて下さったのだと思う。


 つまり私も出世コースに乗っていなかったのである。旧制中学や新制高校にいた頃は、まだそのコースが少し見えた。私は一応、石原莞爾や大川周明の出た名門校の優等生総代で卒業しているのだから、名門の官立大学に入るのが人生の王道のように思われていたのである。しかし私は当時は学生数が五百人ぐらいの小さな塾のような上智大学に入った。卒業した先輩で世間に知られるほど「出世」したり名を挙げた人はまだ一人もいなかった。これからの人生の筋道が具体的に見えないのである。そこで定石通り、スマイルズを読み、露伴を読み、本多静六を読むという風になった。つまり人生の指針となるヒントを本からいただくことになった。


 その後、大学の教師になってからも、人生論や処世の本に対する興味は持続した。その方面の本も自分の体験をもとにして書いたり、また出世コースに乗ってない人の人生に役立つと思われる本の翻訳をしてきた。それは、出世コースに乗っている人から見れば通俗的と言えるものであり、俗物のやることであるように見えるであろう。しかし、私は自分の人生をふり返って、そういう本は役に立ったという実感を持っている。


 そうした私の著作の中から、PHP研究所の若い編集者である小林英史氏が、「いい発言だ」と思われたものを拾い集めて下さったのが本書である。現代は再び第二の開国とか、グローバル化の時代とか言われて出世コースが見えにくくなっているようだ。これからの人生に対して何らかのヒントを求める人に少しでも役に立っていただければ幸いである。



 平成十二年六月 黄梅蒸溽の候

渡部昇一 

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