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地球の片隅の物語
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ルポ・エッセイ
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うまい話は怖い話

『地球の片隅の物語』
[著]曽野綾子 [発行]PHP研究所


読了目安時間:13分
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(初出:『Voice』一九九四年十月号)



 写真は、画面いっぱいが野菊のような白い小花で覆われている。そこに二人の人物が写っている。楽しそうに大地の上に横たわる若い母は黒いセーターに黒いスラックス、そして長い真っ直ぐな黒髪。


 彼女は両手でエスニック模様の服を着た小さな子供の両手を支えている。ほんとうは赤ちゃんと呼ばなければならないのだが、この子供はしっかりした存在感のある表情をしているので、子供と呼びたいくらいだが、記事によると八カ月のアイラという女の子である。目下のところ、アイラにはふさふさと生えている毛の気配はない。しかし賢そうな視線と立派な耳たぶが印象的である。


 この若い母はジュリア・ゲイツ、三十二歳のイギリス人である。新聞記事は次のような意味の文章で始まる。

「ジュリア・ゲイツは、足をばたばたさせながら笑い声を立てている赤ちゃんを抱き上げると、しっかりと抱き締めた。彼女は優しく赤ちゃんの柔らかい髪を愛撫したが、その顔は嬉しさでいっぱいだった。

『私はほんとにこの子を愛してるんです』


 母が初めての子供を誇らしげに見せているこうした光景は、数百万の家庭で繰り返されている光景である。


 しかしジュリアにとっては一つだけ、重大な違いがあった。彼女は決して赤ちゃんの笑っている顔を見ることもできなければ、喜んで笑っている声や不機嫌で泣いている声を聞くこともできなかった」


 ジュリアは聾で盲だったのである。


 だからジュリアは、いつか児童福祉局のエキスパートが来て、八カ月のアイラを連れて行ってしまうのではないか、と恐れている。長い目で見れば、ジュリアは子育てをうまくやっているにもかかわらず、である。


 ケート・アイアンサイドという女性記者は書いている。

「私たちは合衆国中をいっしょに旅行した。聾盲者用の特別電話が私たちの家にあったので、毎週電話で話し合っていた」

「こういうおしゃべりの中で、私は彼女が、福祉関係の責任者と恋に落ちたことを聞かされた。どんなふうにして初めて会い、どんなふうに最初の夜を過ごし、それから妊娠し、それを知った彼が、突然、乱暴に彼女を捨てたか、その経緯も聞かされた」


 このような素晴らしい電話を私はまだ見たことがないのだが、記事によるとブライユ点字を打つ形式を使ったコンピューター電話だという。

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